02.対面
「本日から入隊する藻だ。藻は戦闘には一切参加せず、主に作戦計画やネットワーク関連のことで働いてもらう」
ほとんど黒に近い深い紫色に、無感情な顔。
“藻”が、頭を下げる。
「藻です。本日から皆さんと共に任務をします。私は戦闘ができないので主にサポート役として微力を尽くしていきます。よろしくお願いします」
「以上だ。みんな、助け合うように」
ララの言葉を合図に堅苦しい挨拶を終え、皆が新人を取り囲んだ。
「始めまして。副隊長の七です。よろしくお願いします」
「くらげです。なぁなぁ藻さんって何歳?俺は永遠の十七歳です」
「藻さん、海洋生物の言うこと聞かないでいいよ。とろですよろしく」
「新しい人だ!!!熊さんに藻さん食べちゃダメだよって報告しなきゃ!!」
「炭ちゃん!?あの熊って身内を食べる恐れがあるの!?」
姐さんが楽しそうに走り出すと、頭の上で高級そうな黒いシルクハットがぽんぽん跳ねた。
シルクハットには可愛らしい熊の耳がついていて、なんともシュールだけど、姐さんらしい帽子だと思う。
慌てたように後を追うりゃなを横目に見送り、和気あいあいとした空間に視線を戻した。
藻。
私よりもいくらか背の高い、無表情な男。
ララのような冷たい静かさはないけど、感情の起伏も見られない。
みんなの質問攻めにも、淡々と答えを返してる。
あれが、軍が守る天才・・・・・・・。
私が命懸けで守らなければならない、人並み以上に動けない新人。
興味いっぱいといった様子で新人を迎える輪から外れて、壁に体を預け、仁王立ちしてそれを見つめる。
あいつのせいで前線から外されたのだと思うと、再び腹の底が煮えたぎってきて、顔が険しくなる。
いや、違う。本来なら私はクビだったのかもしれない。
けれど藻という人物の出現により、ボディーガードという役割が必要だったから、そこに私は存在を許されたのだ。
そうじゃなきゃ、今頃ここを追い出されてたかもしれない。
私はむしろ、あいつに救われたんだ。
あぁ、腹がたつ。
唇を噛んで怒りを飲み込んでいると、ララの声が響いた。
「そのへんにしておけ。藻は早速だが明日の任務の作戦会議に参加してもらう。みさ、夏南、組長も来い」
各々が返事をして、ドアの向こうに消えていく。
最後に入っていく藻の背中を忌々しげに見送っていると、唐突に藻が振り向いて、目があった。
慌てて無表情に切り替えると、藻がすたすたとこちらに近づいてきたので、思わず体が強ばる。
身構える私を、幾分か高い位置にある無感情な目が映す。
何を言われるのかと思っていたら、すっと手を差し出された。
「任務中はあなたが私のボディーガードをすると聞きました。仲良くしましょう。よろしくお願いします」
相変わらずの無感情な声に、本当に親しくする気があるのかと問いたくなる。
いつまでも黙ってるわけにはいかないので、握手に応じた。
「・・・・・灰歌です。よろしく」
自分でも嫌なやつだと思うほどの、無愛想な声がでた。
友好的な笑顔ができるとは思えなかったので、同じく無感情で応えてやる。
険悪な態度にも顔を動かさず、藻は手を引っ込めた。
同じく手を引こうとしたところで、掌にチラリと黄色が見えた。
「ん?」
見れば、黄色い星の形をしたシールが、ぺったりと貼り付いていた。
「それ、お近づきの印です」
やはり無表情に無感情な声で言い、くるりと背を向けて、藻が歩き去っていった。
呆然と残された星を見つめる私を見て、笑いをこらえるくらげの声と、とろ姉の蹴りが命中した音が聞こえる。
愛用の黒い指ぬきグローブに貼り付いたそれは、簡単に剥がせそうもない。
おちょくられてる。
そう解釈したとき、腹の底のマグマが沸騰しかけた。