デカルトレイプ!生得観念と化した空手部
木村「さて、前回はイギリス経験論に就いてやりましたが、今回はその反対の思想――大陸合理論に就いてやっていきましょう。大陸合理論の中で著名な哲学者と言えば、あのルネ・デカルトです」
野獣「デカルトは俺でも分かるんだよなぁ。『我思う、ゆえに我あり』で有名なあの人でしょ?」
木村「はい。もちろん、その発言の真意についても後程説明します。…まず大陸合理論に就いてですが、大陸合理論はイギリス経験論のような実験は見間違えたりするからアテにならない、と言うんですね。だから彼らは"生まれながらの才能"を認めるんです。これを彼らは『生得観念』と言いました」
三浦「ポッチャマ…(諦観)」
野獣「えぇ…(困惑)」
木村「三浦先輩の頭から湯気が立ち昇ってるので、簡単に説明します。…生得観念と言うのは、もとから善悪の区別が付いたり、三段論法の論理といった具合に、人間には生まれつき基本的な概念が備わっていると考えたのです」
三浦「でも、人によって善悪の判断は変わってくるゾ」
野獣「三浦さん、ここで言う『善悪』と言うのは飽くまで基本的な土台であって、其処から様々な判断基準が成り立って行くと思うんですけど(名推理)」
木村「見事な対立ですね。…両者とも間違った事は言ってないように聞こえます。…そうです、生得観念を認めると誰もが同じ認識を持つことになる、と言うのがイギリス経験論者です。しかし、生得観念は基本的な土台だ、そこから発展していくのだ、と言うのが大陸合理論者です。この二つは大きな対立を始めるんですよ」
野獣「既にこの部屋の中で対立が起きていた、って事なのか…」
三浦「そうだよ(便乗)」
木村「そう言った大陸合理論者は、生得観念と言う基本的な土台から推理し、多くの特別な事象を判断しました。つまり彼らは、『一般論』からサンプルや実例を多く集め、そこから特別な例を引きだしたのです。例えば自分がネコを飼っているとして、全てのネコがネズミを追いかけたとします。そうしたら"自分が飼っているネコもネズミは追いかける"と言う特別な例が引きだせませんか?」
三浦「おっ、待てぃ(江戸っ子)これってベーコンの時に言った『帰納法』とは真逆だゾ…」
木村「その通りです」
野獣「流石っすね三浦さん…」
木村「この方法こそを『演繹法』と言い、大陸合理論者は「生得観念」と言う土台から多くの特別な例を引きだしていったのです。しかし、デカルトは此処で悩みました。何故なら、引きだした特別な例が『それは君の錯覚だ』と言われてしまえば、証明できない限りどうしようもないからです」
野獣「なるほど…。つまりデカルトは『これだけは絶対に揺るがないだろう』と言う"特別な例"を探し始めたんですね?」
木村「はい、ご名答です。…そしてデカルトは全てを疑い始めました。目に見えるモノ、耳から聞こえるモノ、鼻から嗅ぐ臭い、全てです。しかし彼は全てを疑っても、「これだけは疑えない」と言うモノを発見したのです。…何か分かりますか?」
三浦「あくまで憶測だけど、『疑っている自分自身』じゃないのかゾ?…もし疑っていなかったら、"これだけは疑えない"と言う考えには達する事は出来ないゾ」
木村「流石ですね、三浦先輩。その通りです。…彼は「これは夢かも知れない」「これは怪しい。俺の錯覚かもしれない」と言う"意識"だけは、どうやっても疑えないのです。…正にこれこそを」
野獣「―――『我思う、ゆえに我あり』」
木村「…その通りです」
三浦「ポッチャマ…その言葉だけでは説明不足な気がするゾ」
野獣「三浦さん、どういう事ッスか?」
三浦「もし『我思う、ゆえに我あり』って言葉で片づけるなら、『我思う、ゆえに我あり』と考えている『我』が無視されていると思うゾ。『「我思う」と我思う、「ゆえに我あり」と我思う』が正しいと思うゾ」
木村「…其れに関しては、三浦先輩…その通りだと思います。『悪魔の辞典』を書いたビアスは、まさに今、三浦先輩が言ったような発言こそが正確だ、と述べています。僕もそうだと考えます」
野獣「んにゃぴ…確かに言われてみればそうっすね。でも気づかなかったです…」
木村「…話を本筋に戻しますが、デカルトの『考える自我』の発見は、今まで世界の中の自分と言う考え方であった哲学界に激震を走らせます。そうして生まれたのが「主観」「客観」です。意味は言わずもがなですが、元はデカルトの発見があったこそだ、と言われてみれば、やはり凄いですね」
三浦「当たり前だよなぁ?」
木村「更にデカルトは、自分の意識が確かに存在する事こそ証明しましたが、自分を取り巻く世界も証明しようとしました。そして彼は神の存在証明を行ったのです」
野獣「かつてトマス・アクィナスが行ってたな」
木村「はい、そうです。しかし彼が行った方法は理性的なものでした。…人間は不完全な存在ですが、『完全』と言う概念を知っています。不完全な存在が完全な概念を抱くはずは無いのに、それを知っているのは神様が教えてくれたからだ、と言うものです。つまり、神から与えられた観念なのです。それを持つ人間は正しい、そう思いませんか?…何故ならば、神は人間を欺かないからです」
三浦「要するに、神様がいて初めて俺らは完全と言う観念を知れるってことゾ?」
木村「デカルトが言うには、そういう事です。更に彼は、『我思う、ゆえに我あり』の経験を経て、『精神』と『身体』は別々に存在しているのだ、と考えました。これを心身二元論と呼びます。…今回はここまでにしますが、さすが近代哲学の父と呼ばれるだけあって影響が凄いですよ」
野獣「理性的な立場から神の存在証明を行うって凄いっすね…」
木村「さて、次に移りましょう。やっぱりデカルトは面白いですね」