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01.指令

自分が馬鹿なのは重々承知している。


だから、格闘技術だけは誰にも負けないよう、人一倍努力して磨いてきたつもりだ。


その甲斐あって、私は軍の特殊部隊に配属されたのだ。


つい三ヶ月前、その配属が決定されたときには、努力と実力が認められたのだと嬉しくて、飛び上がって喜んだ。


どれだけ失敗しようと、負けずに、自分の力を役立てようと思った。


たとえ間違えて仲間を蹴っても。


たとえ間違えて仲間を殺しかけても。


たとえ間違えて作戦を乱しても。


・・・・・自分が馬鹿なのは重々承知している。


だから敵と勘違いしてとろ姉の肩を脱臼して、任務終了後に司令官室に呼び出され、目の前で沈黙するララに、反論ができなかった。


日の光を背中に浴びながら、こちらを見る目が、あまりにも冷たい。


部屋の中央に配置された、いかにもトップの人間が座るような品のある作りの机と椅子には触れず、真っ直ぐ立って視線を送ってくる。


いつもと変わらず無表情だけど、目が絶対零度の冷たさだ。


とても、怒っている。


冷たい炎に、じわりじわりと足元から焦がされてる気分だ。


かれこれ10分は続いてる沈黙に耐えられず、震えながら声を出す。


「・・・・・・・あの、隊長、用件はなんでしょう・・・・」


いつもは呼び捨てにタメ口だけど、今は恐ろしくてそんなことできない。


ララの腰にある剣にかけられた指が、コツコツと柄を叩いてる。


先程の戦闘でたくさんついた血を、ララはとっくに拭き取っただろう。


次は自分の血がそれを汚すかもしれないと思うと、気絶しそうになる。


「・・・・・・馬鹿は、呼ばれた理由もわからないのか?」


低い声と共に、コツコツと響いていた音がピタリと止まって、ゾッと寒気が走った。


「ヒイイイイイイわかってます、さっきとろ姉の肩を脱臼させたことですよね、ごめんなさい!!!」


「それだけだと思うか?」


「えっ!?あっ、前に姐さんの首を斬りかけたこと!?くらげにバックドロップしちゃって一時意識不明にしちゃったこと!?闇ちゃんにうっかり発砲しちゃったこと!?」


「もういい止めろ、聞くだけで頭がいたくなる・・・」


長く重い溜め息を吐きながら、眉間を押さえてララが座る。


申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいで、口をつぐんで俯いた。


「灰歌、おまえは本当にことごとく使えない」


「・・・はい」


「高い運動能力はあるのに、それを活かす脳味噌が皆無だ」


「・・・おっしゃるとおりです」


「おまえは馬鹿だ」


「・・・返す言葉もございません」


「馬鹿なんだ」


「・・・・・・」


「なぁ灰歌・・・・・・おまえは馬鹿なんだ」


「そんなにしつこく言わなくったっていいじゃんかあああああああ!!!」


半ば半泣きで訴えると、ララがさらりと答えた。


「仕方ないだろ事実なんだから。あと憂さ晴らしだ」


「・・・さらっと言ったね?」


ぐぬぬぬと睨み付けていると、ララが一枚の紙を取りだし、机に滑らせた。


なにやら、たくさんの文字が並んでいてるけど、軍からの指令書だとかろうじて判断できた。


「何?これ」


「おまえを呼んだ理由のひとつが、ソレだ」


ハッと、ひとつの考えが浮かぶ。


「まさか、異動命令・・・!?クビ・・・!?」


「それだからおまえは馬鹿なんだ。読んでから言え、馬鹿」


ぐさぐさっと心に言葉が突き刺さり、いい加減に涙が出そうになる。


後でりゃなに慰めてもらえるだろうと、それを心の支えにしながら、ゆっくりと紙に目を通して、驚いた。


「経歴に個人情報・・・・三日後に入隊予定って・・・・これ、新人の経歴書!?新人が入ってくるの!?」


「そうだ。頭のキレる人材でな。そこに書いてあること以外にも活躍してたらしい。軍の裏で相当頭を使われていたようだ」


頬杖をついて淡々とされる説明に、ほえ~~~と間抜けな声しかでない。


顔写真と名前は載ってないものの、経歴や軍での功績は書かれていて、その内容にいちいち目が飛び出そうになる。


「えっ、あのときの任務で軍隊の警備システムに侵入したのってこの人!?なに、喋れるのは英語にスペイン語にポルトガル語に中国語にロシア語に・・・・多っ!スパイか何か!?」


「と、私も思ったんだけどな。何か気づかないか?」


「え?何かって・・・・・」


紫の目に見つめられ、慌てて答えを探す。


気づくとこ?この人に?別に変わったところなんて・・・・・・・。


ふと、圧倒的に足りてないものに気づいた。


「こんなに頭がいい人なら、単独でスパイだって、任務だってできるはず・・・・・だけどこの人、軍か部隊のなかでの作戦会議や、敵のサーバーシステム侵入とかしかしてない・・・・」


「そうだ、つまり?」


「この人・・・・・戦闘経験がない・・・・・・」


呆然としてララを見ると、無言で頷かれた。


どうやら正解らしい。けど、信じられない。


戦闘経験がない軍人など、聞いたことがない。


爪先で机をコツコツと叩きながら、ララが言う。


「その人は運動能力が非常に低いらしくてな。銃を撃とうとすれば暴発する。格闘技以前に逆立ちができない。過去に類を見ない程ひどいから、戦場で使えない、と判断されたらしい」


「・・・・・もしかして逆上がりも」


「察してやれ」


ララの言葉に、頭を抱えた。


こんな人間が私たちの部隊にはいったら、一秒たたずで死んでしまうだろう。


というか、逆立ちなんて小学生でもできるよ・・・・。


「ララ、こんな人入れてどうするの?いくら裏に隠れて作戦をたてていたって、居場所を突き止められてパン、だよ。こんなでっかい敵ばっか相手にしちゃって。そのうち殺されるんじゃない?」


「全くだ。現に、五日前に居場所がばれて、敵が大勢攻め混こんできたらしい。だがそいつの頭は失うにはあまりにも惜しいらしくてな。軍は大量の味方と引き換えに、そいつを守った」


「あぁ、あのドンパチってこの人が原因だったのか・・・」


大量に死者が出たというつい最近の出来事に、顔をしかめた。


それほどの犠牲を出すほどの、頭脳の持ち主なんだろうけど。


「だから私たちの部隊に異動なんだね。軍の裏の特殊部隊で、存在すら機密事項だから、滅多にばれない」


「そうだ。そいつにはこれからの任務で、頭脳を存分に活かしてもらう。ただし、全く戦闘には使えない」


「おっしゃるとおりで・・・・・・」


呆れながら答えると、鋭くにらまれた。


「おまえとは、全く反対だ。戦闘力はあるのに、頭脳がないおまえとは」


「うっ」


グサッと心に止めを刺され、思わず膝をついた。


気にする様子もなく、ララは続ける。


「とにかく、だ。頭脳有りの非戦闘員と、戦闘力のある馬鹿。おまえら二人が組めば、ちょうどよくなる」


「・・・・・ねぇララ。そろそろ私のライフは0に近いんだからね?」


「知るか」


魔王め。


心の中で毒吐いたのに、ギロリと睨まれ、慌てて立ち上がって姿勢を正した。


「そいつは戦闘には出さない。基本的に隠れて頭を使ってもらうだけだ」


「でも、敵に見つかったら・・・・」


「察しが悪いな?だから、おまえを使うんだ」


「私を?」


きょとんとして聞き返すと、真っ直ぐに指を指された。



「おまえは次から、ボディーガードとして、そいつを命懸けで守ることを任務とする」



「・・・・・・は?」


私の声に答えず、ララは大量の書類を机におき、ペンを動かし始めた。


そして、答えた。


「以上だ。出ていっていいぞ」


「いやいやいや、ちょっと待ってよ!!!」


机を勢いよく叩いて詰め寄ると、嫌そうに眉をひそめられた。


「ボディーガード!?何よそれ!つまり、戦闘の前線から引っ込めるってこと!?嘘でしょ!?」


「決定事項だ。騒ぐな五月蝿い」


「納得できないわよ!!なんでお守りなんか・・・・」


「隊長の命令に逆らうのか?」


隠すことなく怒りを向けられ、ぐっと言葉につまる。


何も言えない代わりに、優秀な経歴書をぐしゃりと握りしめる。


納得なんて、できない。


隠れて、人のボディーガードなんて・・・・・!


「今までの問題行動を見返したらどうだ?おまえが前線から外される原因となった痴態を、丁寧に説明してやらないと、理解できないほどの馬鹿なのか?」


辛辣な言葉に、全身が燃えるように熱くなり、紙が更に潰れる。


これは、私が招いたことだ。すべて、私のせいだ。


文句なんて、言える立場じゃない。


「さっさと出ていけ。とろの肩みたいにドアノブを外したら、七ちゃんを呼んで頭撃たせるからな」


サラサラとペンを走らせながら言われ、震えながら部屋を出た。


静かな廊下に出て、腹のなかで暴れまわる感情を抑えるため、ぐっと唇を噛む。


右手でぐしゃぐしゃになった経歴書を開くと、私にはない、たくさんの優秀な功績が目に入った。






それを激しく破って、勢いよく廊下を走り出した。


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