西周レイプ!西洋概念と化した先輩
木村「江戸時代が終わりました」
野獣「何そのディスカバリーチャンネルみたいな始まり方」
木村「まあでも実際そうですので…」
遠野「前回は『草莽崛起』を提唱した吉田松陰のことをやりましたよね。ナショナリズムの芽生えから江戸時代への終わり…そして日本には遂に文明開化の時代が到来する、と」
三浦「文明開化って何ゾ?」
野獣「えぇ…」
遠野「でも改めて問われてみれば一体何なんでしょう?富国強兵?殖産興業?」
木村「実際今の日本人に『明治期の文明開化とは?』と聞いたら、大体の人が『八幡製鉄所』や『安愚楽鍋』と答えるでしょうね」
木村「しかし今の日本のナショナリズムや思想史において劇的な変動が発生したのが、この明治期なのです。今回は文明開化を思想という観点から覗いていきたいと思います(小並感)」
野獣「おかのした」
三浦「気になったんだが、やっぱり末期の江戸時代って結構腐敗していたのかゾ?」
木村「その質問に対してですが、確かに腐敗は存在しました。だが腐敗が原因で明治維新に直接繋がったというのは誤りなんですよ」
遠野「それって吉田松陰の『草莽崛起』に影響されて多くの攘夷論者が行動した結果、西洋にボコボコにされたから『幕府を変えようぜ!』ってなったのが史実でしたっけ?」
木村「その通りです。攘夷論の影響を受けて薩長同盟に代表される反西洋的なムーブメントが起こった結果、薩英戦争をはじめフルボッコにされちゃったのが一因ですね。まあ勝てる訳ないんですが」
野獣「日本の一藩とイギリスの戦争ってやばすぎでしょw」
三浦「草を感知したゾ、お前には死をくれてやる」
野獣「ヒェッ…」
遠野「なんでそんなに草に不寛容なんですかね…」
木村「そして攘夷論の敵は勝てない西洋ではなく『怖気づいている江戸幕府』に向けられ、最終的には無血開城です」
木村「この無血開城で活躍した勝海舟の一家は武士の身分、御家人株を金銭で売買したことが知られています。まあこの時点でガバガバだったんですよ、秩序が」
野獣「だから明治維新によって一気に秩序化したんですかね」
木村「そうです。この変化は革命と見る動きがあるのもまた事実で、それも上からの絶対主義革命かブルジョワ革命かで観点が異なります。ただそれらに共通する事柄として『攘夷にあたって実力なき江戸幕府を倒す!』という攘夷的傾向があるのです」
木村「故に明治維新にあたって先ず行われたのが神仏分離です。天皇を中心とする新秩序を築く上で、今まで境目が不透明だった神道と仏教を区別する必要性がありました。というのは、神道を国教化することで天皇の権威を堅固にし、秩序がガバガバになるのを防ぐためです」
木村「そこで行われたのが"廃仏毀釈"、日本の文化大革命です」
遠野「文化大革命って表現はまずいですよ!(右派への恐怖)」
野獣「まず廃仏毀釈を知らねえンだわ」
三浦「日本の汚点なんだよなあ…」
木村「実際、寺院の仏像や仏典が攻撃を受けました。今なお首が切り取られたお地蔵様などが置いてあったりします。今でこそ『罰当たりな…』なんて考えそうですが、当時は『邪教だ!邪魔だ!』と本気で考えられていたのです」
野獣「わーお(ネイティブ)」
木村「ここで登場するのが福沢諭吉です。一万円札に描かれているあの人です」
野獣「日本人が好きな人物ランキング不動の第一位じゃんアゼルバイジャン」
三浦「諭吉は知らないけど一万円札は知ってるゾ~」
野獣「俺も諭吉みたいな知名度になりてえなあ」
遠野「なってるでしょアンタは」
木村「まあ『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という一節は謎に有名ですよね。謎に」
野獣「聞こえがいいからでしょ(適当)」
木村「そんな福沢諭吉で取り上げられるべき著作は『西洋事情』と『文明論之概略』でしょうか」
木村「前者は文明開化にあたって西洋の社会や風俗を知るのが必須だとして、単に西洋の地理だけでなく政治や経済を紹介しているものです。ここで福澤は基本的人権の概念を解説しており、法体系や人権体系において先駆となったのです」
木村「後者は文明開化において『一身独立して一国独立する』というテーマが語られます。つまり個人が"日本国民"として自覚し、国家の独立と発展に寄与することこそが自身の独立、つまり自身の確立に繋がると提唱したのです」
野獣「『学問ノススメ』はどんな内容だったんだ?」
木村「『学問ノススメ』は日本が近代国家になるにあたって、どのように迎えるか?というものを西洋人権思想や市民国家理念等の解説を以て明らかにしています」
木村「ただ福澤はその解説の中で、忠臣の無益な死を美化する傾向を批判しました。江戸時代に見られたものとして、近代日本においてはどうなのか?と提案しました。だが天皇に対する忠臣を批判するのか、として福澤は一転して身の危険を感じるようになってしまったのです」
遠野「尊王派怖すぎですね…」
野獣「こわいな~とづまりしとこ」
木村「また福澤関連で有名なのは『脱亜論』でしょうか。福澤はアジアを蔑視していたのではないか、という点がよく論争になります。しかし『脱亜論』がその根拠になりえるか、と言ったら否だと思います。当著は改革派を弾圧する朝鮮や清を批判したもので、文明開化の視点にあたって解釈しただけだからです。そこに彼個人のアジア蔑視が含有されているかと言われたら違うでしょう」
木村「実際、福澤は日清戦争における戦勝を『戦勝の虚栄に誇るべからず』と述べています。また軍力の拡大は殺し合いの規模を大きくさせるだけで、古来の蛮族と同じだと見なしていることもまた事実です。福澤はあくまで日本の文明開化を人権や市民国家としての一点で見つめていたのです」
三浦「はえ~」
野獣「ただ俺は思うんだが、江戸時代からこんなに変化したら反動派出てきそうやなって…」
木村「はい、当然出てきます。そこで現れたのが佐田介石でしょう」
木村「まず背景として、当時の明治政府は徴兵制をはじめました。"血を以て国に報いよ"として、民衆に呼び掛けたのです。しかし"血を以て国に報いよ"なんて不穏な文言、受け入れられる訳がありません。結果、全国では血税一揆と呼ばれる騒動が勃発したのです」
野獣「うーんこの」
遠野「呼びかけ方が下手すぎる」
木村「また寺小屋が一斉に廃され、新たに学校を設けるという学制にも大きな反発を招きました。故に徴兵制を含め文明開化の急激な変化を憎む声が上がるようになり、上述した血税一揆では学校が破壊される事件も起こるようになりました」
木村「ここで佐田は穏やかな文明開化を提唱したのです。廃仏毀釈、徴兵制、学制、どれも在来の文化や産業に大きな影響を与えるものじゃないか!としたのです。だからこそ佐田は『皇国固有の開化』という概念を提唱します。ランプに代表される西洋の品物の消費をやめ、日本の商品を用いるべきだとする地産地消的概念を持ち出しました。そうすれば文化や産業は守られると見たからです」
木村「民衆はそんな佐田の提唱を受け入れます。そりゃあそうでしょう、西洋の見様見真似で急激な変化を遂げる明治政府なんてついていけるものじゃないんです。そのため佐田は民衆の中で大きな熱狂を呼ぶことになったのです」
野獣「明治政府にしばかれてそう(小並感)」
木村「そりゃ反感を公言している訳ですから。佐田は政治批判を理由に何度も警察に連行されています。ただ福澤をはじめ、多くの人が彼に同意していた点は留意しておくべきでしょう」
遠野「やっぱ言論の自由って大事っすね~」
野獣「少なくともホモビ男優の対話編を自由に書けるこの世界が有難いってそれ一」
三浦「おっそうだな」
三浦「でも俺が当時の民衆なら、佐田の言うことについていきそうだゾ」
木村「当時の民衆でさえ廃仏毀釈や徴兵制はやりすぎだと反感を示した一例として佐田はよく取り上げられます。すんなり受容された訳ではないのです。もっとも、教科書では省かれていますが」
野獣「泣いてますよ、あの世で」
木村「また先ほどに"言論の自由"という言葉が出てきましたが、当時においてはまだ『自由』という言葉すら普及していなかったことは特筆すべきでしょう」
木村「ここで登場したのが西周です。彼は西洋の単語を翻訳して日本語に取り入れた人物なのです」
木村「例えば『自由』『社会』『個人』など。これらの訳語は西周が作ったものですから」
野獣「『ホモビデオ』という語を訳したのも西周だった可能性が微レ存…?」
遠野「当時はビデオなんてないでしょ(正論)」
三浦「タイムトラベラーがいたかもしれないのでセーフ(無理やり)」
遠野「どこがセーフなんですかね」
木村「アホな会話やめろや」
野獣「すみませんでした」
三浦「そうだよ(便乗)」
野獣「おまえもじゃい!」
木村「…話を戻します。そんな西周の訳語ですが、注目すべき語は『哲学』でしょう。Philosophyという語を当時の中国語では『理学』と訳していました。しかし西周は独自に『哲学』と訳したのです。もちろん理学という語に拘って使用し続けた人々は存在しましたが、今では本場中国でさえ『哲学』の語を用いているのです」
野獣「哲学的勝利♂」
木村「彼の活動によって西洋由来の知識を母国語で読めるようになったのは大きな事でしょう。今なお我々は彼の訳語を尊んで用いていますからね。しかし訳語は意味の固定化を招いたというのもまた大きな事です。Individualを『個人』と訳したことで、かつての社会の最小単位として示されていたこの語は今では"集団そのものを忌避する一匹狼"として曲解されることもあります。『個人主義』の解釈なんてその最たるものでしょう」
木村「加えて逆翻訳の問題も発生します。原語で考え原語で話していれば特に問題はなかったのですが、訳語を用いることでどのように外国語へ訳するかという新たな問題へ衝突したのです」
木村「西周の訳語は一概に素晴らしいものと言うことはできません。今なお彼に対する訳語の論争が起きているのがその事を物語らせます。しかし彼が作った語が今の日本を築き、我々の思考の幅を広げているのもまたそうなのです」
三浦「外国語問題って難しいねんな…」
野獣「言語の恣意性(確信)」
木村「さて、今回はここまでにします。次は自由民権運動あたりをやっていきます」
野獣「野獣死すとも淫夢は死せず」
遠野「どっちもとっととくたばれ」




