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虹色のカイロス ◆メサイアたちの邂逅  作者: 白川通
第3章 ファム・ファタールたち
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第20話 退学勧告(下)

「これ、どうやって、着るのかな?」

「服を全部、脱いで、着るだけ。ブーツは、最後」

「え、全部って、本当に全部?」

「そう。全裸で装着しないと、サイの発動に(ひず)みが出やすいの」


 どうりで、鏡子の着用後のスーツ姿が、たえがたく魅惑的なわけだ。

 後ろを向いてはいるが、鏡子のすぐそばで服を脱ぐのは、不思議な気持ちだった。瞬は、言われた通りの姿になって、コンバット・スーツを着ていく。


「朝香君、済んだかしら?」

「うん、ぴったりだ。ありがとう」


 ふり向いた鏡子の頬が、なぜか朱く染まっている気がした。

 鏡子が、道場の片隅を指さした。


「朝香君は、とりあえず剣道用の防具も、つけて」


 たしかに≪コンバット・スーツ≫と呼ぶわりには、薄っぺらくて、防御性能が低そうだった。剣道の防具くらい付けないと、当たれば痛くてしかたないだろう。


 瞬は、防具をつけ終えた。つけ方を知っているということは、≪忘却の日≫以前に、すでに剣道の心得があったのだろう。


「宇多川さんは、つけないの?」


 鏡子は小さく首を横に振ると、コンバット・スーツの説明を始めた。


「カイロスの私たちは、サイで、光の防壁を展開できる。だから、競技用のCスーツは、光壁による衝撃の吸収を前提として、最低限の裂傷や、刺し傷を防げるように、設計されているわ。でも、朝香君は、まだガロアの防壁を張れないでしょ。だから、慣れるまでは防具を付けてもらうわ」


 当たり前の話だが、本番では剣道の防具など、装着できない。APで打たれれば、まともに打撃をくらうことになる。


「スーツが首までしかないってことは、顔の部分に防具はないって話、だよね?」


 鏡子はこくりとうなずいた。よく見なくても、実に可愛らしい少女だ。


「そうよ。カイロスの最初の本格的な鍛錬は、頭部から入る。まず、致命傷を負わされる恐れがある頭部に強い防壁を張れるようにするの。だから、TSコンバットは、競技者全員が、防具がなくても、頭部は自分で守れる前提の競技なのよ」


 瞬が不安そうな顔をしていたのだろう、鏡子が笑顔でフォローした。


「でも、安心して。審判はクロノスだから、万一の場合には、サイを放って衝撃を緩和してくれる。致命傷になったりはしないはずだから」

 

 それにしても、目のやり場に困るスーツだった。

 瞬は、これほど素敵なごほうびのある特訓なら、ずっと続けられるだろうと、良からぬことを考えた。


「ではまず、朝香君に、優勝を狙うカイロスのレベルを、実際に体感してもらいます。でも、最初から実戦向けのAPだといけないから、練習用の得物を使いましょ」


 鏡子が眼を閉じて、開くと、ラベンダー光と共に、二本の刀が現れた。さすがに序列二位だけあって、物を取り寄せるサイコキネシスも、あざやかだった。


小猫丸(こねこまる)って、言うの。可愛らしいでしょ? シリコンもふんだんに使ってあるから、直撃を受けても大丈夫よ。竹刀みたいなものね。Cスーツの腰にさして」


 鏡子が、小猫丸を構えた。

 瞬も、小猫丸を抜いて対峙する。不謹慎だが、鏡子の真剣な表情に、見とれそうになる。


(……すてきな人だな……

 もしかしたら僕は、鏡子さんにも、恋をし始めているのかな……)


「朝香君にはまだ、私の攻撃は避けられないと思うけど、まずは動きを見ようとすることが、大事だから。私の動きが読めれば、新人戦でベスト8は、堅いわ」


 先日の部活動では、鏡子の攻撃を二度だけ、かわせた。だが、サイを使っているために、常識では考えられない踏み込みの速さだった。


 鏡子が軽く眼を閉じると、コンバット・スーツが、ラベンダー光を発し始めた。鏡子の光壁だ。


「行くわよ」


 ラベンダー色の彗星が突然、目の前に現れたようだった。

 頭や腹や手に、連続で衝撃を受けた。光のような速さで、鏡子の身体の位置が消えては変化する。右ら打たれたと思えば、次には、真横から小猫丸がきた。

 鏡子の華麗な動きに、瞬は、まったくついていけない。


 あっという間に、十数連発を痛打され、瞬は沈んだ。


 かわすどころか、ただの一撃も見えなかった。


(これが、序列二位の強さか……。まるで歯が立たない……)


 防具を付けていなければ、半殺しにされていただろう。

 だが、トーナメント戦では、鏡子と当たる可能性もじゅうぶんにあった。少しでも、鏡子のレベルに近づかねばならない。

 鏡子から差しだされた手を握り、瞬は立ちあがった。


「宇多川さんと僕じゃ、格が違いすぎるね。この前よりも、ずっと速い気がした」

「Cスーツを着ると、サイの発動が円滑化されるの。それに今は、半分くらい本気だったから……」


 さっきの速さでまだ、本気でないとすれば、本気を出した鏡子はどのような動きをするのだろうか。


「カイロスたちは皆、相当の努力をしてきたわ。朝香君は、サイが使えないぶん、私たちよりも努力しなければいけない」


 鏡子によると、さっきの技は、APで攻撃しながら、サイを細切れで連続発動することで、いろいろな位置への驚異的な連続高速移動を可能とする≪連続テレポート≫という技だった。


 予科生レベルでは、訓練場からここに来た時のように、中距離テレポートにも時間がかかる。そのため、攻撃用にテレポートを用いる場合、細切れにサイを発動するやり方が、一般的らしい。


 満足に連続テレポートを使える二年次生は、一〇人もいないそうだが、全国大会 に出るには、鏡子レベルの相手を倒す必要があった。


「さて、私が小さい頃にやっていた、宇多川家秘伝の訓練法なんだけど、朝香君には、まずそれをやってもらうわね。手伝って」


 瞬は、鏡子に指示された通り、倉庫から、コンテナを幾つも運び入れた。大量の軟式野球ボールが入っているらしい。

 鏡子はと言えば、変わった形の大きなピッチングマシンを六台、どこからか持ってきていた。


「宇多川さん。それ、野球に使うものだよね?」

「もともとはね。でも、鍛錬用に改造してあるから、もうバッティング練習には使えないわ。時速も五〇〇キロ以上出るし、自動感知式で、動きながら対象を攻撃してくれるの」


 鏡子の言葉に、瞬は背筋が寒くなった。


 瞬は、訓練場の真ん中にあるサークル内に立たされた。その周りに、鏡子は、改良型ピッチングマシンを配置していく。


「朝香君なら、二台くらいは簡単に対応できるから、三台から始めましょうか。私の師匠 は、もっと厳しかったのよ。クロノスになれば、相手のサイがどこから自分を襲うか分からない。空中戦だからね」


 瞬を中心に、ピッチングマシンの三角形が作られた。


「まずはとにかく、上下以外の全方向に対応できるように鍛錬しましょ。重力に真っ向から逆らって身体を浮かせるサイコは、発動量が大きいの。だから、新人戦レベルで、上下の攻撃はほとんどない。避けるか、小猫丸で、ボールが身体に当たらないように、防いで」


 鏡子が、スイッチに手を置いた。


「中心にある円を太極って言うんだけど、そこから、出ちゃだめよ。最初は二〇〇キロから行きましょうか。朝香君、用意はいいかしら?」


 瞬がうなずいた時、左後方からうなりを立てて、ボールが迫った。



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■用語説明No.20:コンバット・スーツ/Cスーツ

クロノスおよびカイロスが着用する戦闘用スーツ。

エンハンサーを補助し、サイ発動効果を高める目的で装着されるが、最低限の防御機能しかない。

汎用型には、クオーツ(水晶)が用いられるが、使用者の属性に合わせた霊石を素材に添加する特注品もある。TSコンバットの競技用スーツとしては、チャクラ攻撃の成否判定と、可動性向上のために、軽装型が採用されている。実用向けには重装型、中装型など、様々なバリエーションが存在する。

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※最後までお読みくださり、ありがとうございました。


次回、第二一話「ラベンダー・アメジスト」

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