08.護る
自室で、愛用のグローブをぎゅっと手にはめる。
何度か掌を開閉してると、不意にグローブに星のシールを貼られた記憶が蘇って、顔をしかめた。
一週間経ったけど、会ってない。
けっきょく、あの人は何を選択したんだろう。
考えながら廊下に出て、ゆっくりと歩き出す。
今はどこにいるんだろう。自室?でも場所なんて知らないし。会ったところで何言えばばいいか、わからないし・・・・・。
う〜んと唸っていると、前方の人影に気づいた。
見覚えのある後ろ姿を見て、一瞬足が止まる。
だけど、気づけば叫んでいた。
「藻!」
藻が、足を止める。
そこへ駆け寄ろうとした瞬間、藻が勢い良く歩き出した。
「はっ!?ちょっと!?」
ぎょっとして早歩きで後を追いながら、何度も声を張り上げる。
「おいごらぁ藻!最弱エリート!天才野郎!!馬鹿!!」
驚くりゃなや闇ちゃんとすれ違いながら、止まろうとしない藻を、ずかずかとした足取りで追う。
というか、また無視!?なんで逃げるの!?ほんっとうに腹立つ!!!
イラっと来てこめかみに青筋が浮かび、私は勢い良く走りだし、地面を蹴った。
「無視すんな馬鹿!!!!!」
「ぐはっ!?」
叫びながら、背中に蹴りを入れると、藻が床に倒れた。
着地して、びしっと指差しながら怒る。
「人に呼ばれたら、返事しなよ!!藻って呼んでるじゃんか!!耳取れてんの!?」
「・・・・・・・・・・・」
「ごらぁ!!まだ無視する気!?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・え?・・・藻・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
床に倒れた藻から反応がない。死んだように沈黙してる。
シーンとなった廊下で、ぶわっと汗が出てきた。
し・・・・死んだ!?いやいや、弱いと聞いてたから、ちゃんと手加減して蹴ったはずなのに!!当たりどころが悪かったの!?
「どどどどどうしよう・・・・!?ボディーガードしろって言われた人、殺しちゃった・・・!?」
青ざめながら、この状況をどうするべきかとら必死に思考を巡らせつつ、周りを確認する。
よし、誰もいない!でも、すぐに藻がいないことがバレて、犯人が探されて・・・・さっきりゃなと闇ちゃんに目撃されてるから、私だってバレる!
バレたらどうなる!?
脳内で魔王に殺される図が見えて、鳥肌がたった。
「ぎゃああああ!!!ちがう!ちがうの!!まさか死ぬなんて思わなかったのおおおお!!!」
「どこのサスペンスドラマですか」
「ぎゃあっ!?生きてる!?」
飛び退いた私に、起き上がった藻が、顔をしかめながら答えた。
「死ぬわけないじゃないですか。脊髄が折れるかと思いましたけど」
「それは、私が強すぎるのか、あなた弱すぎるのか・・・・前者だったら嬉しいんだけど、後者だね」
さらりと毒づくと、藻がますます嫌そうな顔になった。
思わず吹き出して、手をひらひらと上下させながら笑う。
「あははは!ごめんって!でもそんなに弱いなんて思わなむ゛っ!?」
べたっと口に何かを貼られ、口が開かなくなる。
私の口に手を押し付けたまま、藻が私を睨んだ。
「うるさい」
怒った声で言った後、背を向けて、再びすたすたと歩き出す。
口には、星のシール。
デジャヴを感じつつ、怒りのままにシールを剥がして、藻の腕を掴んだ。
「待てこらぁ!!また星のシール貼りやがったわね!?このハゲ!!!!」
私に負けじと、藻が睨んでくる。
「ハゲてませんし、灰歌さんが笑うから悪いんでしょう」
「あんたが無視するから悪いんだよ!!なんなの!?まだわたしに不満があるわけ!?」
「そうじゃありません」
「じゃーー、なんでよ!?」
爪先立ちをして、見上げながらギロリと睨みつけると、藻がバツが悪そうに答える。
「あんな会話した後じゃ、何話せばいいかわからないじゃないですか」
面食らって、しばらく停止した。
どうやら、おたがいに同じことを考えてたらしい。
会う前から嫌いあってたりとか、こいつと無駄なところで同調してる・・・。
嫌だなぁと眉間にしわを寄せながら、低い声を出す。
「そんなの、顔を合わせてから考えればいいじゃない」
まず会わなきゃ、何もわからないから。
自分に言ってるようで、悩んでたことが馬鹿らしく思えた。
踵を地面に降ろして、黙り込んだ藻を見る。
しばらくお互いに黙っていたけど、私から切り出した。
「で、どうするか決めたの?」
私の問いに、藻が体を強張らせる。
少しだけ揺らいだけど、真っ直ぐに私と目を合わせた。
「決めましたよ」
決意を込めた声で、藻は言った。
「あなたに、死なずに護ってもらいます」
藻には、もう迷いがみられない。
その言葉を聴いて、自然と強気な笑みが浮かんだ。
「やっと、生きる気になったみたいね」
私の言葉に、藻も口角を上げる。
「まぁ、そういうことなので。よろしく灰歌」
唐突に頭を下げて手を差し出され、ぎょっとした。
「えっ、あっ、こ、こちらこそよろしく???」
とりあえず握手に応じたところで、はっと気がついた。
「いま、呼び捨てした!?そして敬語やめた!?」
「なんかもう、灰歌には使わなくていいやって思って」
しれっと答えられて、いやいやいやと首を振る。
唐突すぎるでしょ・・・・本当にこの人読めない・・・・。
「じゃあ私も呼び捨て・・・してたね。じゃあ、あだ名つけてあげるよ。『藻』って1文字だけだと、呼びにくいもん。
藻だから・・・モッサリーナ・・・モッツァレラチーズ・・・」
「原形とどめてませんよ」
無表情で言われ、むっとする。
「じゃあ、テキトーに決める!じゃがりこ野郎!はい決定!!」
「どこからその単語が出たんですか・・・・」
「何が不満なの!じゃあわかった、藻っさん!藻っさんにする!どう!?」
藻が顎に手を当て、しばらくだまる。
そしてポケットに手を入れて、星のシールを差し出して来た。
「あげます」
「・・・・・・・・」
これはどういう意味なのか。
シールを指差しながら、怪訝な顔で訪ねる。
「ねぇ、ずっと思ってたんだけどさ。藻っさんって、なんでこれ持ち歩いてるの?」
「癖だよ。良いなって思ったらこれあげることにしてます」
「変人」
「否定しない」
「しろよ」
呆れながら答えて、ため息をついた。
これから、この人を守らなきゃいけないのか・・・・・。
色々と、行く末が不安になった。
「まぁ、星は遠慮しとく。これから任務の打ち合わせあるし・・・」
歩き出した私の背中に、藻がぺたぺたと、シールを貼り付けて来た。
「貼らないでよ!!!!」
「ははははははははは」
浅く笑う藻が、なんとも楽しそうに見えた。
うんざりして、シールを剥がしながら、歩を進める。
日が差し込む廊下を、藻と並んで歩く。
「というか、藻。さっきから敬語とタメ語が混じってるよ」
「まだ慣れないんですよ。まぁ徐々に敬語が消えるよ。それに灰歌だって藻っさんって呼ぶんじゃなかったの」
「私だって慣れてないの!そのうちモッツァレラチーズって呼ぶようになるから」
「美味しそうな名前になってるよ?」
くだらない会話をしながら、廊下を歩く。
初対面を思えば、ずいぶんと話せるようになったと思う。
大嫌いだ!と思ってたけど。
「私、今は藻っさんのことそんなに嫌いじゃないよ」
私の言葉に、藻が無表情で答えた。
「私も同じだよ」
「って!シール貼ろうとするな!!」
「好意の証です」
「いらないいらないいらない」
3回繰り返して、シールを押し返した。
ついこの間まで、死にたがってた人とは思えない。まさかこんなに変人ということも知らなかった。
呆れながら、扉を開けて外に出る。
日射しに目を細めながら、青い空を見上げた。
今日もとてもいい天気だ。
あの時と、同じ。
「・・・・・あんたを護ろうとして、私が死んだら、どうする?」
風に髪を揺らされながら、藻を見る。
会った時と同じ、無表情で、藻は答えた。
「今度こそ、死ぬかもしれませんね」
冗談には聞こえない。
苦笑して、私は歩き出した。
「つまり、私が死んだら藻っさんも死んじゃうのか。ほんと責任重大だね」
「嫌なら、やめてもいいですよ?」
にやりと挑戦的な笑みを浮かべられて、むっと顔をしかめる。
「べつに!仕方ないから護ってあげる」
嫌味を言って、そっぽを向いた。
陽射しが全身を包んで、風が通り過ぎる。
雲ひとつない空を見ながら、藻っさんを見て、笑って答えた。
「せいぜい好き勝手に、生きればいいよ」
おしまい。
シリアスシーンとか、くさいシーンとか、絶対に見返せないね!!!
非日常の藻と灰歌の初対面の話でしたとさ。
まさかこんなに、いがみあうなんて思わなかった・・・・・気づいたら藻っさんが深刻な悩み抱えてた・・・・ただのふぁぼ魔なのに・・・・(困惑)。
そしてこんなに話数が重なると思わなかった。せいぜい5話くらいかと思った。
ララさん怖いね。なんかすごく魔王扱いしてるね。許して( ´ ▽ ` )。
色々と書けば書くほど自体がややこしくなっていったけど、もういいんだよ。書き切ったことが大事なんだよ。たのしかった。
またなんか気が向いたら書くね。
見てくれてせんきゅーべりーまっち!