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バベルの登塔者  作者: Crowley
序章 消えた記憶、変わる人生
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第一歩/私の生きる意味

前回より少し短いです。

カルゼさんの家のあった村を出て、辻馬車に揺られること大体3時間。街を囲む大きな壁のある街について彼と共に2人でまずは冒険者登録をする事になった。


現場まで行くには必須事項らしく、身分証となるギルドカードが無いこともあり、そのような結論に至った。


馬車の中で聞いた話によると、国のお抱えとして勤めるようにするには最低限でも銀ランクの実力はなくてはならないらしい。


世界各地に広がりつつある冒険者ギルドは国家と独立していて、冒険者ギルドの信用は一国の重鎮の信頼より重いらしく、冒険者ギルドで実力を認められれば訓練を積まずとも国王直属の近衛騎士団に入団出来る国も有るとか無いとか……


その実力は7つのランクによって分けられていて、下から順に白、灰、黒、鉄、銅、銀、金となっており、ギルドに寄せられる依頼をこなせばポイントとしてギルドカードに蓄積されて、一定まで貯まると次のランクに昇格する。まあ、よくあるシステムである。


ただし、何事にも例外はあり、少人数パーティーで魔物から街を防衛したり、国やギルドから直接された依頼をこなすと、報奨として一足飛びで昇格したりと、功績に見合ったランクが常に設定され、ギルドカードの色がランクの色となっている。


ここで俺の場合一つ問題が生じる。登録したときに必要となる名前が無い。実際は無いわけではないが、生き方を変えるのであれば親から最初に貰った宝ではあるが、変えるのがベストだろうと考えた。


「カルゼさん、俺自分の名前がわからないんだけどなんかつけて下さい」

「おおぅ、唐突に重大発言………そうだな、得物はなんだ?」

「覚えてないですね」

「おおぅ、またもや重大発言………ほんとにやってけるのかなこの子」


カルゼさんはうんうん唸りながら得物関連でいくかと、ボソッと呟いた事が原因でとりあえずギルドの隣の装具屋と呼ばれる武器と防具の専門店に行った。






「よっ、久し振りだな」

「何?」

「何でもいい、武器を見せてくれ」

「高い?」

「こいつのだからな、安いやつだ」

「裏」

「おう、先いっとくわ」


極小の単語の羅列。意思疎通を通り越して以心伝心、テレパシーのレベルではなかろうか。いかにも職人肌といった感じの人だった。………幼女であるということを除けば。


「さっきの子は、誰なんですか?」

「あぁ、彼女はステューシー・ステファニー。この店の店長だよ。あんなナリしてるけど、エルフとドワーフのハーフだから目測ではあるが少なくとも、俺の倍以上はあるな。俺が子供の時からさほど変わってないのに、装具屋の経営団体『クリエイティブ』の会長だ……まあ、簡単にわかりやすくするならギルドマスターだな。因みに、彼女も国の抱える装具屋なんだ。つまり、ここ、国立。早めに行かないと怒られちまうな、急ごうか」


………情報量が多すぎて理解できないときは何をすればいいか。勿論、妄想と愛の逃避行だ。なにからかって?わかりきった事を………現実って怖い。


俺とカルゼさんが裏庭についたすぐ後ぐらいにステファニーさんはやってきた。武器を曲芸のように頭の上に乗せながら。


一番上から落とした武器を俺の方に放り投げて、足元に突き刺さす。驚いて一歩後退るとそこへまた一つ、また一歩後退りそこへまた一つ。それを繰り返して、最後の一つを投げたときには、俺の背中に柵がついていつの間にか冷や汗をかいていた事を自覚させた。


眼前には地面に突き刺さった大剣の鋭利な長い刃が、後ろの柵に刺さった姉妹剣は衣服の両肩を一切傷つける事なく、その鋼鉄は肝と肩を冷やしていく。


目を巡らせると沢山の種類の武器がメイスやロッド、果てにはハンマーの金属部分までもが()()()()()事の異様さを物語っている。ステファニーさんはこちらを値踏みするように見つめながら、ただ一言「選択」と言った。


「オイ、ステファニー!」

「ステューシー」

「……ステューシー!危ないだろ、大事な客だぞ?ったく今ので死んだらどうするつもりだったんだよ……」

「隠蔽」

「……流石に笑えねぇな。」


カルゼさんに周囲の武器をどかしてもらい差し伸べられた手をとり立ち上がる。地面や柵以外は一切傷つけていないことから、比較にならないほどハイレベルな冒険者であった事が伺えて、敵に回せないとしっかりと細胞レベルで心に刻み込まれた。


武器選びを終えた時にステファニーさんがカルゼさんにこってりしぼられたのは言うまでもない。


「『得物選出(ウェポンズセレクト)』」


ステファニーさんがそう呟くと、突き刺さっていた武器の幾つかが光を帯び浮遊し、俺の周囲に漂ってきた後そのまま地面に落ちた。その3つうちの2つ───所謂、小刀と短剣の両方を手に取り、軽く攻撃をするときの動きをしてみる。


動きをみながら、カルゼさんとステファニーさんは「うーん」であったり、「なる程」などと唸りながら観察するように見ていた。途中から少し恥ずかしくなり始め、代わりに残りの大鎌を手に取り此方も攻撃の際の動きを軽くやってみる。そしてまた此方も2人は唸っている。


「いい動きだな………数多くと言うほどのものではないにしろ死線を潜り抜けてきたのだろうが、確実に致命を与える動きが多いな。」

「身体能力が動きの無駄を補ってる。…………あなた、元銅……いや、銀ぐらいあったでしょう?」


何故か驚かれた。まぁ記憶もないのに武器の使い方や、武器を使った動き方が一流の名に連なる人達を唸らせる程なのだ。何故もなにも無いのだが彼にとっては普通のことなので驚くしかない。


頭で覚えていなくても、体で覚えていた事には当の本人も驚いていた。因みに、ステファニーさんがあれほど流暢に話せた事にカルゼさんは一番驚いていた。






買って貰った武器の支払いをカルゼさんが済ませた時、丁度外から大きな鐘の音が聞こえた。カルゼさんは、この音を鳴らす意味を尋ねると、この音が鳴るとギルドが閉まると教えてくれた。


急いで宿を取ろうとしたカルゼさんを、ステファニーさんは無理やり引き止めて一泊する事を勧めてくれたので、お言葉に甘える事にした。


「あの、それでさっきの武器を選んでくれたときのあれって何ですか?」


夜、夕食を3人で食べていたときにステファニーさんにそう言って訊いた。彼女は心なしか自慢げに「自作魔法」と言っていたが、カルゼさん曰わく一つ作り出すだけで、相当な時間とお金を浪費するらしく、門外不出の魔法らしい。ご飯を食べながら一つ思い出したことがあった。


「あ。」

「ん?どうした?」

「名前」

「………あ。」

「何か思いついたどころか、忘れてましたね?俺も人のことは言えませんが。ステファニーさん、小刀とか短剣ってどんな人が使うんですか?」

「魔法使い。接近戦補助。暗殺者、盗賊職、剥ぎ取り。」

「………用途が基本的に暗いんですけど。俺の地元の使ってそうな人達から名前を貰いますか……そしたら、ヴェア・ヴォルフなんてどうでしょうか?」

「いや、知らんよそんなの。それでいいならそうしなさいな。誰も文句は言うまいよ。何で元の記憶の一部を隠しているのかそこは問わないさ。恐らくそこに邪な思いは含まれてはないだろうからね。それじゃ、これからはヴェア君………うーん、ヴォルフ君……だな。そっちの方がしっくりくる。」

「ヴォルフ、マヨネーズ。」

「取って欲しいと?」

「そう、早く。冷める。」


はいはいと軽く返事をしながらマヨネーズを取って渡す。


「勇者様方御一行は一体なにやってんかね?こっちの文明力がちっとだけ上がっただけで、何もしない。有るのか、有っても何なのかも分からない『世界の脅威』とやらを捜して潰そうとしてるらしいけど。」

「勇者って誰ですか?」

「うん?そっか、最近のことは知らないんだったね。確か三年前に」

「一年」

「そうだっけ?まぁそのくらいに『神託の巫女』の受けた神託が大聖堂地下の『禁忌の鎖』で塞がれたえーっと」

「『大墳墓の境界陣』」

「そうそうそれそれ。そこに『世界の危機』を救えるモノが現れるって言ってたらしくて。そしたら、2・3日ぐらいしてから境界陣から召喚されたんだと。話を聞く限りだと、『それが何かは分からない。だが、そこに平和を乱す輩がいるのなら、そこに危険があるのなら、神より継承された力を以て世界のために俺は戦う!』って王城で宣誓してたらしいんだよ。らしいっつーのは俺は仕事してたから見てないんだ。ま、結局世界の危機は未だ訪れず、数々の功績を挙げるだけで目的は一切果たしゃしない。街の人々の中じゃ英雄でも、俺らみたいな結果主義者達からしたらいい加減にしろって話。因みにこのマヨネーズとか、他にも調味料とか色々な料理を教えてくれてる一緒に召喚された戦えないらしい『調理師の奇跡』さんが、一番この世界に貢献してんだから皮肉な話だよな」


その後話に出てきた色々な事や明朝にギルドに行って気をつける事などを訊いて食事を終わらせた。


ステファニーさんは片付けが苦手なのか、キッチンやリビングなどが散らかっていたのでお礼と消化をかねて風呂の順番待ちの間片付けていると、先程カルゼさんが話していた、勇者の宣誓を大見出しにした新聞のようなものを見つけた。それとともに、勇者達の名前と顔写真、そして簡単なプロフィールの載った小冊子も見つけた。


流石異世界、見たことのない文字でも読めるようだ。勇者様御一行は39人もいるらしい。随分な大所帯な気がするが世界を救うのだ、それも致し方ない事なのだろう。






翌朝、俺とカルゼさんはギルドに行って冒険者登録を済ませた。受付嬢の人にギルドカードを使った値引きなどいいことを教えてもらった後、備品の確保や同行する同僚の人を迎えにカルゼさんの事務所に行くことにした。


事務所は街外れの大きな壁の近くに位置していて、街の人も気にもとめない至って平凡な小さな家だった。


カルゼさんはちょっと待ってろと言うと、その家の中に入っていって10分ぐらいして分身していると見紛う程に似た双子がカルゼさんの後ろに付いて来る。


話の流れからして同僚の方なのだろう。わかってはいても、俺は苦笑してしまう。何故かって?それは2人とも見た目が()()だからさ。思わず、HAHAHAとアメリカンな笑いが出てきてしまった。


「カルゼサンニハソンナシュミガアッタンデスネー。オドロキマシター」

「どうしたんだヴォルフ君?突然片言になってるぞ?」

「あんたがヴェアか?」

「はい、そうですけど」

「あなたがヴォルフですか?」

「だからそう言っているでしょう?」

「よし、そろそろ獣車がくる時間だ。急ぐぞ。」

「あいよ」「はーい」


双子なのに、いや双子だからかここまで違うのは。これ以降、カルゼさんの誤解は解かれることはなく、永遠にヴォルフは誤解を解くこともない。

俺達は大きな狼のような獣のひく所謂、獣車に乗って作業現場に向かった。




───────────────────────




一方ヴォルフとカルゼの2人がギルドにいた頃。

路地裏では───が、通信系の魔導具を使いとあることについて話し始めた。


「こちら───、追跡対象の───を発見しました。これ以降は監視対象として追尾型のゴーレムでも飛ばしましょうか?」

「いや、待て。あちら側がこちらに気付いている可能性もある。これからは情報収集につとめろ。」

「うんにゃ、気付いてないとおもーヨ?」

「何故そう思う───?」

「だって気付いてたら昨日の時点で気付かれてイイハズなんだよネ。だってアイツの近くに情報収集のためのゴーレム飛ばしてたモノ。」

「勝手なことを」

「スルナ……ト?ヘイヘイ次から気ィ付けるヨ。ンデ、それによるとアイツ、記憶が一部無いらしいんすワ。マァ、都合良く?オレらの記憶が無くなっているかはともかく、気付かれて計画がオジャンにはならんとおもーヨ?とりまそっちにある追尾型ゴーレム使ってチョ?回収しちまったシ。」

「という事らしい。他の者も同意見のようだ。計画に触れそうになり次第即刻排除しろ。今の奴は脆弱だ。ゴーレム如きでどうこう成せる訳では無いだろうが出来なくとも、あれには近づかせるな。いくら代わりがいても、お前の記憶は他機体に移らない。生きて戻れ。」

「マァ、アンタにゃ命なんてにゃーのかもだけど、アンタはアンタだ。壊されるなヨ?じゃなきゃコイツがワンワン泣いちゃうからにゃ、面倒なんヨ?」

「了解しました。では任務に戻ります。」


魔導具の通信を切り、手元にある2機の蠅型ゴーレムを───に─────()()()()()()()()()を上空から追いかけるように、設定し放つ。手元にあるガラス板にゴーレムの見える景色が投影される。


私の名前は───。これから世界を統べるに相応しい、否。世界を統べる方に仕える忠実な、忠実な戦士であり、剣であり、盾であり、命令を唯々こなし続けるコマ。私の代わりはいくらでもいて、私は一人しかいない。大切にするのは、あの方の御意志であり、あの方の命。身命を賭してあの方を、孤独を嫌いながらも、永遠に孤独を守り続けるあの方の御側にあり続ける。私の道はこの道しかなくほかの道に逸れる事はない。しかし、もし私の願いが叶うなら───────────


私に願いなどなく、今は唯、計画を邪魔立てする危険な異分子を絶つ。それが私の使命。私の存在証明であり、存在価値であり、存在意義である。



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