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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最悪の戦い

作者: 夜山 楓

 エドワードは風に乗って、神の許へと急いでいた。魔王の手により、また一国が滅ぼされたのだ。

こうして飛んでいる間にも悪魔たちの手により多くの者が死につつあるだろう。急がなければ。

速度を上げれば空気は薄くなり、呼気が荒くなる。息苦しさを覚えながらもそのままの直進した。襲われた国は彼の国に程近く、その事がより一層彼を焦らせ、不安を煽る。


 神の陣が見えてきた。速度を落とし、黄塵を巻き上げながら軽やかに降り立つ。

周りを見渡して一際大きな戦友、カール=マルクを見つけると声をかける。

「ペペロン=チーノ様は」

「分からない。状況はどうだった」

「キュリアンが墜ちた」

「キュリアンか……お前の国の近くじゃないか」

「ああ。あと少しでウインドだ」

一刻も早く、魔王を討たなければ。

エドワードは奥歯を噛み締める。その様子を不安げに見たカールはおどけて言う。

「なあ。俺たち二人で討ち取らないか?」

「何を言い出すんだ! 死にに行くようなものだぞ。私たちが犬死してはどうにもならない。帰りを待とう」

「俺たちなら魔王でも討伐できるさ」

そうだろ? と快活に笑う。

「無茶言うな」

「お前って、固いよな~」

熊のように大柄な彼はさっさと天幕の方へと歩いていく。エドワードは駆け足で後を追った。


 ペペロン=チーノが陣に戻ったのはそれから2日後。エドワードは早速と意気込んで天幕に向かう。


 天幕に入ると、神・ペペロン=チーノは砂色の髪を風になびかせながら優雅にお茶を飲んでいた。

「やぁ。そんなに意気込んでどうした? エドワード王子」

和やかに話す少年神に脱力し、長い溜息を吐く。

「キュリアンが、墜ちました」

「そうか。墜ちたか」

眉根を寄せて眼を伏せ、開いたときには青い瞳に力強い光を宿し、こちらを真摯に見つめて口を開く。

「もうすぐ、魔王の城が見えてくる。進軍するぞ」

「はいっ!」

威勢よく答えたエドワードは踵を返し、進軍の命を伝える。


 風に乗って空を舞う。

皆より一足先に偵察をする。それがエドワードの務めなのだ。

遠くから見れば、白い漆喰の壁、青い屋根。

荘厳な魔王の城は美しい。

そのような魔王の城には悪魔や妖魔たちがたむろし、おどろおどろしく見せた。

もしや、もうすぐ攻め込まれてくるのが分かっているのではないかという程集まっている。

「物々しいなぁ、これが魔王の城か」

そこで一つ気になった。

何故、魔王の城があって、神の城がないのだろうか、と。

「ま、いいや。撤収、撤収」

クルリと旋回して陣へと舞い戻った。


 魔王の城の前に陣を敷く。先頭に立つ神は、号令を下した。

「突撃!」

「おうっ!」

魔障装甲車が大地を揺るがして突き進んだ。

エドワードは浮かび上がり、カールを連れて屋上から侵入する。他の者達も風をまとって屋上へと降り立った。


 肩で息をしながら相方を見る。

「カール……お前、重すぎ」

「うるせぇ……は、吐く」

どうやらエドワードを中心にして舞う風に回されて酔ってしまったようだ。いや、長距離回転させられれば誰でも酔うものだから仕方ない。


 カールの容態が落ち着いてから下へと進軍する。

エドワードの風は悪魔・妖魔を切り刻み、カールが剣で切り捨てる。他の者達もそれぞれ交戦している。

「炎よ嘗め尽くせ!」

待て。炎はまずい。

「ひえええええっ!」

エドワードは急いで自分を取り巻かせていた風を消してカールの腕を掴んで非難する。慌てて他の者も交戦をやめてこちらに駆け上がってきた。

 一人の者が放った火炎呪文により、ほとんどの悪魔と妖魔。そして、数人の同胞が炭と化した。

「ああ……」

エドワードはその光景に膝つき、へたり込む。

「へたり込むな! まだ3匹残っている」

カールの一喝に正気に返り、立ち上がり、水筒から水を撒く。

一気に冷却した。

氷は相手の足に纏いつき、足を取られて動けない相手を同胞たちは一斉に攻撃した。

「うーん。こうしてみると、かなりの悪党のような気がする」

「自分でやったことだろうが!」

頭をはたかれた勢いで階段を転がり落ちる。

「カール! 自分の馬力を自覚しろ!」

「馬力とは何だ! 馬力とはっ!」

「漫才はいい加減にしろっ!」

「はいっ!」

ヘーゼルさんに叱られて居住まいを正した。


 魔王謁見の間に入ろうかというとき、真紅の光線が走った。光線に貫かれる同胞たち。

「え」

呆然と眼を見開く。一体、何が?

「リアナああああっ!」

カールが光線に貫かれた女性――リアナに駆け寄る。

エドワードも駆け寄り、同胞たちを見てみる。彼らは、既に事切れていた。

「カール」

未だ彼は事切れた彼女を腕に抱き、むせび泣いていた。あまりにも痛々しいその姿。

不意に放たれた光線により、あっという間に死んでしまった同胞。

奥歯を噛み締める。頬を涙が伝う。

前を見据え、泣き伏せる同胞たちを置いて、謁見の間へと向かった。



 大きな両開きの扉を押し開く。扉は重厚な音を立てて開いていく。

そこにいたのは――


神だった。



 玉座に座る少年神は肩肘をついて微笑みながらこちらを見ていた。

エドワードは驚きに大きく目を見開く。

「ペペロン=チーノ様?」

神はにっこりと笑い、口を開く。

「ようこそ、我が城へ」

その一言にエドワードの思考は停止する。

今、何と言った?

「我こそ、魔王ワード。ペペロン=チーノとは我が偽名。この世に神などいない」

真実を知ったエドワードは両ひざをついてくずれ落ちる。

「その様子だと、本当に神だと思っていたようだな。それでこそ、知略を尽くした甲斐があったというものよ」

その眼光は冷ややかに光る。

「国に戻るが良い。楽しめぬ世界など意味が無いゆえ。生き残ったもの共は無事に帰してやろう。子孫繁栄を願っておるぞ?」

神……否、魔王ワードの哄笑が響く。

エドワードは、悔し涙を流し、床にはいつくばった。


 勝負など、始まってもいなかった。ただ……ただ、魔王に踊らされていただけだったのだ。

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