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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第4章 TSコンバット新人戦
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第30話 魔弾の射手――鹿島長介戦(2)(中)

 コロッセオが騒めいた。


 東ゲートから鹿島長介が入場してきたためだ。得物はもちろん、弓矢だった。


「あたしはもちろん、長介に勝つつもりだったけどさ。サイを使う前提の話よ。サイを使わないで、アイツの矢をかわそうなんて、想像もできないわね。それでも、勝つつもりなんでしょうね、あんたの彼氏は」


「彼氏って、まだ、わからないわ」


「フン。あんたも、まだお子様ね。それじゃあ、聞くけどさ。どうしてアイツは、あんなに必死で戦っているの? 別にクロノスになりたいから、じゃないでしょ? オブリビアスのアイツには、背負わなきゃならない家も、守るべき家族も、ない。じゃあ、何のためなの?」


 西ゲートから入場した朝香瞬一郎の姿に、コロッセオがざわめいた。序列二位の五百旗伽子を倒して実力が認められたのだろう、ルックスもいいから、女子予科生を中心に、にわかファンが増えているようだった。


 鏡子は、宇多川家のコンバット・スーツをまとう瞬の姿を、誇りに思いながら、見つめた。


 なぜ瞬は、血のにじむような努力を重ねてきたのか。試合でも、最後の一瞬まであきらめずに、勝ち続けようとしてきたのか。この兵学校に残りたいからか。なぜ、そこまでして、残りたいのか。


 伽子の機関銃仕様の口が、一方的に続く。


「聞いたわよ。あんた、アイツのために、エントリーを取り消したんだってね? あたしと同レベルの美少女に、そこまでされたらさ。どんな男だって、燃えるわよ。アイツは今、誰のためでもない、あんたのために、戦ってる。アイツは、マジで、優勝するつもりよ」


 伽子の言葉に、鏡子は悪い気がしなかった。


「ま、それに、TSコンバットを分かんないヤツと試合見てても、面白くないじゃん」



    †

 コロッセオでは、朝香瞬と、鹿島長介がめいめいウォーミングアップをしながら、試合開始の合図を待っていた。


 長介の得物は、得意の弓道で使っている和弓ではない。サイを併用する長介にとっては、移動の障害になるためだ。弦の短い弓を、二つの矢筒と共に、背にしっかりと装着していた。


 長介は、サイを放つための精神集中を繰り返している様子だ。

 これに対し、瞬は、コロッセオを歩き回りながら、時おり立ち止まっては、開かれたドームの屋根から見える建物や空を見あげていた。


「あたしと戦ったけど、疲れてないよっていう、ハッタリのアピールかしらね?」


 これまで瞬は、長介の戦いを、一度も観戦していなかった。

 仮にしていたとしても、あまり意味はなかったろう。これまで対戦相手に恵まれた長介は、さして得意でもない剣技で、格下を圧倒してきただけで、まだ本領を発揮していなかった。


 いつも同じパターンだが、瞬には「出たとこ勝負」しか、なかった。


「ねえ、鏡子。あんたに訊いてるんだけど? 動物園のシロクマみたいに動き回っているの、あれ、フェイクなの?」

「……知らないわ」


「ちょっと待って。鏡子、宗近じゃないの? 得物?」


 槍の穂鞘(ほさや)を取る瞬の姿に、伽子が驚きの声をあげた。


「ウチの蜻蛉切(とんぼきり)を、貸してあげたわ」

「見りゃ、分かるけどさ。もしかして遠距離サイに対抗して、リーチを少しでも長くっていう、単純な発想?」


 もしかしたら、図星かも知れない。

 鏡子は答えない。伽子の問いに応える義理はなかった。


「食べる?」


 鏡子が黙っていると、伽子がポップコーンを差し出してきた。コロッセオでは飲食物が販売されているから、観客は自由に飲食していい。


「……要らないわ」


 試合前の緊張で、鏡子は食欲がなかった。


「アイツ、槍も使えるんだ?」

「刀ほどではないけど、槍術も相当の腕前みたいね。彼が扱えない得物は、ないかも知れない」

「……クロノスになる訓練をそこまでする家って、三旗と六河川以外に、あったっけ? 八獣でも、そこまでやらないでしょ?」


 たしかに、育ちのよさそうな瞬の上品な物腰は、名家の子弟を思わせた。もしも瞬が、あの少年なら、つじつまが合う。起きた後、忘れてしまった夢のように、記憶は奪われているが、瞬こそが、鏡子の初恋の相手だと、鏡子は信じ込んでいた。


 観客席から騒めきが起こった。もうすぐ試合開始だ。



    †

 長介がゆっくりと、太極へと向かう。

 遠い場所にいた瞬は、槍を小脇に抱えて、足早に戻る。


「朝香君。君と戦う時を、楽しみに待っていたよ」


 長介の口調からは、ふだんの吃音(きつおん)が一掃されている。


「僕には、楽しむ余裕なんて、なかったけどね」


「やべ、長介のヤツ、完全に戦闘モードに入ってんじゃん。ああなると、強いからねえ。あたしにも、勝つつもりだったんじゃないの?」


 伽子はその昔、サザエさんがピーナッツで繰り返していたように、ポップコーンを親指で空中に弾いては、器用に口の中に投げ入れている。


「で、鏡子。あんた、瞬に、どんなアドバイス、したの?」

「近接戦闘で、短期決戦。鹿島君に勝つには、他にないから」


「このあたしとフルコース戦った後だからね。でも、サイを使わないで勝つ方法なんて、考えたくもない、超難度の詰め将棋みたいね。手持ちのコマが『歩』だけで、二十手くらい詰めろっていう」


 鏡子は将棋はルールくらいしか知らないから、よくわからない譬えだった。

 きっと瞬は、鏡子と食事をし、コーヒーを飲んでいる間も、雑談をしている間も、いかにして勝つかを考え続けていたのだろう。


 その結果が、「槍」だった。

 果たして瞬は、正答を見つけたのだろうか。



    †

 試合開始の合図が鳴るや、瞬が動いた。

 近距離戦に持ちこむつもりだ。

 だが、瞬が突き出した蜻蛉切の穂先は、空を切った。

 長介がバック・テレポートで、競技場の壁ぎわまで、後退したためだ。


 距離を空けられると、危険だ。

 瞬は槍を小脇に抱え、そのまま突進する。

 長介が左手をすばやく振ると、風圧が生じた。風撃をまともに喰らった瞬の動きが止まった。


 だが、瞬はひるまない。すぐに地を蹴る。長介に向かって、突進した。


 瞬が突き出した槍の先――。

 長介の姿は、やはりなかった。

 すでに左へ約二〇メートルの地点に、テレポートで移動していた。


 相手との距離があればあるほど、サイの発動時間に余裕ができる。数秒間でも精神を集中すれば、一〇メートル強のテレポートが可能だ。

 鏡子や伽子が使う「連続テレポート」を一度だけにして、ゆっくりやっているようなものだ。足を使った移動距離を入れれば、二〇メートル程度は、稼げる計算だ。


 長介は、移動し終える前に、すでに遠距離のサイ攻撃を、瞬に仕かけていた。

 長介の移動先へ転進していた瞬を、いくつもの風撃が襲う。よける。が、うち一つが腹部に直撃した。瞬が歯を食いしばる。


 予科生レベルの長介のサイ攻撃では、チャクラ攻撃と呼べるほどの風撃ではない。鏡子クラスのカイロスなら、防壁を張っていれば、風圧さえ感じないかも知れない。


 だが、防壁に守られていない瞬の場合、長介の風撃はいちいち、ボディブローのように、生身の身体に効いているはずだった。


 サイが使えない相手にだけ有効な、賢い戦略だと言っていい。

 控室で瞬が、しきりに風撃を気にしていたのも、長介がこの戦法に出て来ると予測していたからだろう。


「長介のヤツ、考えたわね。しばらくはひたすら逃げ回って、遠距離のサイ攻撃に徹して、確実に勝ちを取りにいくわけか。サイの使えない相手にしか、通用しない戦法だけど、着実に相手の体力を消耗させられる。実に、イヤラシイやり方ねえ」


 長介のサイコキネシスは平均より上だが、強力でもない。二〇メートル以上離れた遠距離の場合、平均的な光壁に対しては、まったく打撃を与えられない。だが、相手が生身の人間なら、十分な打撃になるわけだ。


「いじめか、拷問みたいね。長介ってさ、瞬の友達なんじゃないの?」

「そうよ。ラピス寮のルームメイトだから」

「女の世界は見苦しいけれど、男の世界も、シビアなものねえ」


 伽子はサイドテーブルに頬づえを突き、他人事のようにつぶやきながら、ポップコーンを口に放り込んだ。


 瞬は太極に移動し、長介に向かって槍を構えた。


(鹿島君は、近接戦闘を避けるために、常に、瞬君から遠い位置をキープしようとする。だから結局、瞬君にとって、鹿島君に最も近い位置は、太極になるはずだけど……)


 競技場の広さは、直径四十四メートルの円である。

 新人戦ではまず見られないが、空中戦を想定して、高さも四十四メートル以上を確保したバトル・フィールドの中で、試合が行われる。


「サイを使う相手に、二〇メートル以上も遠くにいられたら、生身で捕まえられるわけもないか」


 四十四メートルと言えば、サッカーコートの半面弱の距離がある。

 鏡子なら、サイを使って長介に接近し、近接戦闘に持ちこめるだろう。だが、瞬は生身の足で、駆けるしかなかった。


「それに、二〇メートル程度の距離なら、長介の遠距離サイは、まず外れないもんね」


 長介は、攻撃される恐れがないと見たのか、今度は、指揮者がタクトを振るように、両手を使って、サイを放った。

 だが、太極の瞬には当たらない。瞬はわずかな身の動きだけで、高速の風撃を避けている。


「ふうん。長介の長距離サイをかわすなんて、なかなかやるじゃないの。あたしなら、面倒だし、光壁であしらっちゃうけどさ」


 瞬は、宇多川家の猛特訓で、時速四〇〇キロ超のボールをかわしていた。守りに徹している限り、長介の風撃はある程度、かわせるだろう。


 だが……このままでは、勝ち目がない。


 ただ、負けていないだけだ。いずれは疲労のために、すべての風撃をかわせなくなるだろう。


「ねえ、鏡子。瞬って、刀より槍のほうが、得意なの?」


 伽子が馴れ馴れしく、瞬のことをファーストネームで呼ぶことが、鏡子には、愉快でなかった。


「……何でも、玄人のように扱えるようね。でも、やっぱり刀が一番使えると思う」


「ふうん。槍だと、瞬の俊足が生かせないのにさ。どうせ届かないのに、リーチだけ考えてるとしたら、バカね。これだから、コンバットの素人は、困るのよね」


 伽子の批判にも、一理ある。なぜ瞬は、考えた末に、使用するAPに、槍を選んだのだろうか 。


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