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バベルの登塔者  作者: Crowley
序章 消えた記憶、変わる人生
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追憶のプロローグ

遅くなりすまない。

『アルビノ』とは、地形や人為的な問題で魔素(マナ)の大気中の循環が停滞するとマナの濃度が濃くなるマナー溜まりで発生する。


そこで生活していると多量にマナを吸収するが故に生態系には大きな影響を及ぼす。


動物は魔獣になり、魔獣は大きく巨大化し、植物は魔物化するか強い毒性を持ち始めたり、人間の場合は身体に様々な変化を及ぼす。


その最たる例として魔族が挙げられ、彼等の先祖たちは多量のマナを吸い続けながら、その環境下で生きていけるよう進化して、彼等は今の魔族となった。


因みに別の進化の結果としてエルフもいるが本人達は信仰上の理由より認めていないのと、彼等の場合は少し過程が異なっていることもあって例としては不適切である。


そして今カルゼ達が相対しようとしているのは


「『千里眼』………うそ、こんな事って………!」

「何が()えた?」

「鳥型のアルビノが十数体と、ゴーレムがわんさか。絶対五百は超えてる………ただ、ゴーレム特有のマナの流れのタイムラグがみられない。何らかの細工がしてある………」

「ゴーレムは突破出来てもって話になるのか……」


という四対数百の蹂躙、それを乗り越え段違いなレベルの超獣達。これを試練と言える程楽観視しているものはここには居ない。


四人の内二人は見た目が幼女なので見た目が人間と同一ではないとはいえ大人が子供二人を虐殺しようと見える様はさながら地獄絵図である。俺はそんな趣味はない。


「ちょうどいい、資料(盗ったもの)持って事務所まで、いや近くの街まで行って応援を呼べ。」

「いや、でも三人じゃ」

「うっせぇ、黙れガキが!本気でやんなきゃなんねぇのにテメェみてぇな雑魚が居っと邪魔なのがわからねぇか?!……すまん取り乱した。けど、言いたいことは変わらないからな?足手まといだ。さっさといって応援を呼べ馬鹿」


カルゼさんは今までになかった荒々しい口調になっているにも関わらず、安否を心配してくれる優しさがそこにはあり、それ以上俺も強くは言うことが出来なかった。


俺は一言、死なないで下さいと懇願するように小さく呟いて一心不乱に走り出した。






*






俺はヴォルフの呟きを聞いて自嘲気味に嗤った。




この世に生を受け早三十年。()()()()()を受け幾つか国に貢献し、報酬としてある程度の地位を貰った。だが、そうそう平和は続かない。こんな仕事をしていると前例は幾つもでてくる。


ひさしぶりに娘に会いに行ったら、拾ってきたらしい見知らぬ男がベッドで寝ているという娘の貞操に対する恐怖は、恐らく娘の居る家庭の父親でなくとも感じ取れるだろう。記憶がないと宣う。胡散臭い。一部隠しているところがある。胡散臭い。何かあってからでは遅いからと、ステューシーのとこに連れて行って様になっている武器の扱い。より胡散臭さが増した。


なにが目的なのか。味方のふりを続けていたが元来の性格より容易に人を信用することが出来ないが、流石にこの状況を作り出すことは出来ないと考え、疑惑は晴れたが彼にいてもらうメリットはないし、何より信用もしてない奴に自分の手札をひけらかす馬鹿も流石にしない。


リノもナルも案外彼を気に入っているようだ。仕方ない、しばらく演技は続けているか。二人に声をかけ、戦闘準備を整える。


「リノは『骸の重圧(コープスプレス)』を頼む。ナルはゴーレムとアルビノとで城壁並みの大きさで柵を。彼の方へ向かわせないように。終わったらリノのサポートへ。とりあえず俺はアルビノの機動力を削ぐ。」


そして個々で行動する。リノとナルは詠唱を始め、俺はもう一つの簡易型アイテムボックスから一振りの剣を取り出した。


それは製作者不明の剣。だがしかし、身元が不明ながらもその鋼に見惚れぬ者はいないといわしめるほどの美しい剣。


ナルが造った壁を飛んで越えようと一体のアルビノが翼を大きく広げ、


「一旦、そこでうずくまってろ」


そう言いながら高速で両翼の健をまるで豆腐を包丁で切り分けるように裂き、体をアルビノの緋で染め上げようと刃を突き立てる


「っぐ、がはぁ………………!っつー、そりゃ一筋縄じゃ………いかないわなっ!」


直前、別のアルビノに嘴で啄まれそうになるも身を捻ることで回避。しかし、突き出した嘴をそのままの勢いで脇腹に叩きつけられ、吹き飛びながら壁に激突。


打ちつけられた壁にはひびが入りカルゼは喀血した後、壁を蹴りつけ跳躍し反撃に転じる。


斬りつけ、吹き飛ばされ、視界を潰し、脇腹を数センチ抉られ、足の健を切り飛ばし、杭のような鉤爪で背中を引っかかれ、たった数分でアルビノの()かカルゼの()わからないほど膨大な()で草原を染め上げつつ、半数以上のアルビノを屍に変えた。


リノとナルは依然としてゴーレムを潰してまわってなんとかこちらも半数以上はスクラップにした。直に終わるとしても、今ここでアルビノ達が二人へ攻撃すれば二人は反応出来ずに肉塊へと


「魔獣ごときが考えることなんざ手に取るようにわかるっての!」


特攻してきたアルビノ(死に損ない)の脳を兜割りし、屍を飛び越え二人を背後に仁王立ちする。


その体は満身創痍で肩で息をするような状態になりながらも、その殺気は倍以上の体格のアルビノをもってでさえ背筋を凍らせる程に強く、カルゼは剣を構え直し


「さぁ、さっさと終わらせようぜアルビノ(○ンカス)共!どっからでもかかってこい!どっちが先に肉塊になるか、勝負してやろうじゃねぇか!「では、遠慮なく。」………っぶね!」


そう言って食ってかかると、アルビノ達の首がはじけ、刹那、誰かの刃が首へ触れ思いっ切り避けるも、浅い切り傷が一文字につけられ垂れた血が首を暖めシャツに新しい染みを付ける。


相手に向き直り警戒を解かずに相対する。自惚れではなく実際に、この国の冒険者の中でも上位に属する実力者だが、それでも気配に気付かない程にこの女性は強い。


しかもカルゼは自分より強い相手は全て頭に入れているのにもかかわらず、その中の誰とも合致しないことで不安要素が増える。


「私の名前が知りたそうな顔をしていますね。良いでしょう、教えてあげましょう。私の名前はユル。13番目のホムンクルス。それがあなたを殺したモノの名よ。」


誰何する前に彼女は、ユルは正体を明かした。小さく、ナイフを使ったのは久し振りで慣れないと呟いたのが聞こえて苦笑する。


「マジでか…………?ハッ!ふざけんなや、そりゃねぇだろ…………っ!勇者群のアサシンよりナイフの使い方巧いんじゃねぇの?」


勇者達の中のナイフ使いである『アサシン』は、ナイフ使いの中でも五本の指に入るほどで、カルゼも一度手合わせしたことがあったが、その時は開始一分もたたずに敗北した。


「私の本分は猟師兼斥候。その関係上ナイフを扱うのでできますが、基本は距離をとって意識の隙間から射殺すのが私の戦い方です。─────────あなたは私がここまで説明した理由ぐらい、容易に考えることは出来ますよね?」

「ハッ!ここまで御膳立てされちゃあ誰だってわかるわ。んで、なにが目的だ?誰を追ってきた?誰の命令で動いてやがる?何もかも全部洗いざらい話してから………死ね!」


どうやらあちらさんは()()を生きて帰すつもりは無いらしい。聞きたいことは後回しにして、俺はユルに向かって特攻する。


カルゼの目測通りならユルとはそれこそ、一分もたたずに、歯が立たずに、手も足もでずに、殺される。少なくともリノとナルは逃がしてやらねばならない。


だが、それは殺される前提でのみ成り立つ。ユルに豪雨のような激しい斬撃を浴びせる。カルゼは黙って殺られるほど優しくはない。


斬撃は衣服を斬るもののその下に細い痣ができる。ユルはまるで()()()()()()()()()かのようにいなすこともせず、斬撃の速度やパターンをよみ隙を探すそれは、鈍でただ一方的に攻撃されつづけるサンドバックのようだった。


隙を突いて急所を突いていく刃を弾いて火花をちらし、それを繰り返す一進一退の攻防。刃同士が弾かれあい徐々に刃こぼれしていき、このまま続けば本当に鈍になる。


不意にそれは訪れた。刃の破片が目に入り込みそうになり戦いの最中に目を瞑った。否、瞑ってしまった。それは一瞬の油断や余裕を見せることをした代償は大きい。


コンマ一秒の隙が出来、世界を見ていない今、揺らぐ銀色に反応できず一面に広がる草原に赤い華を散らした。


空を見上げると雲が空を覆い隠しポツポツと雨を降らした。飛び散った赤が雨と共に染み込まれていく草原ごと戦いの痕跡を抉り抹消する。






*






走る。ただひたすらに走る。走り続ける。脳内は一単語だけを繰り返して足が臨界点に達してもなお走り続ける。


人質となったセリヌンティウスの為に都に戻ったメロスのように、囮となってくれた三人の助けを呼ぶ為に近くの冒険者を呼ぶ。


ただそれだけだったはずなのに。頭にはヤバいとしかなく、走って逃げるうちに現実から走って逃げ出して三人を記憶の端に追いやる。


薄情な奴だなどと罵られたとしても構わない。そんなわけはないが、明らかに目的と行動が乖離する。


ポツリポツリと雨が降り始め、流していた涙を伴って頬を伝う。段々と強くなる雨は僅かに窪んでいる地面に水溜まりを作り靴の中に染み込んでいく。


バチンと大きな音を立てて転ぶ。突如として訪れる激痛は、遂に悲鳴を上げて千切れた脚の筋肉によるものだ。訪れる激痛がそれを物語るが、しかしそれが耐えられる。何故なのかは分からないが、本来ならば痛みで悶絶してもおかしくないはず。脳内麻薬云々以前の問題であるはず。


色々なものがこんがらがって困惑していると、顔を覗き込むようにして女性の顔が現れた。


「はぁ………っ!やっと見つけたわ!こんなところに居たのね!それも私の方に自らやってきてくれるだなんて………!あぁ、でも私の方からも捜していたのですよ?どうか勘違いなさらないでね?()()()?ウフフッこれも普段の私の行いが良いお陰ね!さぁ、一緒に帰ってまた一日中殺し(愛し)合いましよう?あぁ、誰も他にいないしもう此処で殺っちゃいましょう(ヤっちゃいましょう)かしら?私達の初めてもそうだったし、久しぶりに原点に立ち返って……………ってあら?脚がもう動かないの?なら何で治さないの?もしかしてそういうプレイもしてみたいのかしら?それなら帰ってからにしましょうか、フフッ楽しみだわ!」


眼前でマシンガンのようにしゃがんで話し始めたこの不思議な女性。先程から降り続けた雨はいつの間にか弱くなり、ウェーブのかかったロングの濡れた黒髪が雲から垣間見える光で淫靡に輝き、白く透き通ったきめ細やかな肌に、視る者を吸い込むような黒い双眸に、右目の端には泣きぼくろ、端整な目鼻立ちに、血よりも赤く潤う唇、しゃがんでいるためわかりにくいが、恐らくスタイルは言うまでもない。そしてなぜか恍惚とした表情をしている。


端的に言って美女。それも大人の魅力のある。これまた本来なら落ちているのだろうが、この状況では流石に困惑しか無い。


愛し合っ……て、え?でも殺すって……は?


心の中なんてだいたい今ものである。


「対象発見。直ちに捕縛、または排除します。」


今度は上空から声がした。先程とは全く別の女性が弓を引きながら浮いている。話していた言葉の意味をやっと理解したのと、丁度同じタイミングでつがえられた矢はヴォルフたちを目掛けて飛んでくる。


女性に逃げるように声を出そうとすると、彼女はどこから取り出したのか、見たことのない形状の剣で弾き飛ばした。飛んでいった方を見やると、鏃が包丁で切ったときの豆腐の断面のようになっている。


「貴女は誰かしら?毒矢なんか放って。私を殺そうとしたのかしら?それとも貴女も彼を殺す(愛する)つもりなのかしら?それなら殺すしかないわね。そうね。殺しましょう。そうじゃないと、殺されてしまうもの。さぁ、死になさい。天使擬き。私は貴女に殺意(愛情)を抱いているわけではないけれど、殺してあげる。」

「あぁ、『狂愛』のフローラですか。チッ、厄介な人間が来たものですね。でも、纏めて渡せばあの方の懐の足しにはなりますかね。仕方ないです。なるべく暴れないでくださいね。切り口が歪むので。」


地に伏しながら、彼女のおかげで今生きている部分は否めないけれど、彼女は完全に狂っている。それは、本能や第六感のレベルで気付く。


このままでは逃げ切れない。恩人ではあるけれど、ここでもう人生は詰んだ。ヴォルフの思考がやがて、ゆっくりと、じわじわと、間近に迫る恐怖と死により瓦解する。


向こうは弓で、彼女が変な形状の剣。弓は連射性能は悪いし、近づけはするだろう。だが、そんな弱点を向こうも晒したままにするはずもない。なにか接近戦に持ち込まれても大丈夫な策は講じている筈だ。


僅かな睨み合いの後、はじめにフローラが動いた。たった一跳びでユルに肉薄して斬りかかる。その凶刃は右首筋の動脈を斬り飛ばすかのような錯覚を魅せると、ユルは咄嗟にナイフを使って弾こうとする。


が、それがいけなかった。フローラは不適な笑みを浮かべ、勢いはそのままに()()()()()()()()()()()()。すぐさまフローラを突き飛ばし、距離をとることに成功したが、ユルはある種の焦燥感を抱く。


突然、フローラの背筋を大きな嫌悪感が駆け巡り、咄嗟に横へ飛び退くと、自分のいた地面が蒸発した。蒸発した地面へと続くマナを辿ると、犯人が


「あなた?なんで私を殺そうとしたの?」


いつの間にか立ち上がっているヴォルフは、答えず目を瞑ったまま周囲を黒々とした濃密なまでのマナを体に覆い、また球体にして衛星のように回らせる。ヴォルフは腕を突き出して






───────────────────────






…………………………ん?確か、何かが攻撃してきて、で、……………っとぉ?記憶が残ってない?


「やったぁ!起きたのね?()()()!さっきは立てたのだから一緒に殺し(愛し)合いましょう?さぁ!」


目覚めた直後に記憶が消えたことに戸惑っていると、フローラに抱き締められる。それはもう、大きく柔らかい圧力と、肩甲骨を締め付ける腕の圧力が半端ないのなんの。胸板は心地良くても肩甲骨なんかミシミシ言っている。あっ、いい匂いする。


「じゃなくて!ギブ!マジで!死ぬ!死んじまう!あ、やば、これ骨ごと逝っちまう………」

「あら、ごめんなさい。あれ?あなた?起きて!イヤぁぁ!もっと遠いとこに逝かないでぇぇ!」


いやっ、だから肩っ、止めっ、頭がっ、グワングワンっ、あっ、また意識がっ……………………




そして、またしばらく気を失うヴォルフだった。




なかなかに理不尽な気がしてならない。

これにて一章は終了。

てか、一章短くね?

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