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A Dream Into A Pouch  作者: ゆん
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僕と王の出会った日の話。

僕はパンを小袋に入れた。さっき、パン屋の叔父さんにもらったものである。まだ暖かさの残るパンはその子袋に入れるとすぐに吸い込まれるように冷たくなった。

僕はずっと一緒に暮らしていた母が僕を残し、なくなって、ぼくは母が残してくれた少ない貯金で何とか生きていた。別に寂しいわけではない。苦しくもない。普通のことだ。ただ、なんだか、心の底に、不安が妙に膨らんでいっていた。






そうだ、パン屋は唯一この町の希望であるといえよう。町と言っても道中に腹をすかせた力ない者たちが溢れかえる町など今となったら町ではない、火葬場である。そんな所にある、大きなおなかをもつ店主のパン屋は誰もが夢に抱くような生活をしていた。食事には困らない。余裕を見せるように、「おまけ」まであげてみせる。女遊びが盛んで、妻や子には立派な威張り散らす。自由奔放で、我儘。自分の前にある死体をけ飛ばす始末だ。しかし、この町の誰もがおじさんを嫌えない。彼のおかげで生きているという人がたくさんいるものなのだから。情があるといったらウソである。ただ、恩を売って人々を支配している感覚がたまらないだけなのだ。誰もがそれをわかっている。母もあきれた顔でいつも自慢話を聞かされたといっていた。母は彼のお気に入りなのだ。手に入らないのを楽しんでいるのだ。お母さんは店主の話しはほとんどしなかったから、僕は耳に入った噂話でそれを聞いた。

パン屋で消費するための稼ぎ先と言えば時々通りかかる旅人や貴族から金をもらうことしかない。何しろ、自力で儲ける力があるものが大変少ない町であったから。ただ、強盗というより、よく言えばその方たちの世話が多かったかも知れない。というのも、強盗などしても戦える力など何も残っていなかったのだ。こんな治安の悪い場所に小石で死ぬような人が来るわけがないのだから誰もが初めからあきらめていた。

僕の家といえば、人が3に眠れる程度の雨をよける屋根と簡単に虫の侵入を許すドアがあるこの辺ではとても立派な窓付きの「レンガでできた家」である。一方彼の家は無駄に広く、無駄に立派である。家には必要ないだろう飾りまでついていた。

狭い家と力尽きて座り込んだ人の間を何とか通り抜け、天にまっすぐ伸びているように思えるきつい坂を上ると、家から大体7分程度のところにある街に出るわけである。そこには質素な作りの雑貨屋や肉屋まである。と言っても肉屋の原料は誰もが想像がつく。しかし、その店はいつも盛っていた。旅人がここを通過するときは誰もが入っていった。だが、母はその店に僕は入れてくれたことがない。しかし、もし、今日、手に握りしめたコインが1枚ならば、その店に入ったかもしれない。とにかく、そのパン屋は、そんな店を通り過ぎると僕が見あげる所にその立派な家とパンがあるわけである。「ここが一番だ」というように、僕が家からそのパン屋の場所を見失わないように、高く高くたっている塔はまじかでみると、迫力があるだ何で言葉では収まり切れない。

この店に入るものは何も持っていないか、少しばかり金に余裕があるものだけである。何もない人にはそのパン屋は売れなかったパンをあげた。毎回反省もなしに無駄に大量のパンを作る彼らは大量の腐る寸前のパンがあった。しかし、時々、実際はいいやつなのかもしれないと感じる。


今日のパン屋の店主の話をしよう。僕は今日、店主の子と初めて会話したのだ。感じのいい青年で、その少年からの店主の話はまるで噂とは違ったのだ。

僕は空腹が限界であるというか、胃酸によって胃がとても弱っていたせいか食欲は感じなかったが、暫くかいでいなかった唾液を誘う匂いに僕は右手に握りしめていた銅銭を店の床においたというか、倒れこんだ。店主が床に転がった銅銭を拾い集めて「うーん。」とうねるような図太い声を出し、スタスタとどこかに行ってしまったと思うと、一杯の水を僕に渡した。「足りなかったのか?」と絶望的に思いながらも、腐りかけたパンを求めるようにそこに佇んだ。しかし、なかなか渡してくれない。長く待たされた挙句、丸い手のひらサイズのパンを3つ渡してくれた。そのパンはとても温かく、僕は直ぐにこのパンが腐りかけでないことがわかった。「気を付けてね」という店主の声は非常に高く、透き通る水のように僕の耳をするりと流れていった。

「うまい。」

そういいながら僕が夢中に食べていると目の前に少し細い手に乗せた丸いパンが差し出され、同時にあの水のような声が聞こえた。

「君の母さんの分だよ。」

僕がそのパンを見た後、驚きで声の主を見ると、その顔は全く見覚えがなかった。

「ここで働いてるの?」

「いや、この店の店主の子供なんだ。お父さんが「怖がらせてしまいそうだから」だなんて珍しいことを言い出したから僕が接待をしただけだよ。逆にびっくりしちゃうよね。ほら、なんか、君のお母さんは僕のお父さんのお気に入りみたいだから……。君にはできたてをあげないとだなんて言っててね。おいしかったでしょ?お父さんのパンはいくら食べても飽きないんだ。君もわかってくれるかな……。食べちゃったみたいだし、お母さんに怒られちゃうかなと思ったんだけど……。内緒だよ?勝手にあげると怒るんだ。ああ、そう言えば、後で君の家に行こうとか言ってた……」

「それはだめ」

僕はとっさに大きな声を出した。

「えっと……。」

「…………母さんは……。」

「あ、そっか。具合が悪いのか。来ないんだもんね。そりゃそうだよね。そんなときに来られても迷惑だろうし……。あとでお父さんに伝えておくね。」

「…………うん」

「食べちゃダメだぞー」

「………食べない。」

僕はそういうとひったくるようにその差し出されたパンを奪い、強く握りしめ、ひょろひょろと店を後にした。

母の分だと思うとどうしても食べようという気はしなかった。だから、僕は握りしめたパンを持っていた小袋に入れ、固く結んだ。この小袋は母が形見のように大事に持っていたものだから、なんだかこの小袋に入れておけば母に渡せるような気がしたのだ。黒いような、しかし、薄く模様があるその生地特殊な素材が使われているのか今でも何の汚れがない。








ふと、目のまえを見るともう家についていた。頭の中で少年の顔が何度も浮かんだ。「優しくて、包み込むような人」であった。何で飛び出してしまったのか?この気持ちは、既に真っ暗で冷め切った腐った臭いの家の中とはどうも合わなく、このドアを開けず、永遠にこの幻想のような時間を味わっていたくなった。そうだ、あの感じは母さんのようだったのだ。細く、白い手もまるで母さんと同じだ。

僕は家の壁によりかかると冷えてきた空気から身を守るように上の服に膝を入れ、自分の体温で自分を温めた。部屋に入ったらきっともう少しは暖かいだろう。昼間の間の熱と火を焚けばもう完璧だ。勿論、火の焚けない僕がそんなことを考えても今は妄想で終わってしまうわけだが。

今は、空に浮かぶきれいな星たちだけが、僕の体を温めてくれるような気がした。僕はじっとその星を眺めて、目を離せなかった。

2時間程度その場でうずくまっているとみていた星が薄くなって、しまいには見えなくなった。こうなってしまったら家に入るしかない。雨に降られてこれ以上体温を奪われることはごめんだった。

家の中には腐った臭いが充満している。予想裏切らないその臭いは窓があるというのに消える気配がなかった。そりゃあそうだろう。こぶし2個分程度のその窓でできる換気などたかが知れていた。

僕が部屋の奥に眠る母に近づくと小さいハエのようなものが何匹か僕の体にあたり、真っ暗で何も見えないことが幸福に思えるくらいに僕は嫌気を覚えた。少し外出するとすぐそうなるのだ。しかし、やはり、昨日よりも多くなっている。それは母の体がますますハエの餌に近くなっていることを表した。

僕は足元にあった布でハエを払い、開きっぱなしのドアのほうへ何度も手をスイングさせた。

「母さん、大丈夫だった?ごめんね。」

僕は布の中から母の手を出し、握るとその手は少し暖かく、そして、どことなく母の声がした気がした。そして暖かく母の体に包まれているような、仕事終わりの汗や血や土の匂いみたいな……。

『大丈夫だよ。ありがとね』

幻聴、幻覚、幻臭……。

久々に顔を被さっている布から出してみたくなった。

目の粗い布だったせいで顔が傷だらけになっていた。僕は青白いがまだきれいなその顔を見るのがなぜだか最後なきがして、すっと左手で撫でる。

「母さん。僕、母さんみたいになりたくないんだ。寒いのは嫌なんだ。自分まで冷たくなるのも、すごくやだ。やなんだよお……。」

このまま生きていることもきっと辛いのだろうとはわかっていた。しかし、母のだんだんと痩せていく、動かなくなっていく光景を見ていたから、冷たい手に触れているから、鼻にくる臭いをかんでいるから、僕はどうしてもこうなりたくないと思った。同時に、すぐにこうなるんじゃないかと、自分の首を触っては、その暖かさにうっとりしていた。

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