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Monochrome  作者: 自由帳
1章 -街も人も壊れている-
3/11

-2-街も人も壊れている。

「そうかい、望くんらしい死に際だね」

 彼の死から、私が彼を食べてから一ヶ月程が過ぎた。私は冬の近づく世界中で何とか生き続けていた。

 孤独にも順応していき、元の私になろうと事実に抗っていた中で、その男は私の目の前に立っていた。

 その男の事を私は知っていた、過去に何度か私と彼に林檎をくれた変わり者。眼鏡をかけていてスーツを着ている、大体50くらいの男だ。名前を名乗らないので私はこの男を「おじさん」と呼んだ。


「あいつ、望って言うんだ」

 初めて聞いた彼の名前に、私は少し嬉しく思った。これで彼の名前を呼べる。

「名前すら教えなかったのか、本当にあの子は……私の教え子は皆あんな感じなんだ、ごめんね」

「おじさんも名乗らない」

「私に名前なんていらないよ、そんな大層なものは身に余る」

 微妙な表現だ。まるでその言い方では、元々は名前があったみたいじゃない。そんな小さな質問を口に出しかけて____止めた。

 名乗らないのは私も同じだ、名前を呼ばれるのが耐えられないから、名乗らない。それは彼、望に対してもそうだった。


 名前を失う事で私は罪から逃れようとしている、家族を殺した罪を忘れようとしている。

 過去の事を思い出しかけて、おじさんから貰った林檎を一口齧る。


「そろそろ世界の四季は冬に移る、きっと私は冬を開けたらもう、お嬢さんには会いに来れない」

「どうして?」

 その質問には答えず、おじさんは私の頭を撫でて困ったふうに笑ってから「どうにか生き残ってくれ。この世界は確かに壊れきっているかも知れない、けれど人類が生存する道も存在するはずだ、だから生き残って、大人になってくれ」

 と、震えた声で私の顔を見ずに言った。


「大人になって、どうすればいいの」

「すぐに分かる、春が来たら生き残りを探せ、そして助け合って生きろ」

 おじさんは林檎の入った紙袋と、銃を私の横に置いた。遺伝子改良で日持ちするようになっている林檎が10個程と、1丁の拳銃。 前者はともかく後者を置いた意味を理解出来なかった。


「使い方分かるか?」

 コクリと頷く。

「そうか、玉はここに置いておくが少ないから無駄使いは止めておけ」

「何で銃を置いていくの?」

 その質問にも、やはりおじさんは答えない。

 ただ最後に「後悔のないように」と頭を撫でて、何処かに歩き始めた。


 私はそれを止めようとはせず、ただ感じた寂しさを誤魔化すように林檎を齧った。大して美味しくない、孤独を強く感じさせられる寒さと相まって、私は泣きそうになる。



 しばらくして、冬が来た。

 ある日を境に気温が低くなり、その日を境に人がどんどん死んでいった。

 私の身体も段々と衰弱していくのだろうか、林檎があるうちは大丈夫だろうか、そんな事を思っていたがもう林檎は二個しかない。私も降り始めた雪に埋もれて死ぬのだろうか。


「生きなきゃ」

 そう呟いて、拳銃を撫でる。

 おじさんのために、望のために、家族のために。

 私は死ぬことを許されないのだから、生き続けることが私の贖罪なのだから、私は背負った罪や誰かの願いのためにも生き続ける。


 けれど、この冬を越えられる確率は五分五分といった具合だ。

 去年までは棄てられた車の中で生活していたが、今はビルとビルの空間で寝ている身だ。暑さに強くても寒さに対して弱すぎる。

 ビルの中に入ってしまっては、きっと場所取りの争いに巻き込まれてしまう。皆が皆生きるために必死なのだ、人間性を忘れるほどに。


 さてどうする、考えている間にも雪は降り積もって命は削られていく。

 選択肢が無いように言ったが、実際のところ行くあてはあった。ただそこに行く事は私にとって、罪に目を向ける事と等しい。

 私たちの家、私が家族を殺した場所。

 そこに行けば冬を越せるだろう、そこに行けば私は生きていけるだろう。

 昔の私ならそこまでして生きようなんてしないかったはずだが、未だ死体が転がっているであろう場所、そこに私は歩き始めていた。



短編のストーリーから分岐してしまいました。

次回は少しグロさ多めになるかと思います、ついにこの主人公、黒い少女の名前が明かされるかも知れません。


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