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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第4章 TSコンバット新人戦
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第30話 魔弾の射手――鹿島長介戦(2)(下)

 太極の瞬は、長介に向かって、蜻蛉切を構えながら、深呼吸した。


「手間をかけさせるね、朝香君。僕はまだ、準決勝に備えて、特訓しなきゃならないんだ。早めに、終わらせてもらうよ」


 長介は眼を閉じ、両腕をクロスさせると、すばやく開いた。


 青空色の光が、瞬を襲う。広げた両手ほどの幅の風撃だ。これでは避けようがない。まともに喰らった瞬が吹き飛ばされて、倒れた。


 打撃面積が広く、チャクラをヒットするほどの威力はない。だが、生身の瞬には、全身を殴られるような暴風に感じられただろう。


「あれだけの幅で風撃が来られたらね……」


 単純な遠距離攻撃は、攻撃されずに生身の人間を確実に倒すには、すぐれて有効な手段だと認めざるを得ない。

 瞬は、長介に一度も触れることさえできずに、このまま敗退してしまうのか。


 万事休すに、見えた。


 槍を杖にして立ちあがった瞬に対し、長介は再び、両手を構えた。

 対する瞬は、相変わらず太極にあって、中腰で、槍を構えている。

 長介は、太極を中心として時計回りに大きく回転する形で、移動していた。

 鏡子の座席位置からは今、瞬と長介の向かい合う様子が、角度をつけずに、ちょうど見ることができた。


 鏡子は、祈る思いで、瞬の端正な横顔を見詰めた。

 長介がクロスされた両手を再び広げる。たちまち、スカイブルーの風撃が、瞬を襲った。

 鏡子は眼をそらしたい気持ちを抑えながら、瞬の戦う姿を見た。


 目を、疑った。

 瞬は軽く吹き飛ばされて、後退しただけだ。難なく攻撃を受け止めた。

 長介が重ねて放った風撃も、瞬には通用しない。

 攻撃が止んだ時、理由が分かった。


「なるほど、槍回しか。瞬のヤツ、長介の攻撃パターンを、最初から読んでいたわけね」


 瞬は、長介に向って、槍をすばやく回転させた。槍回しによって、物理的な風の防壁を作って、衝撃を吸収したわけだ。


 例えば≪カマイタチ≫と呼ばれる、強力な遠距離サイ攻撃であれば、槍回しなどで、防御はできまい。だが、光壁で防げる程度の風撃に対しては、槍回しは有効な対抗策と言えた。


 長介が三度目に放った風撃も、空しく、槍回しに破れた。

 終わるや、瞬が、猛然と突進した。

 この勝機を瞬はじっと、待っていたのではないか。


 鏡子は思わず、身を乗り出す。

 勝ったと、鏡子は、思った。

 瞬の槍が、長介の第五チャクラを突こうとした時――


 長介の姿が消えた。

 競技場の中にはいない。瞬も観客も、長介の姿を探した。

 長介の小身は、競技場を囲う高さ三・五メートルの壁の上にあった。


「さすがは長介ね。上にテレポートで逃げていなければ、完全に負けていたわ」


 TSコンバットでは、様々なサイの使用が想定されるため、観客らを保護すべく、競技場の周囲は、高さ三・五メートルの壁で覆われている。空中戦も行われるから、厚さ一メートル余のコンクリート壁に乗ることは、ルール違反ではない。


「さあ、どうする? 生身の人間じゃ、三・五メートルの壁には乗れないもんね。近接戦闘は無理よ。槍回しだけで、長介を倒そうなんて、いかにも浅い料簡だったわね」


 長介はコンクリート壁の上で、光壁を展開して、精神を集中させている。もう、壁上から競技場へと下りるつもりはないらしい。

 壁上にいる限り、サイが使えない瞬の攻撃を受ける心配はあるまい。必勝を期すための冷徹な戦略だった。


 次の一撃は、渾身の風撃だろう。

 「魔弾の射手」と呼ばれ、遠距離サイの技を磨いてきた長介が放つ暴風だ。果たして、槍回し程度で、防げるだろうか。


 長介は、太極に立つ瞬に向かい、両腕をクロスさせた。長介のコンバット・スーツが、強い青空色の光を放っている。


 長介が両腕を開き始める。

 猛烈な暴風が、瞬を襲うだろう。

 だが、瞬のとった異様な行動に、コロセウムにどよめきが起こった。


 瞬は、≪蜻蛉切≫の槍先を地面に差すと、棒高跳びのように、空中へ高く、舞いあがった。

 上下が逆になっている瞬の頭の下を、青空色の暴風がかすめて行く。

 サイを外した長介が、唇を噛む様子が見えた。


 長介は、瞬がサイを使えないことを前提に、左右への逃避を防ぐべく、幅広の風撃を放っていた。空中への逃避は、まったく想定していなかったのだろう。瞬は、それを逆手に取った。

 瞬がAPに槍を選んだ理由は、槍回しだけではなかったようだ。


「あたし……鳥肌が立ってきた。瞬のヤツ、この試合も、勝つ気でいるわ。ぜんぜん攻撃ができないのにさ」


(瞬君は、何があっても、絶対に諦めない……

 ……どうしよう……? 

 ……私は、ますます瞬君に惹かれていく……)


 瞬が地上に着地した時には、壁上の長介は再び、精神集中に入っていた。

 残り時間が、一〇分を切っている。

 瞬の攻撃は、長介のチャクラにかすりさえしていないが、長介もまた、チャクラへの有効な攻撃に、一度も成功していなかった。


 このまま推移すれば、試合は、延長戦に入る。

 長介としても、この試合でずいぶんサイを発動させられている。すでに一日ぶんの発動限界は超えているだろう。


 明後日の準決勝を想定すれば、延長戦は避けたいはずだ。そうすると、精神集中をした後の最後の攻撃に、すべてを懸けるはずだ。

 長介は、十七期で最高の遠距離砲を誇る。


 ≪魔弾の射手≫が無策で、次の攻撃をするとは思えなかった。

 瞬に、もはや立ちあがれないほどの打撃を与えたうえで、競技場に下りて、鹿島家に伝わる≪新藤五≫で、ケリをつけるつもりだろう。


 瞬は今、知恵を巡らせ、対策を考えているだろう。

 二度、同じ手は通用すまい。今度は長介も、上への逃避を計算に入れて来るだろう。どうやって、直撃を回避するか。


 瞬ならば、何かの方法で、長介の攻撃をしのげるかも知れない。

 だがそれでも、長介のチャクラを攻撃しない限り、瞬に勝ち目はなかった。

 瞬は、競技場をテレポートで逃げ回り、壁上にいる相手を攻撃する方法を、持っていなかった。


 この試合で瞬は、まだ一度も、長介に対し、まともな攻撃さえ、させてもらっていない。

 それでも、瞬は、勝つつもりなのか。


 壁上の長介と瞬が対峙している。その距離は、二十数メートル。

 次は、どんな暴風が、瞬を襲うのだろうか。

 全身を、自らの霊石≪セレスタイト≫の色に輝かせた長介が、両手をクロスさせた。


 眼を見開き、両手を開く。今度は、十本の指がすべて開かれていた。

 競技場に向って、十本の風撃が同時に放たれた。


 瞬は、槍を使って、直上に逃れながら、倒立状態で、槍回しをしている。

 確率の問題だが、直上に放たれるサイだけなら、防げると考えたのだろう。

 青空色のレーザー光線が、瞬を次々と襲う。

 だが、様子が変だ。


「え? もしかして、偽物?」

 隣の伽子が、思わず声を上げた。


 鏡子は唇を噛んだ。


「フェイクの動作光だったようね」


 長介は手を競技場に向けてはいたが、まだ、サイを発していなかった。

 フェイクの動作光だけを放ち、注意を惹きつけておきながら、本物の風撃を時間差で発する作戦だったわけだ。一般的に使われる業だが、動作光を放つだけでも精神力を使うから、多用はされない。


 空中の瞬は、必ず着地しなければならない。

 そのためには、槍回しをやめ、着地体制に入る必要がある。防御に必ず隙が生ずる。長介は、その時を狙っているわけだ。


 瞬は身体を捻って、足を下にしようとする。瞬は長介に対し、無防備な生身の背をさらした。


 長介は今度こそ、右手の五指から、渾身の風撃を放った。瞬は数本の風撃をまともにくらって吹き飛ばされた。


 瞬の身体が、競技場の壁にぶつかって、崩れ落ちた。


 ついに長介が、壁上から、競技場に降り立った。左手は青空色の光に包まれている。五指のサイは未発動だ。


「勝負あったわね。生身であれだけの風撃を受けて、立ち上がれる奴なんて、いるわけないわ」

「……どうかしら。瞬君がやってきたのは、並みの訓練じゃないから」


 長介は、腰に差していた≪新藤五≫を抜き、ゆっくりと、瞬に向って歩んでいく。


 瞬は槍を支えにして、よろめきながら、立ち上がった。

 長介が一〇メートルまで近づくと、瞬は、地面に槍を刺し、長介に対し、くるりと背を向けた。

 攻撃してくれと言わんばかりの奇策だ。


 伽子が吐いて捨てるように、つぶやいた。


「やぶれかぶれ、か」


 長介が瞬の背に五メートルに迫った。踏み込みながら、光る左手を振りあげる。

 背後の気配を読んだのか、瞬は、壁に向かって跳んだ。槍を頼りに、身長の高さで、壁を両足で蹴る。


 長介の五本の風撃は、瞬の背の下を通り、空しくコンクリート壁に当たった。


 瞬は、槍を捨てている。空中で、汎用ダガーを抜く。バク転しながら、長介の背後に回るつもりだ。


 瞬は、地上からちょうど垂直な態勢だ。長介の頭上で、瞬が倒立状態になった。


 ダガーをすばやく、長介の頭上にのばす。


「あの体勢で、第七チャクラを? 狙ってたの?」


 が、瞬のダガーは、チャクラをヒットする寸前で、身を返した長介の新藤五に、はじかれた。


 瞬の着地した瞬間を、長介の新藤五が狙う。瞬は、ダガーで受け流す。剣技は、瞬のほうが上だ。


 瞬が、ダガーの猛撃で、長介を壁際に追い詰める。

 長介の第四チャクラを突いた時、長介の身体は消えていた。

 すでに壁上へ、テレポートを決めた後だ。


 試合終了の鐘が鳴った。


 手に汗にぎる熱戦に、コロセウムが、沸いた。

 

 ――双方、有効打なし。一〇分間の休憩の後、延長戦に入ります。


 審判による場内アナウンスが聞こえると、コロセウムが再び湧いた。


 十五分間の延長戦が行われる。


 鏡子は、瞬が、槍を片手に、ふらつきながら、競技場を出る後ろ姿を、感嘆の思いで、見つめていた。

 瞬は決して諦めない。成功しなかったが、最後の攻撃パターンは、計算づくで、長介を追い込んだようにさえ、見えた。


「鏡子。もしかしたら、アイツ……ちょっと……カッコいいかも知れないわね……」


 眼をやると、伽子が、ボーッとした様子で、瞬たちの去った競技場を見ていた。


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■用語説明No.30:鹿島家

名家≪八獣家≫の一つ。

リール以前から続く政治家の家系で、優秀なクロノスを輩出して力を得たが、三旗の川野辺家とともに、天川家の専横に対抗していた。

半軍事政権への移行を巡り、鹿島家は二分され、骨肉相食む悲劇を生んだ。現在は、往時の力を失っている。下北沢に邸宅がある。

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※最後までお読みくださり、ありがとうございました。


次回、第三一話「魔弾の射手――鹿島長介戦(3)」


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