ウミガメから生まれた人の子
この王国のもののほとんどが家族がいないか会える予定がない者たちが多い。ウミガメの世界のようなこの国にとって僕の義理の妹にあたるアンナは特殊な存在であった。
「フレイ大好きっ!私の将来のお婿さん!」
愛くるしい大きな目にさらさらとした麗しい黒髪。きっと将来は美人間違いないだろう。4歳になったばかりのアンナは僕が王宮にきて1年程後に生まれた。生まれた瞬間は正直可愛いとは思えない顔であったが、人間はどうしてこんなにも変わるんだろうか?
ふと、頭に過ったのは生まれたときに僕の顔を見たと母がいっていた父のことだ。きっと、今の僕を見ても他人にしか思わないだろう。もう、会いたいとも思わないが。しかし、僕が父の顔を知らない限り、「君は私の子だ」と言われない限り僕は母を苦しめた復讐すらできないじゃないか。
なぜだか、アンナを見るたびに昔の、毎日のように誰かの助けを求めていたあの日を思い出してしまってならない。
きっと、アンナがそのころの僕と同じように無邪気だからなのか、それとも無知だからか、どちらもなのか。兎に角重なってしまうのだろう。だから、きっと、少ししたら僕はもっと、思い出す時間が減るはずなのだ。
「結婚は家族を増やすことなんだよ?だから、もう家族の人とは結婚できないの。」
きっと美人になるのだろうからアンナは僕の嫁になったとしても大していやではないだろう。と言っても、アンナはきっとそのころには素敵なお婿さんを連れてくるのだろうと思うが。
「でも、ママが結婚は一番大好きな男の人としないといけないんだって言ってたよ?私、フレイが一番大好きなんだもん!!!!!」
結婚なんてどこで覚えたのかと少し不思議であったが、「ママに聞いた」と言われてなるほどと思った。おそらく、絵本で「お嫁さん」や「お婿さん」がでできてわからないことがあると気が済まないアンナは質問攻めにしたのだろう。その苦労を思うと、「いつもママが先に寝るの!もうヤダ!」というアンナに同情のしようがなくなる。
「そうかー!僕が一番好きか。………………パパが泣くんじゃ………」
「あ!!パパ!!そっか!忘れてた!二人と結婚できないの?」
しまった。アンナの質問はとても奇想天外で、容赦がなくて、どこの書物にも書いてないことが多い。「なんで私はいるの?」と聞かれたときにはどうこたえるべきなのか悩んで図書室に1日中こもり、答えがないか必死に探した。見つけた答えはどうもアンナには難しすぎるだけではなく、既にその筆問をしたことでさえアンナは忘れているのだから僕は一度もアンナの質問に納得する答えを返せたことがない。だからとても苦手なのだ。焦った僕は、侍女のくすくす笑う声が聞こえ、それが何となく自分のことを笑われてるのかと思うと向けられない目を閉じで耳を向けた。
「王様と王子様と結婚ってとても豪華ですねえ。羨ましい!」
よかった、自分のことじゃなかった。僕はそう安心するとその声の主のほうに固く閉じていた目を向けた。
栗色の髪の20くらいの侍女。彼女はフェルンが「王宮中で一番かわいい」とか言っていた美人というよりも森が似合いそうな感じの癒しを与えてくれるらしい女性だ。フェルンはその子の話を頻繁にする。とても楽しそうに。恥ずかしそうに。目を閉じず、最初から見ていれば僕は「自分が笑われている」って思わずに済んだだろう。何しろ、あのフェルンが好む女性なのだから。
「ふふーん!プリンセスアンナなのだー!」
アンナは随分ご機嫌そうに白い椅子に足を一つ置いて威張るように胸を張っていってみた。侍女はその様子を見て焦るように布を椅子に敷いた。「失礼します」という侍女の声にハッとしたアンナは少し不安そうな子になった。アンナは今までに何回も家具を汚して怒られてきたのだ。
「アンナは元からプリンセスだろ?パパの子供なんだから」
僕は焦ってそういうと、アンナは直ぐに笑顔を取り戻し、そして今度は眉間にしわを寄せた。
「そっか!あれ?じゃあ、パパとフレイと結婚したら何になるの?」
そう聞かれても、そもそも結婚などできないのにと思いつつも、純粋なまなざしを見て僕も少し純粋に考えてみた。
「んーえっと、スーパープリンセス?いや、王妃はプリンセスじゃないよなあ。ああ、しかももう王妃はいるからなあ。ああ、もう、お嫁さんでいいじゃないか?」
「お嫁さん?そんなの普通でヤダ!!」
「えええ……。うーん。それでも……。」
「アンナ様。フレイ様が浮かばないっていうのはですね、特別すぎて王様とフレイ様が結婚したアンナ様の総称ないっていうことですよ。特別すぎて。」
フェルンは僕をフォローするように言った。言い終えるとまだ少し不満そうな、よくわかっていないという顔のアンナに僕には見せたことのないほどのさわやかな笑顔をデザートのように添えるとアンナはとても満足げに笑った。
そうか、いくら純粋に考えたってないものはないのだからは浮かぶわけがない。だから何度も無駄だと思ってるのに。しかし、仕方ないのだ。どうしようもない。僕は真面目に考えた自分を慰めたい気分になった。
「うーん……。んー……。うん!!!分かった!」
アンナはとても嬉しそうにフェルンに抱き着いた。僕は流石だと思いながらも、たまに見せてくるその達者な言葉遣いに慣れない自分はやはり、驚くような思いになった。
「はいっ」
フェルンは最後まであんなに爽やかな笑顔を向けて答えた。