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Monochrome  作者: 自由帳
2章 -モノクロの虹-
10/11

-3- ハイシャ

「完走お疲れさん、残念だけど休憩してる時間はないんだ」

 

 ゾンビから逃げ切り、ビルの床にへたり込む私を、赤髪の彼女は無理やり立ち上がらせた。

 

「あなたは……」

「自己紹介したい所だけど、あんたの引き連れたゾンビが予想上回って、多分ビルの扉持たないから、逃げるよ」

 

「一つだけ、一つだけいい?」 

 

 乱れる息を整え、私は彼女の目を見つめる。髪の色は赤だが、瞳の色は紫に近い色をしている。

 

「何? 本当逃げないとヤバイから、手短に」

「生き残りはあなただけじゃない……でいいの?」

「当たり前でしょ、こんな世界、独りじゃ生き残れないよ」

 

 それを聞いて、少し涙腺から涙が溢れ出るのを感じた。

 本当に、本当に生き残りはまだ居た……。今までの事は全て、無駄じゃなかったのだ。

 

「そう……行こう、せっかく生き残りに会えるのに、ここで死ぬわけにはいかない」

「他の入口に仲間が待ってるから、行くよ」

 

 彼女に手を引かれ、この地獄から救われたように思えた。

 例え手を引かれた先も、ゾンビだらけの世界だとしても、他人の体温が手に伝う感覚が懐かしく、妙に嬉しかった。

 


 ♢

 

 

「テレル、早く車出して」

 

 非常口から外に出ると、そこには彼女が言った「仲間」と、錆び付いていない車があった。

 

「おかえり、チビと生き残りちゃん」


 金髪とサングラスの、人を食ったような笑顔を浮かべる青年が「テレル」なのだろうか、他に人は見当たらないので、おそらくそうなのだろう。

 

「チビじゃない、いいから車を出せ、死ぬぞ」

「そりゃ怖い、でも車を出すためにはお二人さんが乗らないと、だぜ」


 ニヤリと笑って、彼は運転席についた。

 

「あたしたちもさっさと乗るぞ」


 私は言われるがまま後部座席に座った。

 ……内装もちゃんとしている。

 

「……それで? 生き残りちゃんの仲間はどこにいんのさ」

 

 しばらく車を走らせていると、おそらくテレルという男が私にそう聞いてきた。

 

「私独りよ、何年も前からね」


 そう答えると、二人は同時に「え?」とこちらに振り返った。

 

「何年か前に一度、生き残りのキャンプに居たことはあったけど、私以外みんな死んだ」

「いや……この地獄を独りでって、お嬢ちゃん一体何者なのさ」

 

「ただの生き残りよ、それよりもそろそろ自己紹介とかしないの?」


 私にも、私が何者であるべきなのかは分からない。何者になるべきで、何者になりたいのかも。

 過去に捨てた名前も、過去になった全てのものが、私の存在をあやふやにしていくから。

 私は私が、分からない。

 

「それもそうだね、あたしはアリー、アリー・ミーリック」

「で、俺がテレル・ブレア。二人ともイギリスの血筋だ、でお嬢ちゃんは?」

 

 イギリスと言うのが何処なのかは分からなかったが、それは聞くほどの事じゃないだろう。

 私はどう名乗ればいいのだろうか、名前が無い私は、どう名乗るべきなのだろうか……?

 名前が無い、というのはやはり不便なものだ。以前居たキャンプではなんて呼ばれていただろうか――

 

「私は……黒。黒と呼んで」

 

 そう名乗り、二人の男の事を思い出した。

 まだあの街に留まっていた頃に食べた初恋の人と、生き残りのキャンプであった、同い年の少年のことだ。

 二人とも、既にこの世に居ない過去の人物。

 その両方が私の事を「黒」と呼んでいた。

 

「黒か、あんたの髪の色にピッタリだね。あたしも赤に改名しようかな」

「お前はブラッドとかの方が似合ってる……痛い! 俺運転してるんだから殴るなよ」

「知るか、事故って死ねよ」


 そんな二人の人間らしい会話を聞いていると、この地獄にも救いがあるように思えてくる。

 救いなんて無いくせに、そう思わせるんだからタチが悪い。

 私の周りに現れる人間は、いつもそうだ。

 

「お嬢ちゃん、静かだねぇ。緊張しくてもいいのに、自分だけの世界だと思ってくつろいでくれていいんだぜ」

「……私の世界なんて、現実(ここ)以上に地獄なのだけど、そこでくつろげって?」


 冗談半分に答えると、テレルは「それじゃここは天国だな」と笑い返してきた。

 

「そうでもない、ここも十分地獄」

「車の外は、ね。この車の中は天国とまで行かなくとも、くつろげるくらいには快適よ」


「俺たちの住処に着くまでは後一時間くらいかかるけど、それまでの間寝てるかい? アリーもお嬢ちゃんも、互いを追いあって疲れたでしょ」

「追いあって?」


 彼の言葉に引っかかり、ついそう聞いてしまった。

 

「……なるほど、謎が解けた。今日一日……いや、もっと前? 私が生き残りの痕跡を見つけても、あなた達に接触できなかった理由は、つまりあなた達は私に見つからないように私を監視していた、そういう事?」 

 

 今日の野犬は、飽くまでも偶然の産物だってわけだ。

 私が本格的に生き残りを探し出すのを、具体的にはゾンビの活動時間に動き出すのを、彼女達は伺っていたのだ。


「待って、説明させて」 

「安心して、別にあなた達を警戒したりはしない。目的を含めて全部理解した」

 

 両手を上げてこちらに振り返るアリーに私は優しく笑う。

 

「むしろ、あなた達が私を警戒していたんでしょう? 私の正体……というよりも、私が誰の仲間なのかが分からなかったから」

「驚いた……そこまで分かってるなんて」

「軍の人間だとでも思った? 残念だけど、軍も既に壊滅してる」


 過去に何度か、駐屯所の無線を使って連絡を取ろうと試みた事がある。

 もちろん駐屯所に生きた人は居なく、無線も応答がないままだった。

 

「それは違う、軍はまだ機能してるわ」

「私は何度も確かめた、もう軍に生き残りがいても、シェルターの中」

「いいや、アリーが正しい。軍はまだ動いてるんだよ、あんたも見てきたろ、お嬢ちゃん」

 

「……どういう事?」

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