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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第4章 TSコンバット新人戦
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第29話 魔弾の射手――鹿島長介戦(1)(下)

 ――ぼ、僕も、お兄ちゃんのように、新人戦で、二校(第二兵学校)の代表になってみせるからね。


 ――そうか、長介。そいつは頼もしいな。兄ちゃんも楽できそうだ。

 ――だ、だから、お兄ちゃんのコンバット・スーツ、使って、いい?


 ――あんなに古いのより、新しいのを使えよ。

 ――で、でも、お兄ちゃんのを、使いたいんだ。

 ――わかったよ、好きにするがいいさ。


 これが、最後の会話になった。


 長介は、何か遠大な野望を抱いて、兵学校に入学したわけではなかった。

 クロノスになって、世が救えればもちろんいいが、自分はそんな器ではないと思っている。


 長介はただ、優しい兄の喜ぶ顔を見たいがために、鍛錬に励んできたのだと思う。

 兄は一言も漏らしたことはないが、恐らく≪赤光のメデューサ≫の正体を突き止め、復讐を遂げるつもりだったのだと、長介は思っている。ならば長介が、兄の遺志を継がねばならぬと、思い定めてもいた。


 大災禍の起こった日の朝、長介は兄に約束した。第二兵学校の代表になる、と。


 あの頃、長介の総合序列は、五位だった。序列一位の川野辺隼人には、とうてい及ばない。だが、幼馴染の鏡子、伽子、大河内信也には、努力次第で、手が届きそうな位置にいた。


 新人戦では準優勝をすれば、全国代表になれる。隼人と別ブロックにさえ入れれば、代表になれる可能性があった。


 だが突然、兄がいなくなって、長介は絶望のどん底に突き落とされた。


 悲嘆のあまり、寝こんで、実家に引きこもった。大災禍の後にしばらく休校していた兵学校が再開されても、心配したルームメイトの川野辺隼人と和仁直太が、強引に迎えに来るまで、登校しなかった。


 哀しみに身を任せて、鍛錬もしなくなった。当然ながら、序列は下がった。川野辺隼人も、兵学校を退学させられた。


 だが、この春、新しいルームメイトの、朝香瞬に出会った。瞬は、すべての過去を奪われても、前向きに生きようとしていた。


 瞬の明るさと優しさに、長介は元気をもらい、長介は立ち上がろうとしていた。


 新人戦を勝ち抜くことは、瞬への恩返しでもあると思っていた。


 物思いに耽るうち、食事も終わった。


「長介や、今晩と明日、あの元気な子が、泊まりに来るんかえ?」

「う、うん。和仁君が来るよ。準決勝に備えて、特訓の手伝いに、来てくれるんだ」

「そうかい、賑やかになるねえ」

「今晩は寝るだけだと思うけど、明日は一日、屋敷で特訓するから」


 今日で、朝香瞬の新人戦は、終わる。長介は、寮で、ルームメイトの善戦をねぎらってあげてから、直太と鹿島家に戻るつもりだった。


 死に絶えたような鹿島家に、光をもたらしてくれるのは、川野辺隼人がいなくなった後、和仁直太だけだった。祖母はもちろん、従妹でさえ、直太の明るさには、心を開いているようだった。



 鹿島長介は、徒歩でキャンパスに入ると、まっすぐ、鹿島家の控室に向かった。試合直前に無駄なサイを費消する必要はない。公共交通機関を使っての通学だ。


 個室の数は、充分にそろえられているから、力を失いつつある八獣家の子弟にも、控室は割り当てられていた。

 長介は、兄の形見のコンバット・スーツを身に着けた。一昔前に流行したデザインだが、愛着があった。


 鹿島家の愛刀、「新藤五」を腰に差した。


 刃長は二十五センチメートルあまり。汎用型のダガーより短めだが、万一の場合にしか使わない得物(えもの)で、長介にとっては、お守りのような物だった。



***

 和仁直太の内心は、おだやかでなかった。


 瞬と伽子の試合結果を伝えようと、長介の携帯端末に何度も連絡したが、長介は出なかった。

 だいたい、長介はいざTSコンバットになると、練習試合でも、人が変わった。外との関係をほとんどシャットアウトして、試合に集中してしまう。


 直太は、さっきから幾度か、訓練棟の上階にある鹿島家の控室を訪れているが、誰かのいる気配はなかった。

 念のため、ノックをしてみる。


 中から返事が聞こえ、ドアが開いた。


「やあ、和仁君」

「やっと会えたぞ、長介。どこにおったんや? 瞬が、五百旗(いおき)に勝ちおったぞ。二回戦の相手は、瞬や」


 直太は勧められるままに、ソファに腰かけた。長介がお茶を淹れてくれた。


「長介。瞬は、ごっつ手強いぞ」

「さすがは、朝香君だね。彼が勝ちあがってくる気も、少しだけ、していたよ。でも、心配はないさ、和仁君。強い敵に対して、僕の戦い方は変わらない。僕の一番得意な方法で、勝つだけさ」


 長介は、実家から持って来たらしい、上等そうな和菓子を長介に勧めながら、ほほ笑んだ。


「もちろん準決勝のことを考えると、相手が朝香君のほうが、僕にはありがたい。五百旗さんを倒すには、ずいぶん体力を使うだろうからね。朝香君には済まないけど、僕は必ず勝つ。川野辺君のためにも、ね」


 直太は大きくうなずいた。


 長介もまた、直太と同様に、川野辺隼人が退学になった一件で、親友を守れなかった責任を感じているに違いない。


 本来であれば、隼人こそが、国立第二兵学校、第十七期でダントツ最強のカイロスとして、新人戦を全国大会まで制覇すべきだった。


 学年が変わっても、序列一位がまだ変わらないのは、一年次の途中までで積みあげた隼人の総ポイント数に、まだ、二位以下が及ばない事情もある。


 だが、名簿から「川野辺隼人」の名前が消え、序列が一つ繰り上げになっても、予科生たちがなお、序列一位の座を空けて、自分の序列を語るのは、いつかまた、川野辺隼人が戻ってくると信じているからだ。


 これは、兵学校側のとった退学処分という措置に対する、予科生たちの継続的な抗議の意思表示に他ならなかった。


「朝香君は、まだ、サイを使えないんだよね?」

「ぜんぜん。アイツが、使えるわけ、ないやんけ」


 長介が小さく笑った。


「それなら、朝香君に、勝ち目はないよ」


 長介は二重人格なのではないか、と直太は時々、思う。

 ふだんは内気で、優しい少年だが、いざ試合となると、まるで人が変わる。吃音(どもり)も吹っ飛び、自信たっぷりの口調になった。


 長介は完全に、試合に集中できる体勢に入っていた。

 体調も万全、絶好調と言っていい。予選の二試合を見たが、長介は完全復活をとげている。

 今の長介は、優勝しか、考えてない。隼人の代わりに優勝するつもりだ。


 長介はすでに、瞬との戦いの後を見すえている様子だった。


*******************************************************

■用語説明No.29:最後の産業革命リール

時空間操作に関する技術革命。Last Industrial Revolutionを略記して、LIRとも呼ばれる。

究極の空間移動であるテレポートを可能とし、過去の改変を可能とする時間操作技術は、その後の時流解読により≪終末の日≫が予知された事情もあり、「最後」の産業革命と呼ばれている。

西ノ島の大規模隆起により、古代に落下した隕石中の≪輝石≫が発見されたことに端を発する、日本発の技術革新である。

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※最後までお読みくださり、ありがとうございました。


次回、第三〇話「魔弾の射手―鹿島長介戦(2)」

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