表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第4章 TSコンバット新人戦
33/66

第25話 二つ名なし――大八木勲戦(下)

 試合開始から一〇分ほどが経過した。


 大八木が初めて攻勢に出た。瞬に似て、チャクラのヒットのみを狙う正確無比な打撃だ。

 瞬が守勢に回る。


 瞬には明らかに疲れが見えた。だが、チャクラへの攻撃はかろうじて、かわしている。


「なあ、鏡子ちゃん。大八木は一回戦で、五秒で相手を倒しおったんや。ぜったいなんか、かくし技、使いおったはずやろ? なんで、今回は温存しとんにゃろ?」


 鏡子も最初、疑問には思っていた。

 だが、二人の戦いを見るうち、大八木の冷徹な計算が、鏡子にはわかり始めていた。


「しょせんは格下だとあなどって、無警戒の序列九位には、通用する技だった。大八木君はきっと、同じように抜群の通常戦闘能力を持つ者として、最初の立ち合いの瞬間に、瞬君の力量を見きわめたんだと思う。瞬君の抜群の反射神経と剣技の前には、かくし技が見切られてしまうと気づいたのよ。だから、待っているのよ」


 直太がゆっくりとうなずいた。


「瞬は、ミッキーとの試合で、最初から疲れとる。このまま、持久戦に持ちこんで、瞬の身体が動かんようになった時に、使いおるわけか。。反射神経もなにも、反応できんようになってしもてから」


 直太の分析の通りだ。大八木は明らかに、瞬の疲れを待っている。そのために瞬を攻撃し、あるいは瞬に攻撃させているのだった。

 だが、瞬の不利は、それだけではなかった。圧倒的に不利な点がもう一つ、厳然として、あった。

 大八木はもちろん、瞬もそれに気づいているだろう。


「やっぱり大八木のヤツ、ほとんどサイを使うとらへんな」


 大八木は、瞬と違って、サイを使えないのではない、使っていないだけだ。最低限のうすい光壁しか、展開していない。


「たとえ二人の伎倆(ぎりょう)が、伯仲するレベルであっても、二人は最初から、対等じゃない。大八木君は一つ、瞬君が持っていない技を、使える」

「……サイ、やな。……ごっつ、不利やのう……」


 序列一六七位といえども、サイを全く発動できないわけではない。そうでなければ、二年次に進級できはしない。今の瞬は、学籍維持要件さえ満たさないサイ発動レベルであって、論外だが、大八木は、そうではない。最低限のサイなら、発動可能だ。


 鏡子や直太なら、当たり前のように使えるサイが、対瞬との関係では、圧倒的に有利な必殺技となるわけだ。


 これまで鏡子たちは、もし瞬にサイが使えたら……と、願望のような仮定をしばしば置いてきた。だが、大八木はまさに、瞬に匹敵する伎倆を持ちながら、サイを使えるわけだ。


 序列九位があっけなく敗退した結果も、十分にうなずけた。いや、大八木には、瞬と同様、番狂わせの優勝を狙う実力さえ、ありそうだった。


「大八木は、まさにダークホースやな」



     †

 宇多川鏡子は、観戦スペースの一番前で、身を乗り出して、試合の行く末を見守っている。


「朝香君。俺と君は、同じだよ」


 瞬の猛攻撃をかわし切って、身を引いた大八木が、片笑みを浮かべた。


「最優秀のクロノスの成長過程は、二つに分かれるそうだ。最初からサイをバンバン使える天才肌の早熟タイプ。これは、わかりやすい。それともう一つ、俺たちのような遅咲きタイプだ」


 大八木は、チアガールが回すバトンのように、黒い棒を回転させた。


「だが、最強のクロノスはたいてい、遅咲きらしい。理由は、簡単だよな。サイを使わない生身の状態ですでに強い者が、サイを武器に使えるんだからさ」


 無駄口を叩きながらも、大八木は瞬のスキを虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。

 瞬を見ると、肩で息をしていた。すぐに反応できるよう、身体を常に動かしてはいるが、大八木が駄弁(だべ)っている間、ありがたい小休止をもらっているような、あんばいだ。


「だが、朝香君。この勝負は、俺の勝ちだよ。遅咲きの俺でも、サイを少しは使える。だが、君のサイはエンハンサーが光を宿しもしない。君の才能はつぼみだよ。まだ、咲いてさえ、いないんだ。第十二クラスの劣等生だけじゃない。みんな、知っている、有名な話さ」


 瞬のあごから、汗がしたたり落ちた。ふだんは饒舌(じょうぜつ)な瞬も、言葉を返す余裕がないのだろう。


「朝香君。同じ大器晩成型として、君とは友達になりたいもんだよ。習熟度別では、せっかく同じクラスなんだからさ。序列一六七位の俺が優勝したら、お祝いしてくれないか?」


 瞬は、三日月宗近を下段に構えながら、うなずいた。


「ああ、優勝できたら、祝福してあげるよ。君と友達になることにも、異存はないさ。だけど、君に優勝は難しいだろう。僕は、君に勝てると思うから」


 鏡子は、瞬の整った顔を凝視した。

 瞬は、ハッタリや負け惜しみを言って、みじめに負けるような人間だとは思えない。きっと何か、勝つための秘策を持っているはずだ。


 大八木は残念そうな表情で、苦笑を漏らした。


「俺は、君を買いかぶっていたかも、知れないな。自分が置かれている状況さえ、読めないとはね」


「たしかに僕はもう、ヘトヘトだ。身体じゅうが痛い。君と違って、サイも使えない。でも、その僕が、君に何度も同じ攻撃パターンをしかけたのは、君が試合中に一度しか使えない、サイの秘密を探るためさ」


「ハッタリだな。一度も発動していないサイを見切るなんて、無理だよ。おたがい、預言者の適性はなさそうだからな」


 瞬は動きを止めて、三日月宗近を青眼に構えた。鏡子のような面食いでなくても、ほれてしまう美男子だと思う。


「こうやって、君と無駄口を叩いている間に、体力が回復してきたよ。残り時間は、五分。さすがに延長戦までは、身体がもたない。このあたりで、ケリを付けさせてもらうよ」


 自信ありげな瞬に対し、大八木は怒ったような顔で、対峙していた。


「なあ、鏡子ちゃん。大八木はどう出おんね? ワシには、なんも分からへんで。瞬はホンマに見切っとんのか?」


 鏡子にも、わからなかった。大八木の戦法も、それに対抗できるという瞬の作戦も。


 先に瞬が踏み込んだ。

 残り時間を考えれば、これが、最後の攻守になるだろう。


 が、大八木は、後退した。三メートルほどの間合いは狭まらない。


 瞬は、中段の構えから片足を一歩後ろに引いて、脇構えに変えた。

 その途端、大八木が動いた。

 瞬の背中側から、足元のチャクラを狙うつもりか。違う。

 大八木が黒い棒を突き出す。下腹部の第二チャクラを狙っている。

だが、距離があり過ぎる。届かないはずだ。


 鏡子は、わが目を疑った。

 大八木の黒棒は、にわかに倍以上の長さに伸びたように見えた。しかも、目にもとまらぬ速さで突き出された。黒棒の動きにテレポートをかけたのだろう。


 が、さらに驚いたのは、瞬の動きだった。突然、伸び、高速で突き出された黒棒を、瞬は、難なく宗近で打ち落とした。まるで、待っていたように。


 それだけではない。

 瞬は、黒棒の上に立っていた。


 数瞬の出来事だった。瞬は、黒棒の上を駆けのぼる。

 大八木が手をやる。遅い。

 すでに宗近が、大八木の頭頂を打っていた。

 第七チャクラへの攻撃が決まった。


 ――勝負あり! 勝者、朝香瞬一郎!


 場内アナウンスが響いた。


 鏡子はしばらく、言葉が出なかった。

 TSコンバットを見て感動する試合など、近ごろ、見ていなかった。サイ発動の優劣にばかり、目が行っていた。

 

 敗れた大八木は、どこかスッキリした表情で、立ち上がった。

 だが、勝ったはずの瞬が、立ち上がらなかった。大八木の頭を飛び越えて着地していたが、過労のため、足腰が立たないらしい。


 大八木が苦笑しながら、手を差し延べた。瞬は頭をかきながら、その手を取った。

 どちらが勝者か、わからない。

 両者が一礼して、試合が終わった。


 観戦スペースから駆け出た鏡子が、瞬に声をかけようとした時、大八木が再び、瞬に歩み寄った。


「見事だよ。朝香君。約束通り、ダチになってくれるかな?」

「もちろん。今度、一緒にランチでも食べよう。アメリカ人の同級生に、美味いランチを教えてもらったんだ」


 大八木はさわやかに笑った。


「俺の如意棒をかわすとは、君もよほどの鍛錬を積んでいるんだろうな?」


「ああ、かれこれ富士山の倍近くね。僕は、ある人から、特訓を受けていてね。済まないけど、彼女の連続テレポートは、君の如意棒より、数段早い。しょせん僕たちは、遅咲きなのさ。でも、伸びしろがあると前向きに考えようよ」


 瞬が笑顔で笑いかけると、大八木 も笑った。


「賛成だ。気長に行こう。朝香君、最後に一つ、教えてくれ。なぜ、やる前から、俺の技が分かったんだ?」


 瞬は、真顔に戻って答えた。


「君が言ったように、僕と君は同じタイプだ。伎倆もほとんど変わらない。僕なら、どうするかを考えれば、自然に答えが出たよ。僕はつけ焼き刃だけど、空間操作理論の基礎を学んだ。僕より少しできるだけのサイを一度で有効に使うなら、方法は一つだ」


 瞬は、手でペットボトルの形を作った。


「ほら、僕たちは、水の入ったペットボトルさえ、まだ満足に動かせない。だから、重い自分の身体を動かすために、貴重なサイを発動なんてしないし、しても無駄だ。だったら、APのテレポートしかないよ。それも、できるだけ軽い得物を使ってね。君の黒棒は、防御には使えても、やはり攻撃には使いにくい。何か仕掛けがなきゃ、不自然だと思ったからね」


 鏡子にも、()に落ちた。

 大八木は、如意棒の伸びに加えて、如意棒にテレポートを使い、超高速で突き出して、チャクラをヒットしようとしたわけだ。


「後ろに、十七期のマドンナが来てるぜ、じゃ」


 二人が握手して別れる姿を見届けると、鏡子は、ふり返った瞬に、ねぎらいの言葉を送った。


「瞬君。素晴らしい試合だったわ」


 瞬が満面の笑みを浮かべて、鏡子を見た。


「ありがとう、鏡子さん」

「今日はもう、試合がないから、普段着に着替えたら? その後、お昼にしましょ。あれ、左腕が……。瞬君、腕を見せて」


 Cスーツの袖をまくると、左の前腕が腫れあがっていた。


「大八木君の攻撃も、半端じゃなかったからね」

「早く手当てしなきゃ」


「あらあら、宇多川家のお嬢様に、看護師の真似事をさせるなんて、三旗の御曹司かなんか、かしらね」


 鏡子がふり返ると、腰まで届きそうな栗色の髪を、優雅にかき上げる少女が、挑戦的な表情で、立っていた。



******************************************************

■用語説明No.25:二つ名

TSコンバット戦の出場者について、自身が名乗り、または第三者から付けられる別名。伝統的に、予科生たちが自主的に運営しており、兵学校の正式な制度ではない。動作光、霊石、得意技を含ませる場合が多い。序列が低い場合には、二つ名がない場合が多い。

******************************************************

※最後までお読みくださり、ありがとうございました。


※大八木君は、姓の都合上、ほぼ自動的に、下の名前が決まってしまいました(笑)。名優でしたね。


※次回、第二六話「エメラルドの彗星――五百旗伽子戦(1)」

もう一人のヒロインが登場します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ