2.保護者
擬似外骨格形成者というものが居る。形成者と呼ばれる彼らは、人を棄て、兵器になった。
かつて第二次世界大戦に開発されたその存在は、未だナチス発祥か、大日本帝国発祥かが明確にされて居ないが、現存する『コア』の全ては日本が保有していた。
コアを人体に埋め込むことで、筋肉量が増加する。コアに培養された筋肉はやがて指先までを筋肉で支配する。内骨格が異形化し、鋼よりも尚硬くなる。
コアは使いまわされる。
ゆえに、破壊されない限りこれまでの数十年の戦闘記録、特性、戦闘経験などを蓄積し、次の形成者となった個体に刻み込む。それに上書きされることで、人のそれまでの記憶が失われるとされている。
あまりにも心的衝撃が大きすぎると、頭髪が白くなるのと同じ要領である。
しかし、コアが壊れる場合がある。
長き時によって劣化するのだ。その多くは十年であり、劣化したコアは結晶と化して粉々に砕ける。
形成者の寿命が十年になるのは、ここから来ていた。
しかしコアが結晶化する場合はただひとつ、劣化したコアの暴走によって形成者自体が結晶化し、破壊本能を刺激されて文字通り『暴走』した場合だ。
結晶を砕くことで、形成者と共にコアは死を迎える。
しかし完全なる結晶が訪れる前にコアを奪取することで、少なくともコアの破壊は免れる。
一ヶ月前。《鴉》との戦闘が、それだった。
かつて第二次世界大戦では、経験のない形成者はゴミのように扱われた。大戦での産廃であり、役立たずのでくのぼうであった。
しかし時を経て、無数の戦闘を繰り返し、研究を続け、強化し続けることによって、現代兵器ですら破壊できない一騎当千の人間兵器足り得るようになっていた。
第一期――オリジナルの初期構想型から始まったそれらは、今では研究以外の全ての活動が凍結している。
今ではコアを使いまわし、劣化し、遂に全て破壊されてしまうのを待つように、彼らは同胞の回収、あるいは撃破のために躍動する。
彼らの寿命はおよそ十年。
それを堺に、暴走、あるいは安定を期する。
安定期に至れば緩やかな結晶化の後、コアだけを残して滅びるが――。
「ふがっ」
自分のいびきで目が覚めた。
煌々と光るディスプレイを睨みながら、大男はこわばった首筋に手を沿わせて、慎重に背筋を伸ばした。
胸いっぱいに息を吸い込んで、ゆっくりを吐く。幾度か繰り返して、己をまどろみの中から引き上げた。
佐渡健介は、モニタで時刻を確認する。
午前三時だった。
最後に時計を見たときは、二時三○分を少し回った所だった筈だ。居眠りは、大した時間ではなかったらしい。
「やれやれ、いよいよ老いたかな」
自衛隊を出て、暫くこの仕事についていた。また外に出て、自由を満喫したが――国家機密でもある形成者に関わったことで、永劫の自由は得られない。たかが十年の自由の後に、再び政府に回収された。
仕事といっても、形成者となった連中を保護する施設の職員だ。主に戦闘訓練を担当するという下っ端だったが、それなりに楽しかった。
その最後の教え子が、奇しくも伊達たちだったのだ。
今では彼らの上役だ。立場には関係ないが、政府直下に来て、苦労が増えた気がする。
「しかし……いかんともしがたいもんだ」
明日は出かける予定がある。その準備も万端だ。目的の場所も貸しきってもいる。
だが、仕事はまだ終らない。
高官から、形成者について論文を任されているのだ。納期は明日。
しかし、思う所がある。ここに来てわざわざそれを書かせるということは、もしかすると政府は正しく形成者を認識していないのではないか? と。
あるいは、まともな引き継ぎもなく政府内で異動があったか、これに関わる者が死んだか。
政府内と言っても、この形成者に関しては殆ど存在していないように扱われている。世間的には死んだも同然だ。
何にしても、やりがいがある仕事だ。
この論文で、上が正しく彼らを認識してやってくれればいい。
佐渡健介はまだ四ニ歳の若さだし、形成者とは異なる修羅場しかくぐったことがなく、否応なしに訪れる十年のリミットなぞ感じたことがないが――切実に、それを願っていた。
それは十年近く前から。
哀れな、少年と出会ってから。




