7話 ワイルドボア
今回はカストル視点があります
夜、村の近くの山では、全速力で山道を下る二つの物体がいた。片方は、僕ことセレンで、もう片方は大きな猪だ。
前を走る僕を、後ろから追いかけてくるのは、大きな猪。たしか、村の大人達はワイルドボアと呼んでいた。この時期によく現れて、肉質よし、味もよしで美味しい食材として食べられていた。
僕も何度か食べたことがあり、その時は美味しいと感じていたのだが……。ちらりと後ろを確認すると、勢いよくぶつかったのか、数本の木がへし折れている。そして、へし折れた木の先にワイルドボアがいた。
こんなの聞いてない!!こんなに強いなんて。
こうゆう時、お話の中では、パーっと簡単に倒せる筈なのに、なんで倒せないんだよ!!
いや、理由は分かっている、怖いんだ。僕は今、あのワイルドボアに恐怖して逃げる事しか出来ていない。足が動くなだけまだマシなのだろうが、武器を使い戦わなきゃ、生き物を倒す事など出来ない。
この隙に、出来るだけ遠くに!
ワイルドボアが体勢を整える前に、出来るだけ遠くに逃げなければならない。先程は運良く躱せたが、次も躱せるとは限らない。それに、足の速さでいえばあちらの方が上だ。このまま、止まっていたら差がどんどん縮んでしまい、打ち当たる事だろう。そしてその場合、最悪は……死ぬ。
僕は、ぶつかってしまった時の想像をしてしまい、ぶるりと、身体を震わせる。
「うわっ!!」
気がつくと、山道から外れてしまっていて、急斜面を下っていた。僕の小さな身体では、急斜面に耐えられる筈もなく、ゴロゴロっと転がって、木に顔を強打し蹲る。
「っぅ……」
鼻の骨が折れたのか、鼻から血がダボダボと流れて、その場で顔全体を抑える。なんとか鼻血の勢いを弱くすると、ガサガサと音が聞こえた。
音が聞こえた方を見ると、そこからワイルドボアがのっそりと現れた。
今の僕は酷い顔をしているだろう。自分でも分かる程、顔が歪んでいる筈だ。
足が震え、遂には立つ事が出来なくなり、尻餅をついて倒れてしまう。ワイルドボアはそんな僕を見ると、勝ち誇ったかのように鼻を鳴らし突進の構えを取る。
あぁ、怖い。また死ぬ。ちゃんと父さんとケイオスおじさんの言葉を聞いていて、10歳まで待てばよかった。
そんな事が頭に思い浮かび、死にたくないという自分がいるが、何処かに、もう充分頑張ったという自分もいる気がする。
最後には、一度死んだ命だから元々無いのと一緒と判断する。
そして、全てを受け入れて覚悟を決めようとすると、突然草むらからもう一つの人影が飛び出してきた。
「セレン!!」
飛び出してきた人影は僕の名前を叫ぶと、持っていた剣を振り下ろし、ワイルドボアの首を切り落とす。ワイルドボアは断末魔を叫ぶ暇もなく崩れ倒れた。
ワイルドボアを倒した人影は剣を腰の鞘に収めると、近づいてくる。僕はその人の顔を見ると、見覚えのある顔だというのが分かった。
「とう…さん……?」
父さんは僕に対し怒ろうとしたのだろうか、一瞬怖い顔になったが、次に僕の怪我を見ると、酷く辛そうな顔になり、大丈夫か?お母さんも待ってるから帰ろう。とだけ言い、僕を背中に背負うと山を下り始めた。
山を下り村の前につくと、お母さんが村の入口で待っていた。お母さんは僕と父さんに気づくと駆け寄り、父さんの無事と僕の無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろしていた。
父さんは、何も言わなかったが、お母さんは僕に、村の外に行っちゃダメって言ったでしょ!心配させないで!と言い、一晩中怒り続けた。そして最後に本当に無事でよかったと言い、抱きしめるのであった。
僕はそれをしっかりと聞き、最後に迷惑をかけてごめんなさいと謝る。お母さんは、しばらくは安静にしてなさい。と言うと、全員でベッドに戻り、夜が開ける頃に眠りにつくのであった。
☆☆☆
カストル視点
夜、トイレに行きたくなり目を覚ますと、誰かがいない気配を感じた。そこで横に寝ている筈のファノンとセレンを見てみると、セレンがいなかった。
最初は、セレンもトイレかな?と思ったが、トイレに行ってみると違う事に気づく。俺は慌ててファノンを起こし、セレンが何処行ったか知らないか聞くがファノンも知らないという。
「えっ、セレンが家にいないの!?」
「あぁ、トイレかと思ったんだが、居ないんだ!!」
ファノンは起きると、家中を探し始めた。その間に俺は村の中を探しに行く。
「おーい、セレーン!出てこーい!!何処だー!!!」
村の中を駆け回りながら大きな声で呼ぶが、返事がない。焦り始めた頃、家の中を見ていたはずのファノンが駆け寄ってきた。
「カストル、あなたの仕事道具の一部が無いの!!」
ファノンはそう言った。
何だって?仕事道具が無い?まさか……。
悪い予感が頭を過ぎる。夜ご飯を食べた後、セレンは確か剣を教えてくれと言っていた筈だ。俺は10歳になったならと言い、セレンも分かったと言っていたが、もしもあれが分かっていなかったとしたら。もしくは、分かったが、納得してないとしたら……。
セレンは賢い子だ。あの年にして大人と変わらない頭脳を持っている。だが、子供というだけあって、夢を見がちだ。夢を見るというのはいいのだが、時としてそれは危険なものとなる。それが、魔物狩りの時だ。魔物は後少しという場所まで追い詰めると、最後の力で暴走し、暴れる事が多い。その為、魔物を狩る時は最後まで気を抜くなとよく言われる。
セレンにはそこまで魔物を追い詰める力はないが、それはそれで襲われたら危険という事を指している。それに、セレンはやたらと剣や魔法について知りたがってたし、魔物に関しても興奮的な反応を見せていた。恐らくだが確実に魔物を狩りに行ったのであろう。そして、俺に見せることによって剣を教えてもらうために。
くそ!俺が原因じゃねぇか!!もっと、ちゃんと魔物が危険な事を話しておけば……。いや、今更後悔したって始まらない。今はセレンを救出する事が先だ。
一度家に戻り、剣と軽鎧を装備し、準備を整える。その時に、黒鋼の短刀と、小さなランタンが見当たらないことに気づいた。これで確実に魔物狩りに行ったことが分かった。
「行ってくる」
「あなた、気をつけて」
「気にすんな、すぐにセレンと戻ってくるさ」
愛するファノンにキスをすると、恐らく向かったであろう山に向かって、急いで走るのだった。
山道を走っていると道の脇にランタンが落ちているのが見えた。俺は、ランタンを拾うとセレンが持っていた物で間違いない事に気づく。そして、落ちていた場所付近には、何かが急斜面を駆けて行ったであろう跡も残っている。俺はランタンを腰に掛けると急斜面を急いで下るのであった。
途中、足を滑らしてしまい、尻をついて滑り落ちてしまった。落ちた先は草むらで、草の葉が身体にチクチクと刺さり、地味に痛い。何とか起き上がると、セレンがワイルドボアに追い詰められているのが見えた。
俺は、剣を抜き構えると、一気に草むらから飛び出し、ワイルドボアの首目掛けて剣を振り落とす。剣は、吸い込まれるかのようにワイルドボアの首を狙い、切り落とすと、地面にまで、勢いよくぶつかってしまった。ギィィィン!と地面に弾かれ、地味に手が痺れるが、それをセレンに気付かれないように、剣を鞘に収めると、セレンに近づく。
「とう…さん……?」
どうやらセレンは俺が助けた事に今気がついたらしい。俺は、村の外に出て何をしていたんだ!と怒ろうとするが、次の瞬間セレンが怪我をしていることに気づいた。
あぁ、もっと俺が早く助けられていれば……。
自分を責めたくなるが、今は夜で山の中。いつ他の魔物が現れるか分からない。そのためセレンに、大丈夫か?お母さんも待っているから帰ろう。と言い、背中に背負うと山を下り、村へと帰るのであった。
皆さん、こんにちは。僕です。
今回は早いです。実は前回のお話を書いたあと、興が乗りましてパパーっと書いたのがこちらになります。
本当は、1週間後に更新する予定だったんですが、出来る時にしとかないと、また忘れてしまいそうで、すぐに更新することになりました。
次回に関しては未定ですので、しばらくお待ちください。