元勇者との再会
今回は頑張りました。え?いつもは頑張ってないかって?そんなことは……ないと思います。さて、再会をお楽しみください。
三日後
午前九時……。
俺と葉は、指定された場所にいた。
「受験会場ってここか?」
葉が尋ねてきたが、実際俺にもわからなかったのでスルーする。
「…………」
俺たちがいるのは、地下だった。
太陽の光はなく、少し肌寒い。まだ三月なので肌寒いのは当たり前だが……。
ちなみにここに居るのは俺たちだけじゃない。この地下空間には、五〇〇人ほどいる。
さらに言うと、俺はここが何処かすらわかっていない。甘崎学園の受験者及び推薦入学者は、自宅待機となっていたので、家で待っているとピンポーンとインターホンが押された。ドアを開けると、黒いドレスに身を包んだ綺麗な女性が立っていて、車に乗せられ、目隠しされた上で、連れ出された。
そして現在に至る……。
「おい、聞いてんのか? 優耶」
「んぉ? 悪い。聞いてなかった」
「ったく、聞いとけよなー」
周りの人達を見ると、どうやら、同じように連れ出されたようで、せわしなく周りとコミニュケーションをとっているようだった。
「出遅れたかな?」
「だから俺の話をきけいっ!」
「いでっ! なにすんだよ」
いきなり脳天チョップをくらってしまった。
「お前が俺の話を聞かないのが悪い!」
言うと、葉は顔をぷいっと背けてしまった。
「悪かったって、拗ねんなよ」
「別に拗ねてなんかねえ」
さっき、無視されたのが相当きているようだった。
「ねぇ、君たちはどこから来たの?」
ピクンと葉が反応し後ろを振り返った。俺も釣られて振り返って……唖然とした。
――似てる。レストに……。
忘れるわけがない。俺を殺した、魔王を殺した、その美女を。
ピンクがかった髪といい、綺麗に整った顔といい、勇者レストのそっくりなのだ。
「……レ、スト……?」
消え入るように囁かれた優耶の声は、その少女に届くことはなかった。
「……え? 俺っちですか?」
優耶が喋らないのを気にして、葉はすかさずフォローする。
「ん、特にそっちの子のことが聞きたいかな」
そう言って視線を向けた先にいるのは優耶だった。
「おい、優耶、ご指名だぞ」
「……え? あぁ」
レストじゃないとはいえ、綺麗な女の子に話しかけられれば、優耶だってもちろん緊張する。
「俺の名前は、柊、優耶です。こいつの名前は奏月葉。こいつとはクラスが同じで横浜の方からきました」
俺から紹介したときに「どうもっ」と笑いながら言っていたが、目の前の少女は、スルーしていた。
「じゃ、次は私ね。私は綾沙美冬華。前世は勇者ですっ!」
「――っ! ゴホゴホっ!」
なんだこいつ。爆弾投下してきたぞ。
「お、おい大丈夫か、優耶?」
「あ、ああ、大丈夫だと思う」
しかし、自分で勇者とか言うなんて、俺のことわかってて言ってるのか? それとも厨二病なのか?
「冗談が得意ですね、あははっ!」
葉は特に気にした様子はなくホントに冗談だと思っているようだ。
「――やっぱり魔王だよね」
――え? こいつ今なんて言った?
視線を冬華に戻すと、鋭い視線が返ってきた。
「お前、やっぱレスト……か。……お前も転生してたんだな、よかった」
「何が良かったのよ、サタン」
「やめてくれ、もうその名は捨てた。今は優耶だ」
「なら、私も言わせてもらうわ。今は冬華ね」
変わんねぇな、この強気な性格。
「……ちょっと、昔話をしてやるよ、ついてこい」
「…………」
歩き出すと、黙って冬華はついてきた。
地下空間の中で唯一、静かだったトイレの前まで移動し、俺はレストの死後について語りだした。
俺がレストに殺されたあともう一度、同じ世界で転生したこと。勇者軍が税金を上げたこと。ハイエストがお前を殺したと言ったこと。俺が勇者軍をぶっ潰したこと。レストの顔は、話すごとに歪んでいったが、俺が、勇者軍を潰すと言ったあたりから、だんだんと表情が穏やかになっていった。
しかし、
「あの、ごめん。殺しちゃって」
その表情は、曇っていき、やがて泣きだしそうな顔になって……。
――おいおい。
「やめてくれよ、そんなこと言うな」
「だ、だって……、お前は何もしていないグータラで怠け者で魔界の王ともいわれてる存在だったけど、城に立て篭って、寝ている堕落者だっただけなのに」
……あれれ? 俺バカにされてるの? ねぇ、バカにされてるの?
「あのさ、そこまで言われることないと思うんだけど……泣いていいですか?」
「あ、その、別に批難してるわけじゃないの? ただね、何もしてなかったってことを言いたいだけなの」
「それフォローしてるつもりあるの?」
さらに指摘すると、冬華はあわわっっとなってオロオロし始めた。
堪えきれず吹き出してしまった優耶を涙目で睨みつつ冬華は続けた。
「でもね、あなたはもう一回転生した時にね、ハイエストを倒してくれたんでしょ? で、人達を助けたんでしょ? それにはしっかりお礼をしたいな」
最初は睨んでいたものの、セリフの最後には、その可愛らしい顔に似合う最高の笑顔になっていた。
「……ぁ……」
「え、なに? ごめん、聞こえなかった」
俺はその瞬間、今まで見たことのなかった勇者の顔を見て動揺していた。
「じゃ、じゃあ俺を一発殴ってくれ」
「……ぇ?」
「俺はお前の仲間とか、友達とか、家族とかにメッチャ迷惑かけた」
「で、でもそれはお前の部下――」
「――それでもだ! とりあえず気が済むまで殴ってからじゃないと平等じゃねぇ」
「――だから、殴ってくれ……」
祈るように、目をつぶる。
これはただ、俺が罪悪感から、少しだけでも解放されたいと思っての行動だ。平等、不平等なんてただの口実だ。俺の自己満足だ……。
――ペチっ
殴る、全然違う。ビンタですらない。ただ手を添えただけ。
うっすら目を開けると、優しい表情の彼女がいた。
「殴るなんてできないよ。私が殺されたあとの世界を救ってくれた勇者なんだから」
「……はぁ、自称な」
少しだけ、少しだけ重りが取れた気がした……。
どうでしたでしょうか? 楽しませられたのなら幸いです。
誤字脱字あれば何なりとお申し付けください(こっそりと)