表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

車内でメモと詩

 後部座席というのは、些か退屈なもので、しかし、寝るには惜しく。手帳を開いてしまう。

「酔わないようにね」

 彼女はそう忠告するが、私はそこまで考えなしではない。そもそも、成人している男性に言う台詞ではないのではないか。

 まあいい。今は、少しでも小説のアイディアを考えることが大切なのだ。

 ページを無作為に開くと、以前書いたメモが見つかる。


 いついかなる時も、この考えを止めることなく、表出させ続けるというのは、いささか疲れることである。なぜなら、思考に筆が追いつかない為だ。

 思考を文章化する道具があれば、どれだけ楽なのだろう。

 確かに速記術という方法はあるが、私がすると、(以下判別不能)。

 

 このメモは何だったのだろうか。ミミズが這ったような文字、というが、まだその方が読めそうな気もする。

 速記術は追々身につけるとして、詩についての考察も始めなければならない。

 私は別のページを開く。


 人一人いない教室

 時計が時を刻み

 カーテン越しに日が漏れる

 風は窓の外を楽しそうに飛び回り

 時に窓の隙間から教室へと入ってくる

 しゃりしゃりしゃり

 鉛筆が走る

 小さなメモ帳

 五線譜の上を

 しゃりしゃり白地を食べながら


 うむ、文章が堅い。何とか面白くできないだろうか。それに、教室や五線譜という表現が気に入らない。

 書いた時は、静かさの中にある音に着目したために、このような表現になったが、もう少し砕けていても良いのかもしれない。


 人一人いない部屋

 時計がカチリ

 カーテンは日に染まる

 風は窓外を飛び回り

 時に隙間に身を捻る

 しゃりしゃりしゃり

 鉛筆が走る

 小さなメモ帳

 罫線の上を

 ホップ

 ステップ

 ターンして

 白地のおやつを食べていく


 車に乗りながら考えるものではないな。

 見れば見るほど、前の方がよく感じる。オノマトペも単純である上に、ホップ、ステップ、ターンなんて言葉は、しゃりしゃりに合わない。もっと軽快さと合わせるべきだ。

 それにおやつとはなんだ。

 確かに以前は、いも虫が葉を食べるように黒い線が広がっていくイメージがあったが、おやつとなると風合いが変わってしまう。


 詩とは難しいものだ。

 私は手帳を閉じ、小さくため息をつく。

「あ、酔ったんでしょう。だから言ったのに」

 ルームミラーには非難するような目。

「そうではない。ただ、少し疲れただけだ」

 私は目を閉じる。

 そう、この胸のムカつきは、手帳のせいだ。そうに違いない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ