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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第5章 遠い約束
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第39話 プラチナ色の帳(とばり)(中)

***

 和仁直太は、鹿島長介とともに、外の空気を吸うために、出た。


 いつまでも泣いている鏡子の様子は、見ていられなかった。


 直太にとって、鏡子はいつも強く、優しく、美しい女性だった。その鏡子が、子どものように泣く姿は、見ていて、胸が痛んだ。


 どうやら鏡子は、試合前日に大切なブレスレットが切れたために、瞬が助からないと思い込んでいるらしい。


 瞬の手術は、長引いていた。

 一進一退の状況が続いている様子だった。

 

 陽が、傾こうとしている。


 直太が、長介と、テレポートを使いながら、病院に何とかたどり着いた頃には、もう夕方近くになっていた。


 鏡子に電話をしても、かからなかった。兵学校にさんざん、問い合わせをしたが、個人情報の壁に阻まれた。

 その後、ようやく担任であるボギーの所在だけは教えてもらえ、瞬の居場所がわかった。

 

「なあ、長介。瞬、助かるよなぁ?」

「う、うん……大丈夫だよ、きっと……」


 預言者でもない長介に、わかるはずもない問いだが、直太は同意を求めずにはいられなかった。


 だが、直太は内心、畏友(いゆう)の朝香瞬が亡くなり、宇多川鏡子に恋人がいなくなった場合のことを、考えてしまう。醜い感情を打ち消そうと、首を大きく横に振り、自分にも言い聞かせる。


「そうや、大丈夫や。あいつが死ぬはずがない」

「……お、大河内君が、最後に火球を放った時、一瞬、何かが光った気がしたんだ……たぶん、サイの動作光だと思う」

「ほんまか? 瞬が、発動しおったんやろか?」


「わ、わからないけどね……。ほんの一瞬だったし、座席の位置によっては、見えなかったと思うけど……」

「どんな色の光やった?」

「……ぎ、銀色っていうのかな……きれいな色だった……どこかで見たような、気がするんだけど……」


 長介の言葉の終わらないうち、直太は、視界に入ってきた少年に向かって、いきなり啖呵を切った。


「こら、大河内! どのツラ下げて、来おったんや?」


 大河内のふてぶてしい表情に、直太は、むかっ腹を立てて、胸倉をつかんだ。瞬と鏡子に代わって、殴りとばしてやりたかった 。


「おら! 何とか、言わんかい!」


「ち、ちょっと、やめなよ、和仁君!」


 長介が間に入ってきたが、直太が揺さぶると、大河内は、情けないほど弱々しく、よろめいた。

 あわてて長介が、大河内の身体を支えた。


「お、大河内君が、あの試合で放ったサイは、僕なら、半月ぶんの発動量だ。とっくに、発動限界だよ。とても、立っていられる身体じゃないはずだ」


「知るかい、そんな話! 使いこなせへんクセに、中途半端なサイ、使いおってからに! 瞬と鏡子ちゃんに、謝らんかい!」

 

 大河内は、胸倉をつかむ直太の腕に、力なく手をやりながら、首を横に振った。


「予科生レベルのTSコンバットでは、使用サイの種類に、制限はもうけられていない。パイロキネシスを使っても、ガロアの防壁さえ張っていれば、致命傷など、負ったりはしない」


「まさか、お前。瞬が悪い、言うんちゃうやろな?」


 大河内は不愉快そうに、そっぽを向いた。


「放せよ、和仁」


 大河内は、自分を支える長介の手をふり切って離れると、病棟へ向かおうとした。


「瞬が、まだ防壁張れへんのは、お前、知っとったやろが!」

「……朝香は、死なねえよ」

「何で、分かんねん!」


 直太が大河内の肩をガシリとつかむと、大河内がふり向いた。


「最後に、審判のクロノスが介入したろうが」


 大河内が、直太の手をふり払った。


「お、大河内君、それって、君がパイロキネシスを発動した直後の――」

「ああ、プラチナ色の防壁だよ。一瞬だったが、さすがはクロノスだよ、強力な光壁だった」


 再びきびすを返した大河内は、病棟に向かってゆっくりと歩み始めた。


「瞬には会えへんぞ。夜中までかかる手術らしいからな」

「宇多川が、いるだろ? あいさつは、しとかないとな」


 大河内は背を向けたまま応じたが、一、二歩、歩いたところで、そのままうつ伏せに、倒れこんだ。


 直太と長介が、駆けよる。


「こら、大河内! しっかりせんかい!」


 直太が、助け起こすと、大河内が苦笑いした。


「へっ、俺様としたことが、情けねえザマだぜ。歩けねえほどサイを発動させられた挙げ句に、準決勝敗退なんてな」

「え? 試合、どうなったんや? お前が最後、ポイント取ったんとちゃうんか?」

「そうだ。でも、俺様の、反則負けさ」


 後にされた主催者側の正式発表では、終了時刻と同時に、大河内による第四チャクラへのヒットが認められた。


 だが、審査員から「規定発動量を超えるパイロキネシス発動の有無」につき、問題提起がされた。

 現場に残された動作痕とビデオ解析の結果、規定発動量二〇〇ミリガロアを超える発動があったことが、確認された。


 サイ発動の種類に制限はないが、競技者の安全確保のため、予科の新人戦では危険性の高いサイについては、規定発動量が定められている。大河内は規定に反したため、反則負けとなったわけだ。


「坊ちゃん! やっぱり、こんな所に!」


 兵学校でもたまに見かける、大河内家のお抱え運転手の叫び声だった。小太りの腹を揺らせながら、直太たちのほうへやってくる。


「騒ぐな、ハル爺。俺様は、ただの過労だ」


「数日は安静にされませんと。病院をテレポートで抜け出されるなんて、むちゃな真似を」

「お前たちが、俺様を出してくれるわけがないだろうが」


 大河内は責任を感じ、無理をして、病院を抜け出したのだろう。


「病院も、大騒ぎでしたわい。さ、早く戻りますぞ」


 サイの過剰発動による心身の疲労に、最も有効なのは、安静だとされている。


「肩を貸せ、ハル爺」


 ハル爺に支えられながら、大河内は、直太と長介を見た。


「朝香と宇多川に伝えておいてくれ。反則については、謝る。俺様も、発動量をコントロールできるほどの腕じゃ、なかったわけだからな」

「わかった。伝えといたる」


 よろめきながら去っていく大河内の背に向って、長介が叫んだ。


「お、大河内君!」


 ふり向いた大河内を、長介が称えた。


「君は立派だったよ、大河内君。試合でも、試合の後も」

「ほざけ、鹿島。敗者は、例外なく、みじめなんだよ」


 直太と長介は、再び歩み始めた大河内の後ろ姿が、消えるまで、見つめていた。

 あの身体状態で、テレポートを発動するとは、大河内も、瞬の負傷に対して、よほど責任を感じているに違いなかった。


「ところで長介。結局、誰が、優勝しおったんやろ?」


 長介は、カバンから携帯端末を取り出すと、新人戦のサイトにアクセスした。

 直太も脇から、のぞき込む。


「お、オニキス組の、天野翔っていう人だね……」


 もう一つの準決勝では、序列五位の小熊千夏が、一〇八位の天野翔というダークホースに敗れた。


 大河内に勝利した瞬が出場できなかったから、結局、第二兵学校では決勝戦が行われず、優勝者も、不戦勝で決まったわけだ。


「そいつ、ワシが予選で負けた相手やないか」

「じ、準決勝まで、すべて一分以内で、瞬殺しているらしいね。こんな同期生がいたんだ。すごいや……」


 直太の記憶も、同様だった。

 試合開始直後、黒の動作光がきらめいたかと思うと、チャクラを痛打されて、終わっていた。凄まじい速さだった。


 直太が弱くなったのかと落ち込んでいたが、どうやら、相手が悪すぎたらしい。


「瞬とは別の意味で、化け物やな。何で、ワシら、一年次で、ソイツに、気づかんかったんやろ?」

 

「……お、オブリビアスみたいだね。朝香君と同じだ……」


 長介が優勝者を取り上げたニュース記事を見つけたようだ。

 TSコンバット新人戦は、将来のクロノスを占う行事でもある。各社が報道していた。


「まあ、これで、瞬も、全国代表になれたわけやし。退学の話も、なくなったわけやな」


 瞬の手術が成功し、生きていられれば、の話だが。


「そ、そうだね。戻ろうか、和仁君」


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