魔王で勇者だった俺ですが、授業を始めました
「なぁ……どうすればいいと思う」
部屋を出たあと隣の冬華に聞いてみた。
縋っているのだ。自分で決めて責任を負いたくないのだ。
「そんなの私だけに答えを求めないでよ」
対して冬華の態度は冷たかった。
「そんな風に言うなよ。一応、お前も俺と同じ側の人間なんだから……さ」
それでもなお縋る。もう間違えたくなのだ。
「優耶、あんたさ」
なんだよ。わかってるよ、弱いって言いたいんだろ。わかってるよ! 俺は弱いんだ。力とかそんなの関係ないんだ。
「――なんか勘違いしてない?」
「え?」
勘違い? なにを、どう勘違いしてるんだ?
俺は答えを求めて、次の言葉を待った。
「もしかしたら、間違えたくないとか考えてるかもしれないけど、誰が何を間違えったって判断するの?」
「は? そりゃ、世間の人とか」
俺は困惑していた。頭の中で考えてたことが読まれたからだ。
「違うわよ。あなたが間違えたって思わなきゃ、間違えたことにはならないわよ」
「それ、屁理屈だろ」
「屁理屈だけど、ホントのことでしょ……それに私が間違えたって言わせない」
「え……」
冬華、今なんて言ったんだ?
「いい、わかった? これから一緒に考えようよ」
「えっ、えっ? でもお前さっき、『私だけに答えを求めないでよ』って……」
「『私だけに』って言ったじゃない。あなたも考えるのよ」
冬華……お前、魔王の俺にも優しいんだな。
「……えっ? な、なによ、泣きそうになって」
「俺、泣いてるのか?」
自分でもわからない。ただただ心が温かい、ということしかわからない。
「ちょっと、泣かないでよ。私がいじめているみたいじゃない」
「わ、わるい。み、見ないでくれ」
恥ずかしい、見るな。
「別に泣いたっていいじゃない」
「……うるせ。見るなっていっただろ」
「ちょっと、調子が戻ってきたわね」
ごしごしと目元を袖で拭く。
「だから、うるせーって」
「あんたほんとに魔王?」
「元な! 元」
こいつ、絶対わざとだ。分かってやっている。
「ゆっくり考えていけばいいでしょ」
「いや、ゆっくりできないから!」
こちらも最低、全部を抱え込む準備をしなけりゃならなそうだ。
教室に戻り、授業をはじめる。
授業は三十分も遅れて始まった。
「今日の授業は魔法適正テストだ」
『えぇぇぇぇぇえええ!』とクラスがざわめいた。
ちなみに教壇に立っているのは夕陽ヶ丘幸。俺と冬華は後ろで待機中だ。
「静かにしなさい。それでは早速二人に役立ってもらいましょう。優耶さん、冬華さん」
「「はい」」
出番が来たので教壇に上がる。
「ここにガラス玉が五つあります。このガラス玉に力を込めてください」
なんだ、この道具。どうもただのガラスって感じじゃないけど。
「言い忘れていましたが、今日は属性魔法の適正テストです」
「なるほど、さしずめ色が映るってとこかな」
さっさと力を込める。すると、ガラス玉は綺麗な瑠璃色を映した。
「なんだこれ。これはどういう結果なんですか?」
「信じられない。全属性に適応しているの?」
「いや、そりゃ、全属性使えなきゃ話になりませんよ」
俺の中でだが。
「せんせー。優耶って普通なんですか?」
葉、その質問は俺に失礼だぞ。
「普通じゃありません!!」
ぐさっ、ぐさぐさっ!
俺は膝をついた。
「えっと、私も四つ使えるんですが、普通ですか?」
「普通は二つまでです!!」
ガクッ!
隣で冬華までもが膝をついた。
「こんな子供にすら勝てないなんて……」
なにやら幸先生が悔しがっているが、それで他人を傷つけていいわけないと思うのは俺と冬華だけじゃないはずだ。
「……んっんん、それじゃあ、順番に並んで力を込めていきなさい」
軽く咳払いをして幸は授業を再開した。