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Monochrome  作者: 自由帳
1章 -街も人も壊れている-
6/11

-5- 無題


 助けて、と聞こえたような気がして辺りを見回す。これで何度目だろう。


 私一人になって随分経った。

 食料である家族も朽ち果てた。

 私は死ぬのだろうか?

 壁に囲まれた、幸せの欠片も残っていない家の中で見えない空を見上げようと天井を見る。そこにあるのはもちろん空ではなく、白い天井だった。



「……(みこと)、大丈夫?」

 返事はない。だが弟の方を見ると、辛うじて生きているようだった。呻き声を上げて、四肢を動かして必死に何かを求めている。

 きっと私の声なんか聞こえてないのだろう、目は左右が違う方向に向いていて、涎が口から流れ出している。


 食べれそうな両親の肉、そして内臓を食べきって時間が経った。私は両親の体を食べても、体に異変は無かったのだが弟は何か、おかしくなってしまった。

 何が原因なのかは、馬鹿な私には分からないから、どうすることも出来なかった。

 私はそれほどに無力なのだ。

「命、安心して。私はここにいるから」

 ただ、狂った弟の頭を撫でて上げることが、私の出来る精一杯。


 ・


 …………………………………………


 ・


 …………………………………………


 ・


 …………………………………………


 ・



「これ以上、思い出したくない……」

 骸が転がる部屋の中で、私は家族を食べたことを思い出して泣いていた。

 どうしても弟を食べたという罪と、目を合わせられない。目を逸らすこともせずに虚ろに見つめていた過去の私とは変わってしまったから、そこを見ればあるのは揺るがない罪だ。


 例えどんなに謝ろうと許されない、例えどんなに変わろうと逃れられない、そして例え誰が「悪くない」と私の頭を撫でようと気は紛れないだろう。それが望、あなただとしても。

 ただでさえ私には負いきれない罪は、この家に置いてきたこの期間に膨大な利子が付いてしまったのだろうか、あるいは床に飛散していた血の色が赤から黒に変色しているように、罪は既に罰へと、姿を変えたのだろうか。

 未熟で愚かな私には分からない。


 そうだ、この冬が明けたら私はもう、私を辞めよう。名前を捨てるだけでなく、私を捨てよう。

 死よりも過酷な生を、私は他の人間として全うしよう。それがいい。

 また逃げてしまえばいいじゃないか、どうして気が付かなかった。いつかの私が「助けてください」と嘆いてるのなんて、見捨ててもばちは当たらない。


「……なんて、鏡子 詠なら逃げたのかな」

 今の私にはそんなことは出来ない。

 今の私に出来ることは何だろう____考え始めてすぐ、私は一つの答えを出した。

 冬の間に答えを見つけよう。運悪く生き残ってしまった春に、私はどんな顔をして家を出るのだろうか、両手から零れ落ちた罪を見つめながら、私はひと眠りしようと瞼を下ろした。


 ・

 

 -数年後、とある場所にて-

 

「ここはどこ……?」

 無機質な作りのベッドで、一人の少女が目を覚ました。

 とても長い夢から目覚め、闇から逃れるように生まれた朝に少女は生まれた。生まれたという表現は大げさだろうか、ただ少女は眠りから覚めただけなのだから。


 その少女、何も無いように白い少女は、その外見に負け劣らずに内面にも何も無い。夢の中に置いてきたのか、眠る前から何も無かったのか、あるいは本当に目覚めたと同時に生まれたのか。

 今の少女にあるのは見てきた夢の記憶と、ヨミと言う名前だけだった。


 ・

 

 -とある時代、とある会議室-

 

「僕の案ならば、この戦争で死ぬ人数ははっきり言って半減する。いいや半減どころじゃない、民間人が死なずに済むんだ、まだ銃も無い時代のイクサと同じような戦い……それを僕ならば実現出来る」

 一人の天才は、私たち端末に入った企画書を読む軍の上層部に語りかけた。

 彼の名はアダム。かつて人類の始まりとされた男の名と同じ名を親に貰い、そして神から命を授かった彼は、もう一度言うが天才だ。


 おそらく最初の人類であるアダムから数えても指折りに入る程の天才。その頭脳ならば、文字通り世界を変える事も出来るだろう。現に彼はこうして、悪魔の発明をしてしまった。

 私は企画書に書かれた装置に戦慄しつつ、少し彼の作る未来に期待してもいた。

 核ミサイルも戦闘機も飛ばない空が、毎日見れる日が来るのであればそれ程の幸せは他にないだろう。


「このギャンブル、お前はどう考えるんだ? フール。俺は核兵器撃ち込んだ方が早いと思うが」

「人類の命運をサイコロ振って決めるのも、中々粋なものだと思わないか、マーゼフ。少なくとも私は、あの天才の頭脳に賭けるよ」

 きっと振ったサイコロが止まる時には、私たちの手に銃なんか無いのだろう。そう思わないと、明日戦場で死ぬかもしれない私やマーゼフは、死んでも報われない。






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