臨時……? 教師……?
「これでいいか? 倒したぞ。こいつら」
審判の女に聞くと、頷いて返してくれた。
あとは……。
探知結界を再び張り、聖の力を探知する。
「ここかっ!」
魔法陣を指定位置に出し、聖剣を持ちを引っ張って魔法陣を介しこちらに持ってくる。
「ぐぅう! やっぱ、聖の力は苦手だな」
さぁて、もう一仕事あるんだよな。
探知結界をさらに広げ、冬華を探知した。
「メッチャ速い速度で移動してるんだが……。まぁいいか」
魔法陣を冬華が走っている延長線上に設置した。
「3……2……1……ぜッろっ!」
走っていた冬華のワイシャツをギリギリでキャッチし引き止め――え?
速度が速すぎて俺は、聖剣ごと魔法陣をくぐった。
出た先は、やっぱり知らないとこだった。
「お~い。すごい速度で走っているところ申し訳ないんだが」
「え!? 魔王? いつから掴まってたのよ」
「ほれ、聖剣」
床に突き刺し、冬華の勢いを止めようとする。
だが金属音がして、弾かれてしまった。
「あぁ~めんどくせぇ」
もうめんどくさくなってしまったので冬華の前に魔法陣を出しそのまま女のところへ飛ばした。
「あれ? ここは?
走りながら聞いてくるが俺には答えることができない。なぜなら……。
「俺も知らん」
そんなこと言ってる間にスピードが落ちてきたな。
手を離し、着地をした。
「っとと、お前はどこに探しに行ってたんだ。出口に行ってどうする」
俺が降りた直後、急ブレークを掛け冬華は止まった。
「し、しかたないでしょ! ていうかあんたが場所教えてくれればよかったのよ!!」
「俺のせいにするな。洗脳師に操られたお前が悪い」
「う、うるさいわねっ! 能力知らなかったんだもの!」
まぁ、それも一理あるけど。まぁ、今回は勇者が正しいか……。
俺も、あの力馬鹿だったから勝てたもようなものだからな。
心の中で問題にケリをつけて、どうしたものかと新たな問題を考える。
「なぁ、この学園って……」
「ん?」
「相当レベル低いよな。魔術師たちの……」
「それは、そうだけど。私たちが強すぎるだけだと思うんだけど……」
それもそうだが、基本的にここは平和すぎる。これじゃ、兵士は育たない。
「まぁ、平和ならそれでいいか……」
俺はもう、人の命を簡単には断ちたくない。
俺の命だって、一つだし、ほかの人のも一つ。自分のがなくなって嫌な気持ちになるなら、ほかの人の多くも同じ気持ちになるだろう。その気持ちに気がついたんだ、俺は。
その気持ちを知っていながら、人を殺したくなんかはない。
「ちょっと! 思いつめたような顔してどうしたの?」
心配した様子で冬華が俺の顔を覗き込んでいた。
「あ! まさか、こっちで軍団でも作ろうとしてたの!? 事と次第によっては、この場で消してもいいんだけど……?」
「んなわけないだろ。 ただ、弱くてもいいんだなって……」
俺の言葉に冬華は「何言ってるの?」と返してきたがそれには答えなかった。
「弱くていいとは失敬ですね。別に強ければ強いほどいいのは確かです」
といきなり会話に入ってきたのは、審判をしていた女だった。そういや、この人のとこに魔法陣作ったんだっけ。
「なぜだ? この国には戦争などはないだろ」
「はい、戦争は今のところ私たちの国ではありません」
だが、彼女は「しかし」と続けた。
「各国には戦争をしてるとこもあれば、私たちのように、競技により勝敗を競うゲームをやっている国などもあるんです」
「「ゲーム?」」
二人の声が重なった。
「はい。富豪たちが我々に試合に金を賭けて……いわいる、競馬のようなものですね。勝ったものに賭けていた金が入る。そのようなゲームです」
なんだそれ。俺たちは馬ってわけか……。ふざけやがって。
「ちょっと、魔王。今あんた、その富豪たちを潰してこようって思ったでしょ?」
「……なんでわかったの?」
そう、今俺は確実に殺してこようと思った。って、またやっちまった。
「わりぃ。止めてくれてありがとう、冬華」
せっかくわかった気持ちだ。無駄にするわけにはいかない。
「べ、別にいいのよっ。…………結構変わったね」
「は? なにが?」
「なんでもなーい」
なんでもないなら、いいか。
「ところで審判さん。俺たちはどうすればいいのかな?」
「やっと本題に入れます。あなた方の強さはよくわかりました」
「ほほう」
「――なので、君たちには、我々の学園に、生徒兼臨時教師として入っていただきます」
「「え…………?」」