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Loose × Loop × roots  作者: ひさまた病
通常版
18/48

3.誘導

 《鷹》の光点が消えたのは、コアが結晶となったからである。コアは常に特殊な電波を微弱に発生させており、それを捉えることで形成者の位置情報を表示している。

 だからこれは暴走に違いないのだ。

 しかし――。

「なんか、おかしいっスよね」

 《鴉》が野太刀をいなしながら言った。しかし流すにはあまりにも重すぎる斬撃は、それ故に彼を吹き飛ばす。足でブレーキをかけながら数メートル後退して、地面に黒く焦げたラインを刻んでいた。

「そうよね。これは、反応が"良すぎる"のよ」

 少なくともまともではない。彼女は含めるように言って、僅か半歩進んだだけで頭上に達した野太刀の切っ先を、後ろに下がって寸でで回避した。

 斬撃が大地に落ちる――寸前で停止した。まるで精密機械のような正確な判断で、無駄な動きを限りなく排除しているのだ。

 外骨格時の形成者には痛みも疲労も無い。なのに、目の前の敵はまるで理性的に、無駄を排除し精密に"暴走"をしていた。

 いや、ただ彼らが知る暴走期の姿であるだけで、あるいは――。

 対なる斬撃がおよそ無限ともつかぬ連撃で瞬時に《鷹》を斬り裂いた。

 それは本来ならばその鋭さと速さを持っている攻撃だった。だがその場に居る誰もが、異なる結果を予測し、そしてその予測通りの結果を目の当たりにする。

 正眼に構えた野太刀の刀身が熱を孕み赤熱し始めている。それはつまり、攻撃の全てをその長大な刀で、満足にそれを振れ得ぬ至近距離で防いだということだった。

「《鴉》!」

 思わず足を止めかけた《鴉》を呼ぶ。彼は非現実的に見えた世界に色を取り戻して、即座に退避した。

 《鷹》は追わず、次いでわずか一息の時間すら置かずに射出されたミサイルを見る。

 動きは小さく、効果は絶大だった。

 手首だけで野太刀を下ろす。切っ先が地面と並行になり、ミサイルがその隣を通過する。

 その瞬間に刀が弾けた。絡めとるように刀がミサイルに触れ、それは刀身の上を転がるようにしながら衝撃を殺す。あらゆる面から叩かれ続けたミサイルはやがて完全に停止して、乾いた音を立てて《鷹》の足元に転がった。

 衝撃からなる爆発もなく、不発弾となった円筒は役割をはたすこと無くその存在意義を失った。

 正面に《猟犬》、背後に《鴉》。どちらもコアを破壊する爆熱の兵装を持っていても、その結晶体に勝機を見出すことは難しかった。

 攻撃手段は近接による格闘、斬撃のみ。背負う銃は使う様子がまったくない。

 攻撃の展開速度は今見たように、常時発動している『怪力』から極めて迅速であり、下手を打てば彼らは抵抗の余地なく両断される。

 この点を見るだけで、むしろ二人であっても不利であるかに見えた。

「ど、どーするんスか、これ……?」

 不安げに声を上げる《鴉》。

 鼻で笑うようにして、《猟犬》は顎をしゃくった。

「どうもしないわよ。あんただって、それくらいの分別はつくでしょう?」

「じゃ、じゃあ?」

 何か策でも。そう訊こうとした時、突如として《鷹》が動いた。

 走りだした彼は巨漢に見合わぬ俊足で瞬く間に《猟犬》へと迫り――彼女は、ひょい、と跳躍して彼を回避した。通り過ぎる《鷹》を横目で見ながら、《鴉》を一瞥する。

「正直ムリ。相性悪すぎ。できれば《隼》が適切なんでしょうけど、ま、未だに形成が出来ないなら《兎人》にでも任せるわよ」

「ここまで来て人任せってどーなんスか? って、待ってくださいよ!」

 有無を言わさず尻を向ける《猟犬》の後を急いで追う。まもなく《鷹》に追いついた二人は、並走しながら警戒を強めた。

 どんな攻撃が来ても躱す。その代わり、それ以上の行動を許さない。

 説明しなくても《鴉》にはわかっていた。彼女は学校へとこいつを誘導するつもりなのだ、と。

「俺なんかより、センパイのがずっとキツそうスね」

「だから全力で援護すんのよ。《隼》に任せるからって、あたしらがラクするってわけじゃねーのよ」

「わかってます」

「よろ――しい!」

 言いかけて、不意に斬閃が《猟犬》を薙ぎ払った。足払いのように低速での攻撃を飛び越えた彼女は、その後に言葉を継いだ。

 意識を逸らすために《鴉》は力を込める。赤熱し炎を伴った双剣が、やがてその芯を白く染め始めた。

 辺りの大気を瞬く間に加熱する。触れれば火傷する暇もなく焼きつくされるだろう熱を持って、暴風を巻き起こした。

 身体を回転させるようにして二連の斬撃をかます。だがそれに対応したのは目視すらしない斬撃であり、しかしそれは適切すぎるほどに《鴉》の胴を引き裂いていた。

 攻撃が完了するよりも速く、攻撃が襲いかかって防がれたのだ。

 肉体が横二つに別れる前に《鴉》は退避し、脇腹から半分ほど斬り込まれた腹を抑える。立ち止まってしまえば、走り去る二人の姿がどんどん小さくなっていった。

 《猟犬》に至っては言葉すら無いまま、《鷹》を追い抜いて行ってしまった。

 己を不甲斐なく思いながら、《鴉》は立ち上がる。

 周囲は既になだらかな坂になりつつある道だ。車は無く、ゆえに《鷹》は車道のど真ん中を走る。

「くそっ! 何やってんだ、俺は!」

 斬られて立ち止まるためにここに来たのではない。

 情けなく跪くために《鴉》になったのではない。

 僅かな訓練も何もなく己を犠牲にして同胞を戦う先人と肩を並べているのだ。そんな不甲斐なくて、自分はどうするつもりだ。

 力一杯地面を殴りつけてから立ち上がり、急いで後を追う。

 その直後に――彼はようやく気づいた。

 学校から聞こえてくる甲高い悲鳴と、どよめきと、大地を震わすほどの大激震に。 

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