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06.馬鹿

「まも」


白衣を着た後ろ姿に声を掛けると、まもがふりかえって、気遣うような表情を見せる。


「灰歌・・・・なんか用か?」


「藻さんは?」


私の問いに、まもは気まずそうに目線を彷徨わせた。


「藻さんは、まだ眠ってる。弾も深くは入り込んでなかったし、しばらく安静にしたら、元気になると思うぞ」


「そっか。ありがとう」


「って、灰歌!?待て!」


藻がいる部屋に向かい始めた私を、まもが慌てて止めた。


不機嫌全開で、振り向く。


「何?急いでるんだけど」


「いやいや藻さんは寝てるって言ったろ?確かにおまえが罪悪感を感じてるのはわかるけど、まだ・・・・」


「違う。早とちりしないで、ほも」


「ほもじゃねーよ!!何が違うんだ?」


「罪悪感なんて感じてないって言ってるの」


驚くまもを、真っ直ぐに見て、ハッキリと言う。



「ちょっと、文句言ってくる」



止められるまえに、さっさと歩き出した。









日が差しこむ部屋の中に、負傷者用のベッドが並んでる。


病院の一室のような部屋のなか、隅っこのベッドに、藻が一人で横たわっていた。


目は、開いている。


私になんの反応もせず、ただ天井を見ている。


そこに近づいて、藻を見下ろしながら言った。


「おはよう」


藻の目が、私を映す。


その目は虚ろで、絶望していることが容易に見てとれた。


「・・・・・返事くらいしなよ」


不機嫌な私の声に、藻が掠れた声で答えた。


「・・・・・放っておいてください」


もう、うんざりだというような顔で、藻は私を見る。


「もう、疲れました・・・・一人にしてください・・・本当に・・・・」


ーーーーーーーーもう、疲れた。


藻は、死にたがってる。


この様子じゃ、いずれ自ら命を断つだろう。


それがどうしようもなく、ムカつくような、悲しいような、やるせない思いで体がひりひりした。


そばにあった椅子に腰掛けて、窓の外を見る。


青空が広がる快晴で、普段だったら清々しい気持ちになるのに、今では皮肉に感じる。


白いベッドに横たわるこの人に、何を言ってあげたら良いのかわからない。


この人を、どうすれば救えるかなんて、私にはわからない。


私はやっぱり、馬鹿だから。


だからこそ、言いたいことを言うことにした。


「ねぇ」


呼びかけると、藻がこちらを見た。


それを見返しながら、思ってたことを言う。


「自殺しようとしてる人を守るなんて、できる気がしないから、やめて」


銃を向けられたら、逃げろっての。


棘のある言葉に、藻が嫌そうな顔をする。


「・・・・・知りませんよ、そんなの」


腕を瞼の上に寝かせ、藻が思いをぽつりぽつりと漏らす。


「私は、皆に一緒に逃げてくださいって頼んだんですよ。それなのに、命令だから。おまえは逃げろ。生きろって言って。


人にはそう言うくせに、自分たちは死ぬし。ほんといい加減にしてください」


あの事件のことを言ってるんだろう。藻の声が時々震えてる。


黙って、それを聞く。


「どいつもこいつも、私を守るって言って死んだんです。とんだ余計なお世話ですよ。そんなこと頼んでもないのに。


『命令だから』『おまえは生きろ』って。生きろ生きろ生きろ・・・・。呪いみたいですよ。


命令を出す上の方々は、私の頭しか必要としてない。だから守れと命令する。そしてみんな生きろと言いながら死ぬ。なんなんですか。そんなに私の頭には価値があるんですか。何十人も死ぬほどの価値があるんですか」


藻が、私を見た。


無感情な顔ではなく、思い切り私を睨みつけて、藻は忌々しそうに続ける。


「どうせあなたも『生かせという命令を受けたから、死なれちゃ困る』というだけでしょう。そもそもボディーガードなんていらないと、私は訴えたんですよ。なのに、けっきょく付けられた。


どうせ、あなたも『生きろ』と言いながら死ぬんでしょう」


そして、吐き捨てた。





「私もあなたが大嫌いです」





憎悪がこめられた目を、何も言わずに見つめる。


やっぱり、私には藻を救うなんて出来ないだろう。


その言葉を、ぜんぶ聴いたうえで、私は口を開いた。





「うるさい。八つ当たりすんな馬鹿」





思い切り睨み返しながら言うと、藻が目を丸くした。


どうやら、お互い大嫌いらしい。


なら、遠慮する必要なんてない。いくらでも文句を言ってやる。


「そうね、私には絶対に理解出来ないほど辛い経験なんだろうね。でも、知らないよ。『生きろ』なんて、いつ私があんたにそんなこと言ったの。大嫌いって言ってくる奴なんか、命令されても護る気ない。


しかも、私の愛用のグローブに星のシール付けてきたよね。あれ剥がすの大変だったんだよ?未だにのりが残ってんだよ?


そんで、話しかけたらガン無視するし、極めつけには『うるさい』って言って口にシール貼りやがるし!


あれ剥がすの痛かったんだからね!?唇に貼るか普通!?馬鹿じゃないの!?ばーーか!!」


だんだんと怒りでヒートアップする私を、藻がぽかんとした顔で見つめる。


体が熱くなってきて、立ち上がった私は、藻を指差しながら怒鳴りつける。


「命令だから護るなんて、当たり前でしょう!?命令違反したら大変なことになるんだから!!上の奴らが道具扱いして来るなんて当然じゃない!あいつらはそういう人間なんだから!!ムカつくならぶん殴ればいい!!


やめられない?逃げられない?だから死ぬ?ふざけないでよ!!あんたを命がけで護った人たちが無駄死にじゃない!!死ぬ以外に道がないわけないでしょう!!


何が天才よ!!天才なら他の選択肢を探せ!出し抜け!名前と顔変えてでも逃げろ!逃げて生き延びればいい!!


それを試そうともしないで死のうとする奴なんか、勝手に死んじまえ!!!バーーーーーーーーカ!!!!!」


腹の底から怒りを吐き出すと、すごく疲れて、ぜぇぜぇと息をした。


藻は、相変わらずびっくりした顔のままだ。


座り直して、藻の手を強く掴む。


「あんたは、もう自分が原因で人が死ぬのが嫌なんでしょう?だから、軍をやめたがった。


でも、安心すればいい。私は絶対に死なない。あんたを護りながら、自分も護る。

この隊は変なやつばっかだけど、みんな選ばれた人たちだから、すごく強い。だから、みんなも死なない。


それでも嫌なら、逃げる方法を必死に探せばいい。もしも方法が何もなくて、あんたが死ぬしかないと思ったなら、私は止めない。絶望しながら生きるなんて、残酷すぎると思うから」


藻の目が揺らぐ。手が震える。


何が正解なのかなんてわからない。私は間違ってるかもしれない。


でも、これが私の答えだ。


「好きに選べばいいよ。あんたの人生ならあんたが決めるべきだから。私が口出しすることじゃない」


強く言って、それで私の言葉は終わりだった。


口を閉じた私を、藻はじっと見る。


ゆっくりとした静寂のなか、風が流れて来て、髪が揺れる。


やがて、藻が声を出した。




「・・・・・・馬鹿って生まれて初めて言われました」




「あんたのそういうところが嫌いなのよバーーーーカ!!!!」




再び怒り出した私を見て、藻が笑った。


困ったみたいに、馬鹿らしいみたいに。


「灰歌さんて馬鹿なんですね」


「腹の傷、10倍ぐらいに広げてあげようか!?」


「だって、言ってることがおかしいですよ。命令違反したら大変なことになるとか言ったくせに、私が死ぬのは止めないなんて、命令違反する気満々じゃないですか」


「ぐっ・・・正論を言うな!!仕方ないでしょ!あんたへの文句が多すぎたんだから!!」


赤くなって騒ぐ私を、藻が笑う。


初めて見たこいつの本当の笑顔が、こんなにもムカつくものだとは思わなかった。


一発くらい殴ってやる。そう決めた私の手を、藻が強く握り返して来た。


驚く私を、藻が微笑んで見てくる。


「ほんと、馬鹿みたいで、笑いました」


「まだ言うか!!!」


拳を振り上げた時、藻の手が震えてることに気がついた。


片腕を瞼の上に乗せて、藻が呟く。


「ほんと、馬鹿みたいです・・・・」


その唇がぎゅっと結ばれる。


「みんなが、あなたみたいな人だったら良かった。命令違反でもなんでもして・・・・生き延びてくれる人たち・・・・・・だった、ら・・・・・・っ」


そこで、言葉が途切れた。


嗚咽を漏らし始める藻を、黙って見つめる。


気の利いた言葉なんて、何もでて来ない。


黙って手を握って、ただそこに居続ける。








空が真っ青で快晴だね、なんて言葉しか浮かばなくて、やっぱり私は馬鹿なのかもしれないと、思った。

つ、次で…………終わる…………はず……………。

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