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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第4章 TSコンバット新人戦
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第26話 エメラルドの彗星――五百旗伽子戦(1)(下)

 訓練棟の最上階からは、井の頭公園の新緑が、眼に優しく映った。


 朝香瞬は、宇多川家の個室から窓の外を見る。雲一つ浮かんでいない。


「さっきはごめんね、瞬君。面白くない話を聞かせちゃって。家同士で、色々と面倒な話があるものだから……」


「それにしても、ものすごい剣幕だったね。五百旗さんは、倒さなきゃいけない。鏡子さんに、失礼なことを言ったから」

「伽子の気持ちも、わかるの……。私の婚約者は……伽子のお兄さんだから……」


 視線を下ろしている鏡子に対して、瞬は、言葉を継げなかった。


 現在の政治体制は、表面上、民主制が取られてはいるが、実際には、半軍事政権となっていた。≪終末≫回避が至上命題とされる今日、時空間防衛軍、すなわち、第四軍が力を持つ成り行きは、自然ではあった。


 軍を中心に、力を持つのが≪三旗≫、≪六河川≫や≪八獣家≫などの名家だ。軍事独裁制への移行が(ささや)かれる中、水面下では様々な政争が繰り広げられているに違いなかった。


 鏡子も、伽子も、政争の具にされているのかも知れない。


 瞬は、話題を変えた。


「あれ? ところで、直太は?」

「鹿島君のところ。瞬君の試合は、応援してたけどね。瞬君には私がいるけど、鹿島君には誰もいないからって。鹿島君は、午後の試合だから」


 宇多川家の個室には、弁当箱が二つ、用意されていた。

 鏡子も疲れているだろうに、腕によりをかけて、作ってくれたようだった。

 伽子とやり合ったせいか、鏡子は元気がない様子だった。めずらしく、あまり会話もなく、しんみりと食べた。


 偶然わかってしまった話だが、鏡子は、婚約を破棄してまで、瞬を想ってくれている。


 うつむき加減の鏡子のさびしげな顔が、瞬はたまらなく愛おしかった。


(美しくて、強くて、賢くて、優しくて、思いやりがあって、僕をこんなにまで、思ってくれる(ひと)に……

 僕は、何の不満があるんだろう……。

 いや、不満は一つもない。ただ、明日乃さんへの想いを、捨てられないだけだ。


 でも、明日乃さんは、手紙に返事もくれないし、僕なんて、何とも想ってくれていない……。

 鏡子さんは僕のことを、真剣に思ってくれているのに……

 それでも僕は、鏡子さんじゃなく、明日乃さんを想うのか……)


 食事を終えると、鏡子がコーヒーを淹れてくれた。

 瞬が、一口すすると、鏡子が気を取り直したように、口を開いた。


「伽子の二つ名は、≪エメラルドの彗星≫。彼女は、その名の通り、速く、激しい連続テレポートを使う。私が防壁を展開しても、防ぎ切れるかわからないほどの技。一つ言えるのは、私の連続テレポートを見切れない限り、瞬君が、伽子に勝てる可能性は、皆無に等しいってこと」


 まさに、鏡子の言う通りだ。


 鏡子の≪ラベンダーの疾風≫の凄さは、恐らく瞬が、一番良く知っていた。まだ、見切れない。


「瞬君。伽子は、残念ながら、口先だけの人間じゃないわ。言ったからには、必ずやり遂げようとする。才能がある上に、努力を決して怠らない。彼女が、私には見切れない連続テレポートを編み出したのなら、嘘じゃないわ」


 鏡子は、考えるように、赤い唇でコーヒーを一口すすった。


 伽子に勝てば、序列一〇位の鹿島長介と当たる。だが、長介対策を思案するのは、宝くじが当たった場合の使い道を考えるに等しいだろう。今は、必要ない作業だ。


「私は今日、瞬君の二つの戦いをずっと見ていた。だから、瞬君がどれだけ疲れているか、わかっている。私は、瞬君を誇りに思うわ。だから、身体を休めて、このまま明日の本選を迎えても、いいと思う。相手が悪すぎたから、学校側も考慮してくれるかも知れないわ。序列二位に瞬殺される予科生は、百人以上、いると思うから」


 相手が相手だけに、負けた言い訳は、しやすいだろう。


「でも、もしその身体をさらに酷使してでも、五百旗伽子に勝ちたいのなら、残された時間、私が特訓してあげるわ。どうする?」


 瞬は、微笑みながら即答した。


「笑うかも知れないけどね、僕は真面目に優勝するつもりなんだ。だから、鏡子さんが僕につきあってくれるなら、嬉しい。僕は、君に、必ず勝つって、約束したから」


 鏡子が、上品に首を横に振った。


「瞬君の今日の戦いを見たら、誰も笑いはしない。私が笑わせはしないわ。じゃ、コーヒー飲んだら、等々(とどろき)に行きましょ」


「瞬君、お待たせ」


 朝香瞬が、ウォーミングアップ代わりに、ピッチング・マシンの特訓を終えた時、宇多川鏡子がラベンダー光とともに、現れた。

 鏡子は新しいコンバット・スーツに身を包んでいた。


「成長で身体つきも変わるし、サイの発動量も上がるから、Cスーツは定期的に更新が必要なの。これが、新人戦で着用する予定だった、私の新しいCスーツ。どうかしら……」


 白とラベンダーのツートン・カラーはもちろん変わらない。が、瞬はいつもの姿に比べて、さらに胸が騒いだ。

 だいたいコンバット・スーツは、身体に密着した形態だ。鏡子のメリハリのあるボディラインを隠す機能を持っていない。


 あえて言えば、露骨な点において、五百旗伽子のCスーツと何も、変わりはないが、鏡子が持つ慎ましさのお蔭で、かろうじて上品と言えるのかも知れない。


 瞬はごくりと唾を飲んだ。


「す、素敵だと思うよ、とても……」


 とは言っても、目のやり場に困っていられるのは、今だけだ。いざ特訓が始まれば、鏡子の動きについて行くだけで、精いっぱいだ。


「瞬君。今日、ここで、私の新人戦をさせてもらうわ。瞬君に決勝戦で当たったと思って、本気で行くわよ」


 瞬はぎくりとした。裏を返せば、今までは本気でなかったことに、なりはすまいか。


 鏡子が、愛刀の≪小烏丸(こがらすまる)≫を構える。その姿も、優雅で美しい。

 長いストレートの髪を下していた。鏡子が数歳、大人びて見えた。

 瞬は、≪三日月宗近≫をゆっくりと構えた。



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■用語説明No.26:霊石ソウル・ストーン

各人の属性に適合し、エンハンサーによるサイ発動効果を最も高めるとされる石。

サイ発動時の動作光は、霊石に由来する。汎用型にはクオーツ(水晶)が用いられ、六つの属性に大別される。霊石の判定は、「預言者」と呼ばれる高レベルの時流解釈士のみが、正確になしうるとされる。

なお、装着型のエンハンサーは、常に霊石(汎用型は水晶)とともに用いられる。エンハンサーによる霊石の媒介がなければ、APも発動しない 。

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※最後までお読みくださり、ありがとうございました。


※次回、第二七話「エメラルドの彗星――五百旗伽子戦(2)」

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