暗い部屋、雨、雷
窓を雨が叩く。幾重に重なるノックに応じて窓を開ける。その無法者達は、部屋に無断で進入し、辺りに点々と染みを残していく。
「窓を閉めてよ」
窓を強く閉めると、部屋へ飛び込もうとした無法者達は窓にぶつかり落ちていく。
「あと、濡れたところは拭いておいて」
パジャマを斑模様に変えた上に、ウエーブのかかった髪に染み渡っていく水を気に止める様子はない。
「ああ。分かったよ」
濡れた顔をパジャマの袖で拭う。
空に光の根が伸びる。
大地に刺さる根は、一体何を空へと吸い取って行くのだろう。
「で、なんの話だったか」
未だに湿った床は足に吸い付く。
不快な感覚と足音が体へ部屋へと広がる。
「あなたの夢の話よ」
「夢、は夢だ」
朦朧とした意識の中に、はっきりとした自我があって、それが意識に振り回されるままに暴れるもの。そして、それは大抵、忘れ去られるものの、時に人生へと介入してくる厄介者。
「ええ、確かに夢は夢ね。じゃあ、今あなたは夢の中にいるのかしら」
「夢の中にいるとかなんとか無益な話は興味ないな。夢は夢だろう。自身の自我があって、それが周りの環境によって左右されるこの現状。感覚もあり、明確な結果もある。それを現実という人もいるが、どうして夢と現実の違いが分かるのか。もっとも夢と現実の違いなど」
「待って待って。もういいわ」
ため息が聞こえる。理由もまた理解している。いや、理解しなくても、答えは決まっている。
「面倒くさそうだ」
目が物語る。空気が悟れ、と言う。そして相手の周りにある気配がざわめく。
「全くよ」
一人の空間。闇は寄り添う。そして、闇がこちらを見ている。
「また来たのかい。いや、何も来ていないのか。しかし、私は恐怖している。雨の中にいるのは誰だい。閃光の中に影を映すのは誰だい。ああ、それほど見ないでおくれ、私はそれほど見ていて面白いものではないだろう。ただ、周りの人が言うには、そして自分が自覚している上でも多少、いかれてるだけだ。そうだろう。これが夢なのかもしれない。そして、夢と現実の境すらも私の中から消え去ってしまった。現実と夢の境目なんて、人が寝ているかどうかの違いしかない。そうだろう」
窓の外には木立と、遠くには点々とある人の営みの灯り。
「人は皆、現実に生きている」
ため息、窓に映る像が霞む。
「全く、夢のない話だ。そうは思わないかね」