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俺と小説投稿サイトで書いてる友人が「やっぱテンプレじゃなきゃダメか……」とか言い出したんだけど

作者:冷えた麦茶
俺が学校の友人である渡辺、木塚と共に
小説投稿サイト「小説家になったるねん」に参加して1ヶ月が経った。

俺たちと同じクラスで将来本気で小説家を目指している栗本に聞くと、
最初の内は長編書くよりも短編を何本も書いて
小説を書くことに慣れた方がいいと言われた。

小さい頃からス○ィー○ン・キ○グが好きだった俺は、
ホラー要素に青春や家族愛、社会への不信感といった
テーマを盛り込んだ短編作品を何本も書いては投稿した。

投稿して何時間かは読んでくれる人がいるものの
それ以降は閑古鳥が鳴くような見向きもされない作品ばかりだったが、
それでもたまに2、3人の人がお気に入りに入れてくれて嬉しかった。

小説を書くという行為は思っていた以上に面白い。
自分が頭の中で考えた作品が世に発信されて
それを読んでくれる人がいるという事実が既に楽しいし、
なにより自分が文字を使って一つの作品世界を
少しずつ作り上げていくという行為が病みつきになってしまう。

俺は他の二人、渡辺と木塚に小説の調子はどうだと聞いてみた。
すると二人とも、お気に入り読者が増えなくて不満らしい。
渡辺も木塚も長編小説をもう10万文字近く書き進めていて、
渡辺は50人、木塚は70人の読者がお気に入りについている。

俺からしたらそれだけでも大したものだと思うのだが、
彼らは志が高いらしくそれでは満足できないようだ。

渡辺は小さな頃から人一倍特撮ヒーローが大好きで、
彼の作品もヒーローが警察や民間のサポートを受けながら
強力な怪人たちと戦っていく平○ラ○ダーのような作品だ。

木塚はクラスでも有名な漫画オタクで
週○少○ジャ○プにでも掲載されていそうな
主人公が苦戦したり努力しながら成長していくバトルモノを書いている。

二人は俺に対して「なったるねんの連中はわかっていない」だとか
「今の世の中作品を見る目を持ってない奴が多い」だとか
やや血走った目つきでそのように熱く語る。

「やっぱりテンプレに手を出さないとダメだな」

渡辺が突然そのようなことを言い出した。

俺がテンプレとはなんだ、と聞くと。
「小説家になったるねん」で最もポピュラーなジャンルの作品で
日本人のニートやブラック企業労働者などが
事故で死んだりしてファンタジー世界に転生して
成り上がったり女の子といちゃつく話のことらしい。
女性向けでは、これまたファンタジー世界の令嬢になって
気に入らない貴族を没落させたりして成り上がる話もあるという。

一般的な世間における王道としての意味でのテンプレではなく
小説家になったるねん内での作品のテンプレという意味で
利用者たちの間では「なったるねんテンプレ」と呼ばれているらしい。

そういえば俺は、書いて投稿するばかりで
あのサイトを読者として利用することをしてこなかった。
もしかしたら俺好みの面白い作品や、
俺が小説を書く参考になるような作品もあるかもしれない。

渡辺と木塚は俺に、なったるねんで生き残りたかったら
テンプレを知っておけ、と言ってきた。
別に商業作家でもないのに生き残るもクソもないような気がするが、
このサイトで人気のある作品の傾向を知っておくのは悪いことではない。

俺はそれから休み時間や学校帰り、そして家に帰ってから
スマホでなったるねんを開いてランキング上位の作品を流し見した。

それは渡辺や木塚の言ったとおりの作品ばかりで、
俺みたいに興味のない人間からしたらどれも同じような作品ばかりだ。

ある程度読んで見たが、面白いと思う人がいるのはわかるものの
俺の好みとはまったく違う作品だった。
お気に入りの登録者数も4桁とか5桁とか
俺では想像もつかないようなとんでもない数の読者がついている。

しかし、俺は渡辺や木塚みたいに
このジャンルに手を出そうとは思わなかった。
そもそも今のこのサイトでの利用状況に不満があるわけでもないし、
それに自分にこのような作品が書けるとは到底思えない。

一人称の文体で軽いノリで作品を進めるというのは
自分の趣味とはまったくあわないし、
一にも二にもとにかく女とイチャつくことばかり
考えているような主人公の作品なんて書いてて面白いとも思えない。

自分で面白いと思えないような作品なら
どれだけ多くの人にお気に入りに入れてもらっても
虚しくなるだけだろう。

俺とは別の世界、それこそ異世界の話だなと思ってPCの電源を切った。

それからしばらくして、渡辺と木塚は例の長編の連載を止めてしまった。
特にシリアス展開に入ってお気に入り読者数が激減したのが原因らしい。

たしかに二人の作品とも強敵に主人公がボロ負けして
これからどうなるのか気になって仕方がないところでストップしている。
俺はだからこそ先が気になって仕方がなかったのだが、
なったるねんではそういう展開は受けないらしい。

それでもどちらも30人近くの読者がついていたから、
10人の読者がついても大喜びする俺からしたら
やめることもないのにと思っていたが、
彼らは志が高いらしくそれではいけないという。

そして二人はついに「なったるねんテンプレ作品」に手を出し始めた。

渡辺はブラック企業労働者が成金の社長に連れて行かれた料亭で
フグさしを食べたら中毒死して異世界に転生し、
そこで体に宿ったフグの毒を使って敵と戦い
成り上がってハーレム作って女とイチャつく話。

木塚はオナニーのしすぎで死んだニートが
女神からテクノブレイク・ナイトという
意味さえ分からなければカッコいい異名をつけられて、
意味を知っている他の転生者から隠れながらギルドの依頼をこなし
成り上がってハーレム作って女とイチャつく話。

俺が読んでみても最初の設定以外の違いがまったくわからなかったが、
たしかにこれならなったるねんの読者のウケはよさそうだ。
しかし二人の作品は、連載をストップしている最初の長編作品以上に
お気に入り登録の数の伸びが悪かった。

それは興味がない俺から見ても明らかなことで、
渡辺は元々がヒーローモノ好きなだけに
主人公の言動の根底に勧善懲悪があるため
下半身の欲求だけで動いている主人公を上手く描けていない。

木塚も少年漫画的な作風が好きなだけに
強くてカッコいい男の仲間キャラやライバルキャラが
たくさん登場してしまうため、
女以外は不要というなったるねん読者ウケする展開ができない。

おまけに二人とも、根が真面目な性格をしているので
小説の文体もそういう堅い部分がにじみ出ていて
なったるねんテンプレ作品のように
女の子が出てきただけでいちいち一人称で騒いだりする描写も
どこか違和感があるような書き方しかできない。

要するに、自分の作風や性格をねじ曲げてまで
なったるねんテンプレ作品を描こうとするものだから
本人の持ち味を完全に殺してしまって
窮屈でつまらない作品になってしまっているのだ。

小説家になったるねんはたしかにテンプレ作品の一人勝ち状態だが、
質の高い面白い作品ならテンプレではない作品、
渡辺たちは非テンプレ作品と読んでいるが、
そういう作品でも3桁後半台くらいの読者はついてくれる。

逆に面白くなければテンプレだろうが非テンプレだろうが
誰も読まないのだ。

それからというもの、渡辺と木塚は日増しに何かに取り付かれたような
恐ろしい目つきになり顔もどんどんやせ細っていった。
最近では生気が乏しくなりクラスの連中からも気味悪がられている。
しかしそれでもお気に入り読者はいっこうに増えない。

ついに彼らは、俺たちは物語を書こうとするからダメなんだ、
などと意味の分からない発言をし始めた。

主人公が苦戦をするからいけない、
主人公が成長しようとするからいけない、
ヒロインが主人公に完全服従して言いなりにならないからいけない、
設定に整合性があるからいけない。

彼らはそのような発言をして、
それらの要素を捨てきったなったるねんテンプレ作品が
いかに素晴らしく、そしてこれからの新時代を担うべき
新しい優れた創作ジャンルであるかを俺に熱く語る。

しかし、素人で興味のない俺からしたら
人気のあるテンプレ作品の中にだって
主人公が苦戦したりする話は皆無ではないし、
そもそも、これらは「小説家になったるねん」内限定のブームで
世間でヒットする作品はこれらの傾向とは違うはずだ。

渡辺と木塚は俺に言う。

「今時、強敵に対して一致団結して立ち向かうなんてウケないんだよ」

その割には、今年は大怪獣相手に現実の日本の技術だけで
立ち向かう話が大ヒットしたような気がするのだが。

「これからはハーレム作って異性を侍らせるような話じゃないと
 誰も見向きもしてくれないんだよ」

その割には、今年は時空を越えた一途な愛の物語が
大ヒットしたような気がするのだが。

「現代は厳しい社会だからみんなストレスから逃げたいんだよな
 だから少しでも主人公が嫌な目にあう話はダメだ」

その割には今現在、戦争の悲劇に巻き込まれながらも
懸命に生きていこうとする女性の話で話題沸騰中なのだが。

話を聞いていると渡辺と木塚は小説家になったるねんという
狭いコミュニティの中だけの話を、社会全体に拡大したがる傾向がある。

もしそこまで影響があるなら、異世界に転生して好き放題やる話が
映画からドラマからゲームから各メディアであふれてないとおかしいし、
書籍の売り上げだって話題の文学作品より売れてないとおかしい。

聞いた話だとなったるねん派生の作品で10万冊以上売れる作品は
ほとんどないらしい。

こいつらは、自分の技量のなさを時代や読者のせいにして
目を逸らしたいだけではないのか。

俺が、お前たちあのヒーローモノとかバトルモノとか
連載ストップしてるけど完結させないでいいの?と聞くと。

「あれは俺たちが間違っていた。
 あんなどこにでもある話、読んで喜ぶ奴がいるはずがない」

と答えたから、それを言うならなったるねんテンプレだって
なったるねんの中を見たらいくらでもある話じゃないか、
というと二人とも黙ってしまった。

そして、彼らはその内になったるねんテンプレ以外のジャンルに対して
いろいろと口を出すようになっていった。

まず最初のターゲットは純文学で、
純文学の古典作品だって可愛い女の子が出てくるのだから
純文学となったるねんテンプレは同レベルだ。

と言ったり、次には推理小説にもケチをつけ始めた。

シ○ー○ック・ホー○ズはoreTueee主人公で
なおかつやれやれ系主人公だから
なったるねんテンプレと同レベルだ。

俺にはこれらの箇条書きを使った詭弁が何の意味を持つのかわからない。

もし、なったるねんテンプレはこれらの作品と同じくらい
素晴らしい、と言いたいのであれば箇条書きだけ挙げて
同じだ同じだと喚いても何の意味もない。

なったるねんテンプレがそれらの古典に負けていない魅力を挙げて
それを人に伝えるようにしなければ、何の意味も持たない。

どうやら彼らは、それらの古典的作品を扱き下ろしたくて
「格下の」なったるねんテンプレ作品と同じ位置に
持ってこさせようとしているようなのだが、
これも何の意味があるのだろうか。

そもそも、そういう姿勢自体がなったるねんテンプレをバカにしてるし、
そんな内心バカにしているジャンルを無理に書こうという姿勢自体が
バカげているとは彼らは思わないのだろうか。

どうも彼ら、自分の渾身のヒーロー作品や少年漫画的作品が
なったるねんというコミュニティで通用しなかったものだからと、
そのコンプレックスを周囲にまき散らしたがっているようだ。

そして、その一つの小さなコミュニティの常識を
強引に社会全体に拡大させることで、
自分と同じようなジャンルを書いて成功した人々に対する嫉妬を
何とか晴らしてみようとしているのかもしれない。

二人しまいには、ホラージャンルを好きに書いてる俺の作品にも
いろいろとケチをつけたり足を引っ張るようなことを
言ってくるようになった。

「なぜもっと女キャラを出さない」
「主人公の最初に会うキャラが男とかダメだろ」
「なぜ街を滅ぼそうとする悪霊がおっさんなんだ、
 そこは美少女であるべきだろう」

俺が、それだと俺の描きたい内容にならない、と答えると。

「ククク、お前は努力型の過酷な運命を与えられる主人公が好きな癖に
 自分は努力もしたくない上に苦労もしたくないんだね……」

などと勝ち誇った薄ら笑いを浮かべながら
意味の分からないことを俺に言ってきた。
俺は努力型主人公が好きとは一言も言ってないし
苦労する主人公ではないといけないとも言ってない。

どうも渡辺も木塚も、なったるねんテンプレを神聖視するあまり
なったるねんテンプレ以外のジャンルを好む人間が
みんな敵に見えてしまっているようだ。

二人とも日々さらにやつれていって
授業中にブツブツしゃべったあげくに奇声をあげるようになった。
それでも彼らのお気に入り登録者数は増えない。

それからまた1ヶ月経って、俺は渡辺、木塚とは縁を切った。
ついには俺が非テンプレ作品を書く事に説教をし始めたからだ。

「非テンプレ作品なんて自己満足なものを書いてるだけだ」
「本当はお前もみんなに注目してほしいんだろ、
 だったらテンプレだ、古くさい作品なんて書くな」

こんなことまで言われて彼らとつきあっているとしたら
それはもうただのバカだろう。

俺はある日、作家志望の栗本から
4組の小村も小説家になったるねんを利用していると聞かされた。
話によると、彼はテンプレ作品には否定的らしい。

俺はようやく自分の同士を見つけられたと思って
小村と連絡を取って彼と話をした。

「お前もなったるねんやってるのか?
 あそこはテンプレばっかりなのが嫌になるよなぁ、
 俺のペンネーム教えてやるからよかったら読んでくれよ」

俺は彼にペンネームを教えてもらって、
学校から帰るとPCを開いて確認してみた。

俺は愕然とした。

たしかに彼は精力的に作品を投稿して、
既に100本ほどの作品を送り出している。

しかし、そのほとんどが
テンプレばかりのなったるねんの現状への不満や
それを甘んじて受け入れる読者たちへの不満を吐き出した
エッセイ作品ばかり、小説はほとんどなかった。

これでは、小説家になったるねん、ではなく
エッセイストになったるねん、または評論家になったるねんである。

俺は一人で黙々と書いていこうと思った。

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