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バベルの登塔者  作者: Crowley
一章 どこまでへも続く道
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忘却のち門出。

第二章を始まります。今度はもっと延ばしたい。

暗い。一寸先は闇なんてものじゃない。世界から孤立した幻覚。そんなものは関係ない。右も左も分からない。どこも東でどこも西。僕が今立っているのは上?それもと下?空は地面だ。暑くもなく寒くもない。凍えるような暑さに茹だるような寒さ。なにも聞こえない。音って何?声って何?何も匂わない。あれ鼻はどこ?体を触る。動けたんだ。モノはあるけど何も感じられない。なにさわってるんだ?今目を瞑っているのか?瞼は閉じられた感覚がない。指で開いて何もない。そう言えば瞼ってどこにあるの?この腕は本当に僕のものなの?疑念ばかりが募っていく。右手首であろう位置を噛み千切る。痛みはない。何の感覚もない。吹き出た血糊は温かい?一歩足を進める。もう一歩。もう一歩。そしてさらにもう一歩。前進しているの?後退しているの?歩き続けて何かにぶつかる。材質はコンクリート。こっち側には無いものだ。こっちってどっち?その何かに触りながら伝ってまた歩く。平たい?円い?わからない。方向転換の地点につま先で一つ一つ違う形の穴を掘る。歩きづらいな。空気の流れが突然変わった。感覚が蘇らずとも気配が漂っている。ちょうどいい。聞きたいことがあったんだ。




ここはどこ。私は───。あなたは誰?


あやふやな存在は何処へ?






───────────────────────






んっ……………アァ……んあ?れ?


見慣れない白い天井に、周りをみると窓から差し込む光。開いた窓から吹いた風で白いカーテンが揺らぎ、小鳥のつがいが飛び入り椅子に寄りかかったまま寝ている女性の指にとまり、イチャつきながら飛んでいく。白を基調とした清潔感のある部屋に、いつも?と異なる寝間着を着た自分。


「どこ、ここ。つか白っ。目ぇチカチカするな。」

「んんっ……ふぁあ……おはよう、あなた」


あ、あな、な、な、あな、た?俺はいつから結婚していたんだ?


すると、フローラは大きく伸びをした。今まで見ていた夢の話を少しだけ話してから昨日の事について話し始める。


「もしかして、憶えてないのかしら?グラスエル平原の一戦のあとこと。」

「グラス……エル?」

「あぁ、あそこ一体の平原の名前よ。それより、いつ見ても凄い威力ね、あの魔法。また今度、」

「そう言えば。俺は、空から、降りてきて、ってえっと、え?そこから先がない?」

「どうしたの?忘れちゃった?」

「いや、忘れたんじゃない、消えた。すっぽりと、何かが降りてきた辺りから、全部。」


昨日のことを時系列を遡る形で思い出す。何かが降りてきた、その前に足が壊れた、逃げ出して助けを呼びに、


「カルゼさん!」

「きゃっ!どうしたの?突然大きな声だして。」

「いや、カルゼさんが、それにリノとナルも!」

「深呼吸して、ゆっくり言って?何があったの?」


それからカルゼさんのこと、遺跡のこと、何もかもを話した。するとフローラは少しの間瞑目し、腕を組ながら何かを考え始めた。おぅ。胸やべえな。


「つまり、あんなに殺し(愛し)合ったっていうのにすべて忘れてしまったと?」

「まぁ。そういうことになりますかね。」

「酷いじゃない!そんな事ってある?!まぁ、事実、そうなっているのだからしょうがないのですけれど。」


その後、彼女から無くなった昨日の記憶だけは教えてもらった。どうやら魔法を使って殺せはしなかったが、撃退する事には成功したらしい。そしてマリオネットの糸が切れたように崩れ落ちた所を、フローラが自宅に連れてきてくれたらしい。


近くを少し見て回ったらしいのだが、あったのは数々の鳥のアルビノとその死臭。少女二人の地面に座した首。黒く焦げて判別が出来ない人一人の左腕のない焼死体。落ちた焼けた左腕。粉々になった数々のゴーレム。


「う、うそ、嘘だそんなの。だっ、だってカルゼさんは俺に邪魔だって、足手まといって!それに!それに………ルナも、レナも居るんだよ?そんな、死ぬわけ、そんなわけないじゃないか!」

「あなた、落ち着いて!」

「落ち着いていられるか!俺がもっと早く街に着いてれば……じゃなきゃ、あそこに残ってさえいれば!」

「あなた………」


状況的に焼死体はカルゼさん、生首はリノとナル。アルビノとゴーレムは大軍で襲ってきた奴ら。そこまで聞いて、ヴォルフは分かり易く狼狽する。慰めるようにフローラは背をさすりながら語りかける。


「あなた……そのカルゼ?さんはあなたを庇うために街に助けを呼ぶように言ったんじゃない?それに言っちゃ悪いけど、あそこからだと獣車でも使わない限り1日でガリア街……街に着かない上に着いたって真夜中でガリア街の門は閉まって入れないの。」

「そんな………クソッ………うぅっ………うぁぁぁぁぁぁぁ!」


現実を受け入れるまでにそれから半日かかった。






「大丈夫?落ち着いた?」

「あぁ、もう、大丈夫。落ち着いた。」


夕暮れ時に外の街並みの喧騒が聞こえてきた頃、ヴォルフは落ち着きを取り戻した。改めて周りをみると、1K程の広さの白い部屋にベッドとキッチンと机やクローゼットがあるだけの小さな一室だった。


すると、玄関の方からノックが聞こえてきた。フローラの方を窺うと何やら顔をしかめると紙に、今から筆談をする事と物音を一切たてないようにする事を要求され、素直に首肯する。


〔あなたはこれからどうするの?〕

〔俺は、カルゼさんとリノとナルの仇討ちする〕

〔それと、カルゼさんの娘の二人にカルゼさんが殺された旨とそれに対する仇討ちをする旨を伝えるようかと思う。〕

〔住んでいる場所は分かるのよね?〕

〔あぁ、だから一人で行ってくる。〕

〔何を言っているの?私も行くわよ?もうあなたから離れたくないの。どうしてもって言うなら、私ともう一度愛し合ってからにして。そうすればまた、あなたを待ち続ける事が出来る。〕

「すまない、それは出来ない………っあ。」


思わず声を出してしまうと、玄関のノックが激しくなり扉がぶち抜かれ、玄関から数人の兵士たちが乗り込んできた。


「至急至急!警備兵に通達!囚人No.52683『狂愛』発見!『狂愛』発見されたし!応援を求む…………がぅぁぁぁ!」

「ちょっ、なにやってんの?!」

「しょうがないじゃない。じゃないと私達……私が殺されてしまうもの。」


乗り込んで来た兵士達をフローラは流れるようにスルスルと首筋を切り裂いていき瞬く間に全滅して部屋中が血で赤黒く染まる。


彼女に訊いてみると、今は追われている身なのだと言っていた。更に問い詰めてみると、彼女は脱獄囚らしい。捕まえるのに記憶の無くなる以前の俺が大いに貢献したらしいのだが。


「それで、私をあなたが叩きのめしたのよ?その時にあなたが好きになって、あなたに殺され(愛され)たいなって……うふふっ」

「いや、普通恨むだろう、そこは………はぁ、どうにかしないとなぁコレ。つか腹減ったな。」

「何か作ろっか?それとも………私にする?」

「いや、今はいいよ。あとフローラは食べない。」


殺しの直後に食事の話が悠々と出来るからこそ『狂愛』だなんて物騒な二つ名がつくのだろうが。


ひとまず兵士たちの処理と、既に呼ばれたであろう応援が来るまでに逃亡をしなければならない。


ヴォルフは未だ気付かない。人の死が目の前で起こっても冷静に対処しようとしていることに。そして、腹の減った理由とフローラよりも先に食事について考えた事に。






空が白みどこからか鶏が鳴き始めた頃、ヴォルフとフローラはルナとレナのいる村、ヴェット村に到着した。


フローラは早く報告を済ませて帰りたい(家は兵士の呼んだ応援がいて帰る場所はもうないのだが)のかキョロキョロしながら道中で教えた条件の合った人を探している。


その条件とは、ルナが暗緑色のポニーテールで背が少し高め女子、レナが銀朱の右アシメのショートヘアで背の低い女子と伝えている。


「つかなんで来てんの?」

「いいじゃない、殺し(愛し)合った仲じゃない?」

「ずっと思ってたんだけどなんかルビおかしくね?」


しばらく気にせずに放置していたがここまできたら流石に放置は出来ず、追求するものの暖簾に腕押し、糠に釘。のらりくらりとかわして知らん顔をする。


村をさまよっていると日が真上を通り過ぎたころ、フローラが指をさして条件に合った子供がいると教えてくれたので、その方向を見てみるとルナとレナが喧嘩をしていた。


「ルナ!レナ!」

「この前の!」

「お久しぶりです!………あの「その女性は誰?」いい加減割り込むのやめてよ、みっともない………」


何故喧嘩をしていたか聞いてみると、喧嘩ではなくカルゼさんの教えた対人訓練の途中だったらしい。身を守る護身術だとか言っていたが、あのレベルだと最早訓練なんてものではないと思う。


「完全に取っ組み合いだったからびっくりしたよ」

「まあ、父さんは殺す気でって言ってたけどね。」

「殺しちゃダメだろう……チラッ」

「何で私を見るの?」






*






家から送り出して少し経っただけなのにあの人は『ヴェア・ヴォルフ』と名前を得て何故か戻ってきた。


外では何だからと言って家に入ってもらったけれど、お父さんとどこかに行ってからいつの間にか美人の色気のある女性も連れているし。何だかがっかりです。


そう言えば、お父さんはどこにいるのでしょうか。てっきりしばらくの間はずっと一緒に生活を送っていると思っていたのですけれど。


「そうだ。そう言えばお父さんはどこに「死んだよ」………え?」


死んだ?え?なにが?えっ?聞き間違いかな?そうだよね。うん。絶対そう。


「すまない……死なせてしまった………俺が……俺がっ!もっと……何倍も強ければっ………!」

「え?じ、じゃあ、ほ、ほんっ、本当に、死ん、だの?」

「しょうがねーよレナ。私だって信じたかないけど、学者ったって元は冒険者なんだ。弱肉強食の世界から逃げ出した人間がたいそうな名前を付けて、戻ってきたんだ。弱い人間が生きていく事だって大変なんだよ。」

「でもっヴォルフ君が死ねばお父さんは「レナ!……父さんがなるって言ったとき、レナは賛成した。してしまったんだよ。勧めたのは私だし、私達にも責任の一端が」うぅっ…あぁぁぁぁぁ!!」

「ちょっ、レナ!」


ルナの制止を振りほどき、家から飛び出していく。様々な感情を垂れ流しながら視界を歪ませて頬を濡らして駆けていく。レナの慟哭は村中に響き渡り、前にも後にも無い感情の爆発。あてもなく走りつづけて辿り着いたのは、


「ごめんね…お母さん。もう泣かないって約束したのに……お父さん、死んじゃったんだって。」


「うん。……それで、ヴォルフ君のせいでお父さんが死んじゃったみたいに言っちゃって……」


「それに!………それに、ヴォルフ君が代わりに死ねばって言っちゃった………」


「うん……でも、許してくれない……と、思う。」


「だって私にもお姉ちゃんにも少しは責任があるし………それに目の前でお父さんに死なれたヴォルフ君だって傷付いてるはずだもの……」


「え?自分で自分を?そっか。うん、頑張るよ」

「はぁ…はぁ…レナ……やっと、見つけた……」

「ヴォルフ君?!」


それから私はヴォルフ君にお父さんの最期とか色々な事を聞いて、昔のお父さんの事も話した。家にいたお父さん、仕事から帰ってきたお父さん、遊んでくれた、看病してくれた、沢山の事を教えてくれた、洋服を買ってくれた、これまでの色々なお父さんを話した。


たったそれだけで、空は赤く染まり始め、日の反対側では藍色に染まり始めて星がいくつか見受けられた。


「そう言えば、レナは何でここに来たんだ?」

「何でって、お母さんがそこに……ってあれ?お母さんは?」

「ん?来たときから居なかったけど?この家に住んでるの?」

「あれ?ここ、どこ?」

「はぁ?村の隣のたしか『ハルフ森林街』だったかな?」


ハルフ森林街ってあの?お姉ちゃんは幻かどうのこうのって言ってたけど。


例え、先ほどまで見えていたものも、聞いていたものも、感じていた温もりも。全部が幻で包まれて偽物だったとしても。全部が全部って訳じゃないような気がして。


「ありがとう、お母さん。「ん?」何でもない。ヴォルフ君、さっきはごめん。それともありがとう。」

「なにが?まぁでもいいよ、あれぐらい。一番つらいのは、ルナとレナだからね。」


ちゃんとヴォルフ君に謝罪と御礼をしてから一緒に森をでる。お姉ちゃんからは叩かれたけど、これからはもう少しだけ、強く生きていこうと誓った。






*






レナを連れ戻した後、ルナに少しだけ家族のことについて聞いてみたら、苦虫を潰したような顔で承諾してくれた。


その昔、カルゼさんには奥さんがいた。二人との間に子供ができることがなく、カルゼさんは自分が仕事に行っている間に孤児院から()()()を貰ってくるように言ったらしい。


カルゼさんは男系の家族では肩身が狭いだろうと思って、帰りに孤児院から女の子をもらい受け、家について子供をみるとあら不思議。奥さんが妊娠しているではあーりませんか。正真正銘二人の子供でとても驚いたそうだ。


産まれた子供は元気な元気な女の子。この時のカルゼさんは複雑な顔をしていたらしい。それもそうだろう、一瞬にして女系の家族になって肩身が狭くなったのだから。


それでもカルゼさんは奥さんの『リナ』に続けて、貰ってきた子供を『ルナ』、産まれた子供を『レナ』として幼い頃は死ぬほど甘やかし過ぎて、普段温厚な奥さんにぶん殴られたらしい。ついでにいうのならば、右ストレートが顎にきて少しの間仕事を休むほどだったらしい。


ルナが三歳、レナが一歳の春、奥さんは山から降りてきた猪に当たるはずの毒矢が運悪くアキレス腱を切り、後遺症で歩けなくなったそうだ。


少しずつ、少しずつ、抜ききれなかった毒が全身に回り、晩年は首から上を動かすので精一杯だったらしい。そして、ルナが四歳、レナが二歳になる三日前の晩。彼女は息を引き取った。


ルナはこの事、つまり出生の秘密と母の結末はカルゼさんから聞いたもので、レナはこのことを知らないのだそう。


ルナはレナに絶対に話すなと言っていたが、こんなに重い話を軽々しく、それも父親が死んだ報告をしたあとにできる話ではなかった。


この日はフローラと共に二人の家に泊めさせてもらう事にした。というかならざるを得なかった。まぁ、その代償にフローラとの(ほぼ無に等しい)関係を根掘り葉掘り聞かれた。


二人とも、空元気ではあるが、それでもだいぶ落ち着いたようなのでそれはとても良かったと思う。






───────────────────────






翌朝、俺は書き置きを残して二人のいる家を後にした。尤も、フローラは置いて来たが。しかし、あれは危なかった。主に理性が。


夜這って布団に入ってくるやいなや、寝間着の下を脱がしてくるのだから。何とか交渉して添い寝で我慢?してもらったが、肩甲骨周りに丸い低反発のクッションを押し付けてくるのをやめてほしい。アレだって勘違いするじゃないか。


未だ暗いままの空を仰ぎこれまでの、といってもたかが数日の話だが、振り返りながら当分の予定を考える。


一.三人の復讐をする。

これは出来る時でいい。冒険者で名を挙げれば協力者ぐらいは見つかるだろうし、情報を集めているってバレたら恐らく逃げられる。これは勘だがカルゼさんを標的にしたものではないと思う。それなら俺を追う意味がない。それに俺達の行った遺跡が物凄く価値のあるものだと言うこともある。恐らく俺か遺跡の中の物だ。だからこの勘が当たっていれば黙ってるだけで向こうからやってくる。はず。


二.昔の記憶を探る。

これは一と関連して、俺が記憶を失ってからは殆ど人と話してない。故にこそ恨みや逆恨みもない。なら、前の記憶。つまり以前の俺に用があるはずだ。まぁそんな事よりフローラの話を聞いて少し昔の俺について興味が湧いてきたのが一番大きいかな。


まあ、こんなところだろうか。


木々からうっすらと影が伸び、地平線から太陽が顔を出している。


遅くなったけど第二の人生の始まりだ!

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