魔王・勇者編
キィィィ――ッッドォォン!
扉が開く音がして入ってきたのは……。
「きたか、勇者ッ!」
扉を開けたのは、銀色に光る甲冑に身を包んだ勇者だった。
「相変わらず、威勢だけはいいわね、魔王ッ!」
そう、俺は魔王、サタン。そして目の前にいるのが勇者、レスト。女のくせに、なかなか、強い奴である。
こいつは、容姿もいいくせに性格もとことんいい性格をしてやがる。
だって、いきなり聖剣で斬りかかってくるんだぜ?
「はぁあ! はっ! てりゃッッ!!」
「ハハハ! 楽しいな、勇者」
「楽しくなんかないっ!」
言うと、魔弾を放ってくる。魔弾とは、魔力を圧縮し球状にしたものだ。
すかさず、浮遊魔法をかけ、飛んで、魔弾を避ける。
勇者も浮遊魔法をかけ追ってきた。
「その程度か? お前の魔力もそろそろ、尽きるだろう?」
挑発してみる……。
「見くびられちゃ困るわね。まだまだ余裕よっ!」
そう言う勇者は、喋りながら、魔弾を放ってくる。俺はそれを、同じく魔弾で撃ち落とす。
打ち消しあった魔弾は、でかい音を立てながら、煙を撒き散らした。
くっ。音がうるさい。しかも、耳鳴りする! キーンて。しかも煙で前が見えん!
キラッ。
煙の隙間から何かが光った。
「チッ!」
刃物か何かを投げやがったな。だがそんなことで俺を殺せると思うな!
煙の中、身を捩る。……何も飛んでこない。さっきは、間違いなく俺に向かってきてたのに……!
煙が少し晴れ、飛んでくるはずだった物体が見えた。
サタンの見た光った物体は、窓の光を受け反射していた、置き鏡だった。
しまった、罠だっ!
「気づくのが遅いっ!」
後ろから声がする。首筋に聖剣が突き立てられているのがわかる。
「終わりだ。サタン」
だんだんと煙が引いていき、レストの姿を見ることができた。最後くらいはみて死にたいものだ。煙で見えないで殺されるなんてなんか寂しいからな。
「なかなか、面白かったぞ、レスト」
「面白い? ふざけた事を吐かすなっ! どれだけ多くの者たちがお前の軍に殺されたと思っているんだ!」
「俺の軍? 違うぞ。俺の下僕が用意した軍だ。俺は一切指示を出していない。めんどくさかったしな」
「――ッッ!?」
レストは驚愕の表情を浮かべている。このままだと、俺が死んだあとに罪悪感を抱え込んでしまいそうだな。それはそれで気分が悪い。だったら、とことん悪役になろう。
「まぁ、見ていて面白くはあったけどな」
人が死ぬのを見て、面白いわけがない。だけどこうでも言わないとな。
「黙れっ! 貴様は、やはり死ぬべきだ。さらばだ」
レストは持っていた聖剣を力いっぱい振り抜く。
レストが最後に見たのは、サタンの満足そうな横顔だった。
勇者レストは、魔王サタンの首をはねた。
「――くそっ!」
なんだというのだ。『俺は指示を出していない……』だと。魔王はただ見ていただけになるじゃないか。私が殺した理由はなんだ? 魔王だから? 違う! 殺したと思っていたからだ。だが、違った。私は何のために……。
その時、何かがレストの背中を貫いた。
「――うっ!」
腹のあたりを見ると、血で染まった白銀刀がレストの腹を貫通しているのが見えた。
「そろそろ、死んでくださいな。勇者殿」
誰かに刺された!? 魔王軍は大体殺したはずだ。まだ生き残りが? ……もうダメだ。意識が途切れる。せめて最後に顔だけは……――ッッ!?
そこにいたのは、ハイエストと言う名前のレストの味方。つまり、勇者軍の魔王討伐隊の一人だった。
なぜ、ハイエストが?……ダメだ。コイツは危険……だ。
一瞬でそう悟ったレストだったが、時間が足りなかった。
最後にレストが見たのは冷笑するハイエストの顔だった。
勇者レストは、ハイエストに殺された。
目を開けようとするが、長時間陽に当たっていたのか、目が痛いくて開かなかった。……あれ? 殺されたんじゃなかったけ?
「アイン。起きたのね。音楽聴く?」
アイン? 誰だ? 俺はサタンだが。
無理矢理に目を開いて……なんか、あんまり開かない。これで限界のようだ。
視界は狭いが、見えないよりはましだな。
やっと見えた、世界。サタンは初めに、声のする方に目を向けた。
向いた先にいたのは、目をこちらに向けて首をかしげている綺麗な女性だった。そこでようやく、女性はサタンに話しかけているのだと気づいた。
ん……まぁ、暇だから、なんか聴くか。
「おぎゃー(ああ)」
え? 喋れねぇ!!
「あら、返事できるようになったのね! あなたぁ。アインが返事できるようになったわよ」
あなた? ということは、この女性は『あなた』と夫婦の関係のものか。で、俺はその夫婦の間の子どもといったところか……! 俺、転生してねぇか!?
実際、俺は、アレスという男性と、エインという女性の間で生まれた子供として転生していた。
自我は持っていたが、あまり出すのはやめていた。また、レストの野郎に見つかって殺されるのなんてまっぴらゴメンだったからな。だけど、そんな俺にも一つの野望があった。勇者軍を一人でぶっ潰すこと。理由は一つ。勇者軍のせいで、俺の家族、いやこの世界で生きているものの生活が非常に苦しくなったからだ。勇者軍は俺が倒されたあと、納めさせる税を格段に上げたらしい。勇者軍は何をやっているんだ。俺を倒したんだから、税を下げるのが普通だろ。少なくとも、人類の味方である勇者軍がこんな事をするのは許さん。だから、俺がぶっ潰してやると決めた。幸い、俺の魔力は、魔王時代と変わっておらず、健在だ。さらに、幼少期は、
魔力を使う必要がないから、大量の魔力を温存、溜めておくことができる。
「レストはこんな事、許すやつだとは思ってなかったんだけどな」
そして、今の俺は20歳。もう大人だ。
「父さん、母さん」
「ほんとに行くのか」
父さんは止めてくる。きっと、勝てないと思っているんだろう。だが父さんは、俺が魔王だったことも知らない。
「やめておきなさい。あんたが行ったところで殺されるだけよ」
母さんも止めてくる。だけど――
「俺、決めたんだ。今の勇者軍を潰して、豊かな生活にしてみせるって」
「……そうか、なら行ってこい」
「ちょ、あなた」
ありがとう、父さん。
「行ってきます」
決心が変わらない内に。
浮遊の魔法をかける。この身体が浮く感覚………。久しぶりだけどできたな。
勇者軍がいる城へ!
「「がんばってきなさい」」
背中に二人の声を聞きながら、城へ急いだ。
ちょ……すげー遠いし! もう夜明けだぞ! 朝出てきたのに。どんだけ遠いんだ!
背中に、光が差してきた。一日かかってようやく見えたぜ、城が。
そこには、魔王城よりも、一回りほどでかい城がそびえ立っていた。
「レストって、こんな感じだったのかな?」
みんなの幸せを掴む……みたいな。あれ? 俺、人類の勇者じゃね? なんか、気分いいな!
「よっしゃ! いっちょやりますか」
まずは、城の周りに結界を張って、穴を少し開けて、魔弾を練って……撃ち込むッッ!
穴から撃ち込まれた魔弾は四方八方に放たれ、結界内だけで暴れまわっていた。
「おお! こりゃ案外、楽に終わりそうだな」
あちこちで、倒れていくものが見える。ちょっと酷いな……。だが、元魔王だ。これくらいじゃ引かないぞ! うえぇ、吐きそう。
――数分後。
「うひゃー、結構死んでるな。さすが、元魔王の俺!」
「貴様、魔王なのか」
「うゎぉッ! 急に声かけんなよな」
振り向くとそこには、レストと、一緒のパーティーに居た……えっと、ハイエスト? がいた。
顔がかしこまっていて少し怖い感じの、おじさんに見える。
「えっと、ハイエスト? で合ってる?」
一応、俺を殺した人の一味だ。名前くらい聞く。そのあと殺すがな。
「やはり、魔王か。こんなことができるのは、魔王討伐隊の中でも、ごく一部のものだけだったからな」
へ~。案外できる奴もいるんだな。まぁ、そんなことより……。
「あのさ、レストどこにいんの?」
「まさか、こんな姿で転生していようとは」
コイツなめてんのか?
「あの~」
「レストは、貴様が殺されたあと、私が殺したよ」
うぉ! びっくりした。聞いてたとは思っていたが、聞いてたなら、はじめから返事しろよ。
「で、レストは?」
「え? だから、私が殺したといっているだろう」
男なのに私? ゴツイから、俺の方が合うと思うんだが。
「で、レストは?」
「だ、か、ら、私が殺したといっているだろうっ!」
レストが……殺された? あんなに強かったのに。……っ!?
「てめぇは、なに自分の仲間殺しちゃってんの?」
「仕方なかったんだ。あいつだけは、増税に反対したからな。『世界を救うために金を貸してもらっているのに、世界を救い終わって、さらに金を巻き上げるとは何事だ! 私は金欲しさにやっているんではないっ!』だったかな。だから、私たちは計画の邪魔になるであろう、勇者レストを殺した」
レストは、最後まで反対していたんだな。それでこそレストだ。
「よし、最後にいいことが聞けた。この城で残ってるのはお前で最後だな? ハイエスト」
「そうだ、私一人だけ生き残った」
「なら、死ねっ!」
レスト、お前の最後の希望だぞ? 勇者サタンってところかな?
浮遊魔法を解き、全魔力を、手のひらに集める。
「まだ死ねるわけなかろう!」
魔力を練りこむ。これをやったら、勇者レストを倒せたであろう魔術。
「極大魔弾っ!」
練りこむ魔力は、通常の魔弾の三十倍。さっきより狭めた結界内で、そんなもの放てば、俺ごと消し飛ぶだろう。放たれた魔弾の勢いを逃がすことができないからな。
「や、やめろっ! そんなもの撃ったらお前まで死ぬぞ魔王っ!」
俺の心配してくれるのか? ……余計なお世話だ!
「別にいいよ。どうせまた転生できるだろうし」
なんとなくだけど……。
「そんなの何百万分の一の確率でしかないだろうっ! な、私と、一緒に新しい世界を作ろう、な?」
そうやって、誘ってくるハイエストの顔は、焦りと不安で歪んでいた。
「うるせぇ! レストの痛み、味わえっ!」
極大の魔弾を、俺とハイエストの足元に打ち込んだ。
それは、サタンとハイエストの足元を、無に変えていき、同時に、サタン達を足から侵食するように、足元から消していった。
あ~死んだ。二回目だ。笑えてくるぜ
「うぁぁぉあぉあおぉおぉおぉおお!!!」
うるせぇな。ハイエスト! しっ!
足先から消滅していく。やけにゆっくり感じる、痛いっ痛いっ痛いッッ!!!
誤字脱字があったら言ってくれると嬉しいです。
読みにくいと思いますが、感想待ってます。
よろしくお願いします。