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Loose × Loop × roots  作者: ひさまた病
通常版
16/48

1.任務遂行

 伊達が外気を意識した時、意外にも心が落ち着いていることに気がついた。

 嫌な予感がする。だから過去を思い返し、覚悟をしたのだが、結局は動揺を隠せないと思っていた。

 しかし全く違う。心はいつにもなく穏やかで、頭は不思議なくらいにクリアだった。

 コアの痛みはすっかり良くなって、伊達は垂れていた学生服の袖を肘までまくり直した。

 戦闘だというのに学生服で来た理由はただひとつだ。恐らく、もう着納めだろうと思ったからだ。

 ヘタすれば今回の戦闘で結晶化がかなり進む。あるいは、今回の戦闘で何があろうとも《兎人》を連れて行こうと思った。

 人の悪意や機微に敏感な年頃の高校生である。これからあと数ヶ月、人としての生活を歩むことを望んでいた。

 あと少しで人でなくなる。その実、既に人ではないのだが――確実に、人の生活を送れなくなるのだ。それに加えて、望まぬ非凡さを自覚させられていく。ゆるやかに、まるで病に蝕まれていくように、力がみなぎっていく。

 徐々に、記憶も失われていくだろう。記録では、伊達も同じだった。

「君の、ためでもあるんだ……」

 恨まれてもいい。

 憎まれてもいい。

 ここが正念場だ。この戦闘を見て、《兎人》がどう動くか。そこで、伊達の判断は決まる。

 ――端末が振動する。

 伊達は確認もせずに立ち上がって、唖然とした。

 直後に爆音が響く。凄まじい爆発が、その衝撃で大地を激震させた。胃の腑が震え、振動が体内に響き渡る。

 町中に煙が上がっていた。

 端末の中に出現した光点が四つ。扇を描く陣形で、それぞれおよそ一キロの距離を保ちながら学校へ迫ってきている。

 敵影までの距離はおよそ五キロ――それが、瞬く間に近づき、やがて視認できるようになってきた。

 それにともなって、悲鳴がようやく耳に届き始める。

 握りこぶしを己の頭に叩きつけてから、伊達は叫んだ。

「形成!」

 その身を黒く染め、傷つけ破壊することしか出来ない肉体を作る。

 返しのある腕。楕円の頭部にはV字の目が赤く輝き、その端から後頭部へ縦の赤いラインが走る。

 しなやかな胴。太い腿。鳥のような鉤爪を持つ足。

 《隼》のモデルは、戦闘機ではない。鳥類のハヤブサだ。

 そのハヤブサはなんでも最速の象徴として、速い翼にちなんで付けられた。

 ならば自分は、真に速いのか?

 試してくれよう。時速四○キロ程度の加速で、この《隼》に追いつけるものか。

 《隼》は背部のレールを展開し、鉄柵の上に立った。腕の返しの部分を僅かに浮かせて大気を吸収する。

 前傾姿勢になり、勢い良く圧縮大気を噴出させた。

 彼は凄まじい勢いで地上十五メートルの高さ、眼下に生徒たちが怯えながら校舎へと駆け込む光景を目の当たりにしながら飛翔した。


 駅から学校までの通学路から、絹を引き裂くような悲鳴がつんざいた。学生たちが、必死の形相で校舎を目指して走っていく。

 伊達はレールからの噴出を止めて、そのまま地面に降り立った。

 ――なだらかな坂になるニ車線道路。歩道は、三人が並んで歩いても余裕があるくらい広い。

 その歩道に、群青の輝きが映えた。

 菱形の頭部を持ち、針で開けたような小さな穴から鮮やかな群青の輝きを見せる《影》が、二人の女生徒を壁際にまで追い詰めていた。

「ゲスだな」

 へどでも吐き捨てるように《隼》は言って、走りだそうとした時。

「何やってんだ、お前らあああっ!!」

 そんな勇ましい咆哮とともに、《隼》が居る反対方向から向かってくる学生服姿の青年の姿があった。

 清潔感のある短髪に、精悍なスポーツマンらしい体つき。低いとも高いともつかぬ声は、彼のクラスメイトのそれだった。

 中田である。

 彼はそのままの勢いで跳び上がって、《群青》を蹴りつけた。

 しかし相手は腐っても形成者である。彼らの経験から見ればあまりにも緩慢過ぎる攻撃は避けるに値すらせず、脅威を与えるためにも、《群青》は容易く中田の足を掴んだ。受け流すかのようになぎ払って、中田はまっすぐ《隼》の方へと吹き飛んできた。

 彼は悲鳴を押し殺して、目を開けたまま《隼》を捉える。

 勇敢な青年だ。

 そう思いながら、《隼》は跳び上がるように中田に接近すると、その首根っこを掴みあげて勢いを殺す。青年の身体を胸から腹に当てて支えると、やがて彼は空中である程度姿勢を整えることが出来た。

 だから着地と共に転ぶことはなかったし、その敵意の目は揺らぐこと無く《隼》にも向けられていた。

「奴の動きは俺が全て封じる。その間に、お前は彼女らを避難させてくれ」

 告げる《隼》に、中田はわけがわからないように困惑した顔をする。そのまま彼が示す先を一瞥すれば、恐怖の余り腰を抜かしてしまった少女が二人居た。

 その前には、《隼》を睨んだまま、腿の側面に何かを展開させた。弾けるようにハッチが開くと、弾けるようにナイフの柄が飛び出した。

 《群青》は対なるナイフを引きぬいて構える。

 対する《隼》は徒手である。無謀かに見えたが、しかし逆に言えば敵は武器を持たねば対抗すら出来ぬということである。

 だが――武器を持っても、無駄なのだ。

「じゃあな」

 短く告げる別れの言葉を、果たして中田は理解できただろうか。

 そうであって欲しいし、そうであって欲しくも無い。複雑な男心といったところか。

 《隼》はそんな己の心境に苦笑しながら、走り出した。大気の噴出も能力も無くとも、ただでさえ彼は俊足の持ち主だ。

 瞬く間に肉薄した《隼》の拳は、構えられるナイフの攻撃を受けるよりも速く、《群青》の顔面を殴り飛ばしていた。

 大きく仰け反って後ろへ吹っ飛んだ。その中で振り回すナイフは、偶然にも《隼》の横っ腹を斬りつけ腿に刺さるが、痛みやダメージなどありはしなかった。

「――っ」

 《隼》は深く屈んだかと思えば、そのまま一息で大地を蹴り飛ばして前進する。吹き飛んだ《群青》の下に潜り込む彼は、そのまま立ち上がる勢いを利用して頭上へと拳を放った。

 拳撃が炸裂し、背部の堅牢な装甲は限りなく容易に砕け散った。《群青》の身体はそこで停止し、立ち上がった《隼》に腹を貫かれたままサバ折りにされていた。

 貫いた腹の隙間から漏れる光を察知し、《隼》は敵の後頭部を破壊する。そこに、ちょうど群青色のコアがあった。

 そいつを引っ掴んで、《群青》だったそれをゴミのように外骨格を投げ捨てる。ついでに腿に刺さったナイフも、そこへ棄てた。

 まもなく《群青》は燃え上がり、溶けて、跡形もなくなった。

「……あと、三か」

 近い位置に爆音が轟く。

 先ほどまで縮こまってた女学生の居た場所を一瞥すれば、そこには何もなかった。振り返れば、彼女らの手を引いて学校へと急ぐ中田の姿があった。

「短い間だったが、楽しかった。誘い、受けられなくて悪かったな、中田」

 彼は聞こえぬ声量でそう言ってから、走りだす。

 次の敵とは、比較的距離が近いようだった。


 案の定、そいつは一分もしない距離に居た。

 両腕の下部に備える砲口から9mm弾をばら撒いて破壊の限りを尽くしている最中だった。

 その場に倒れ伏す人もあった。大量の鮮血を流すのはスーツ姿の男を始めとして、痛みに喘ぐ同じくスーツ姿の女、ジャージ姿の中年女性など、通りがかりに襲われたらしいのが分かる。

 しかし、不審な点もあった。

 身体が真っ二つになる遺体。四肢のいずれかを欠損している、痛々しい姿さえも認められた。

 周囲の民家には炎が上がり、商店のシャッターは力任せに引き裂かれている。大地には鋭い溝が刻まれていて、壁を破壊されているのも見える。

 敵の武装は内臓の機関銃のみ。そこに斬撃の要素など無いのだが。

 ――不幸中の幸いか、時刻は既に八時近い。学生の姿はこの場にはなかった。

 《隼》は敵を見る

 藍色の瞳は縦に細長い。それだけ見れば、デフォルメキャラクターのようだったが――三日月のように引き裂けた笑みを作る口から漏れた藍色の煙が、その印象をぶち壊す。

 《藍影》が《隼》を認めた瞬間、そいつは狡猾に砲口を向けて弾丸を放出した。単純に口径が足りずに効かぬ弾丸だったが――それを胸に受けた瞬間、けたたましい爆発が巻き起こる。視界が火焔に飲まれて、激しい熱が全身を襲う。

 思わず怯んだ隙に、嘗め尽くすように弾丸が降り注いだ。爆発が相次ぎ、圧されるよう装甲にヒビがは入り、《隼》はたたらを踏んで後退した。

 転がり込むように射線から逃れるものの、それを予測したように《藍影》は彼の目の前まで移動していた。

 立ち上がる暇など無い――わけがない。

 この最速を極める男に、時間的猶予を奪うことなど到底不可能なのだ。

 だから砲口が火を吹いた瞬間には既に、《隼》の身は立ち直って《藍影》の真横に切迫しており、鋭く繰り出した肘打ちが炸裂していた。

 望んだダメージは打撃ではない。

 返しとなる部分が接触し力任せに放たれたが故に、腕は《藍影》の側頭部を激しく抉ったのだ。

 そのまま肘を繰り出した右手は、大きく開いた穴を掴む。敵の側面に対して向き直った《隼》は両手で頭を引き裂くと、そのまま《藍影》の膝を蹴り砕いた。

 関節が軋み金属が異音を上げる。瞬く間に崩れ落ちる《藍影》の頭から手を突っ込んだ。肉体の中心部に移動をしようとしていた藍色のコアを掴んで、奪取する。

 《藍影》の肩を抑えつけて腕を引き抜けば、内側から装甲が粉々に砕け始める。ズタズタになった外骨格は、蹴り飛ばすだけでバラバラになった。

 炎が上がる。

 消滅する。

 だが――弾丸がばらまいた爆発の余韻となる炎は未だくすぶり、既に事切れた五体あまりの死体はその場に残り続ける。

 人が死んだ。自分が遅かったがために、守りきれなかった。

 その事実だけが、重く《隼》の胸にのしかかっていた。

 もっと速く。

 誰にも追いつけない速度で動かなければならない――。

 レールを展開して、彼は跳躍と共に飛翔する。

 彼は空から索敵を開始した。


 敵は近い。

 今度は色が違っていた。

 深紅と、紅緋だ。

 太陽の去り際の暗い夕日と、炎の色を思い浮かべればいい。それが互いに横一閃の目を持ち、一文字に口を結んで飛翔している《隼》を見ていた。

 彼らは駅前に居た。

 周囲には人はもちろん、被害者は居ない。それに少しだけ安堵する。

 辺りはバリケートで封鎖されていた。駅構内には人のざわめきがあり、拡声器で注意をうながす警官の声が聞こえる。

 警察が、事態を飲み込んで迅速に動いてくれたのだ。今までメールを無視して、今更ながら罪悪感が湧いてくる。

 しかし、よくやった。そう思う。

 よく手を出さずに居てくれた。その事実だけで、少し気が緩んだ。

 だから《緋影》が振りかぶった巨大な槌に乗る影が、人間大砲よろしく迫ってきたことに、彼は驚愕を禁じえなかった。

 凄まじい速度はさながらメジャーリーガーだ。頭から突っ込んできた《赤影》をまともに受けて、彼は上空で思い切りバランスを崩した。

 仰向けに落ちる《隼》の上に《紅影》が乗り、腰に引っさげていた巨大な武器を抜き出した。

 鉤爪をチェーンに繋げて無数に連ねる刃。そいつが猛烈な異音を放ちながら高速回転して、《紅影》は両手でそれを御して振り下ろす。

「なぁ……っ!」

 チェーンソーである。

 唸りを上げて迫るそれを、《隼》は持ち手の部分を両手で抑える。しかし体勢は下である。どうしても不利であり、その刃は恐ろしいほどの咆哮を上げて眼前にまで迫っていた。

 同時に、地面はすぐそこにまで近づいており、《隼》は即座にレールを展開し、空気を噴出させる。大気を吸収していないため、たった一度の短い噴出は、だがそれ故に身体を大きく弾いてくれた。

 姿勢は九十度立て直されて、《紅影》と共に対峙する形にまで持っていくことが出来たのだが――。

「くっ!」

 頭上から迫る、人一人なら叩き潰せそうな大槌。なりふり構わず《紅影》を蹴り飛ばして、《緋影》の攻撃を寸前で回避する。

 目の前で巨大な槌が大地を砕き、放射状の亀裂が槌の外にまで走るのを見た。

(生身なら、チビっていたかもしれないな)

 今までにない二組だった。

 こいつらは、コンビネーションを使うのだ。

 《隼》は展開したままのレールを一度納めると、大きな跳躍と共に連中から距離をとった。

 着地と同時に《赤影》がチェーンソーを引っさげて走ってくる。

 予想通りだった。

 地獄の底から湧き上がるような唸り声を上げて、敵影は勢い良く跳び上がった。それを横に弾けるように回避すれば、《赤影》よりも遥かに機動力の高い《緋影》が横薙ぎに大槌を振るった。

 垂直跳びの要領で高く跳躍。足裏の真下を通り過ぎるのを感じながら、《隼》は鋭く爪が伸びるつま先で《緋影》の顔面を蹴り飛ばした。

 大きくバランスを崩す緋色の影。蹴り飛ばした勢いを利用して思い切り身体を捻って着地すれば、すぐ近くから深紅の影が唸り声と共に飛来した。

 逆袈裟に放たれた斬撃を、今度は受け止めた。

 振り上がるチェーンソーを手で受け止めれば、やはりそれはただのチェーンソーだ。構造が複合装甲のそれである外骨格はそう容易く破壊できない。戦車の前面装甲にそれを当てているのと同じなのだ。

 凄まじい勢いと反動と、削られ続ける表面が豪雨のように火花を散らす。それを掴めば、徐々にチェーンが勢いを落とし始めた。

「いいコンビネーションだ。少し焦ったぞ」

 力任せにチェーンソーを引けば、頑なに離さない《赤影》が《隼》のもとへと飛び込んでくる。

 一定の距離を保つようにして彼も後退すれば、直後に陣風が吹き荒れた。

 頭上から大槌が落とされたのだ。照準は紛れもな《隼》を狙っていたのだが、直前で入れ替わってしまったが故、つんざく破壊音と共に《赤影》は叩き潰されてしまっていた。

 深く溝が刻まれた手からチェーンソーを捨て、大槌に手をかける。《緋影》が睨んだ気がしたが、構わず引き寄せた。

 《赤影》から学習したかのように手を離す。だからこそ大槌はわずかに後ろにズレるだけに終わったが――それを支えにして前方に飛び込んだ《隼》の姿までは、予測できなかったようだった。

 深く踏み込む足は《緋影》の股下で力強く大地を叩いており、固く握った拳は瞬時に敵の腹を穿った。吹き飛ばぬように肩を掴んでいれば、装甲は衝撃を逃す暇もなく、耐え切れずに砕け散る。

 破壊された腹に突っ込まれた腕を引けば、返しがさらに穴を広くする。

 コアはドンピシャ、そこにあった。

 《隼》は緋色のコアを入手して身を翻す。

 《赤影》が大槌の下から這い出ている所だった。

 容赦なく頭を踏みつぶして、砕けた頭部の穴から中を覗く。

 大槌を蹴り飛ばせば、大太鼓のようなそれはゴロゴロと幾度か転がって停止した。全身にヒビを入れた《赤影》の、ヒビから明かりが漏れているのを見る。屈んで、指先の返しで装甲を引っ掛けて引き剥がせば、コアは簡単に手に入った。

「だが、コンビネーションだけだったな」

 《蒼白》、《群青》、《藍影》、《赤影》、《緋影》。これで五つのコアはそろった。

 ロータリー中央にある柱状の時計塔を見れば、時刻は八時半ばを少し過ぎたところだった。

 そろそろ授業が始まる時間である。このままの姿で急げば学校には間に合うが――今日はくたびれた。

 形成を解いて、人気のない駅前の広場に立ち尽くす。武器だけを残して燃焼を開始する外骨格の残骸を眺めながら、彼は何気なしに一瞥した。

 駅へは、階段を登ってエントリーする。登った先には窓があり、そこにすし詰めになっている人が一様に彼を見ていた。

 形成者は基本的に機密事項であるはずなのだが――今回は、それを規定している側から無視してきたのだ。構うことなどありはしない。

 五色のゼリーが決して混ざることなくつめ込まれた巾着を片手に、伊達はその場を辞した。

 出現時間の制限まであとおよそ三時間。撃破まで、余裕で十二時間以上ある。

 もちろん敵が出現してから十二時間以上放置することや、戦いが長引くことなど早々無いのだ。後者の時間は普通に考えて、あまりにも長すぎた。

 伊達はポケットから端末を取り出す。

 軌道していた地図のソフトには、二つの白い光点が既にかなり近くまで接近していた。おそらくは、犬飼と矢田である。

 佐渡に関しては仕方がないが――光点すらも見失ってしまった高城に、伊達は呆れたように嘆息した。

「何を、油売っていやがるんだ」

 青年はポケットに手を突っ込んで視線を落とす。

 行きたい場所は無い。集合場所も無いが、向こうが見つけてくれるだろう。

 ただこの、脱力とも、達成感ともつかぬ感情を持て余した彼は、何かに誘われるように歩き出した。


 その時だった。

 

 立ちふさがる影を見た。

 なんとはなしににそれを見た。

「……?」

 伊達には、一瞬それが何かわからない。

 結晶を砕いて作り上げた彫像のような何か。出来損ないの、時代遅れの3Dポリゴンのような多面体からなる人型。

 その背には大型の銃を、その手には身に余る太刀を握る。黒い刀身はべっとりと付着した赤黒い液体に上塗りされていて、その切っ先からは鮮血が滴っていた。

 半球を被ったような姿。

 無骨な腕に、図太い足。画用紙で出来るロボットみたいな姿は、伊達より少し大きかった。

「……っ?!」

 認識する。

 理解する。

 しかし理性が、拒絶した。

 その外骨格の造形は何よりも伊達が良く知るものだったのだ。

 相棒である《鷹》はかつて、その姿に最も近かった。

 だというのに、今では足の先から頭のてっぺんまでが結晶となってしまっている――完全過ぎる結晶化に、伊達は言葉を失った。

 形成者は暴走する寸前ならば、コアを救出することが出来る。その元となった形成者の死は確定だが、暴走の末に砕け散るコアは回収することが出来るのだ。

 以前の《鴉》がそうだった。

 そして今回の《影》たちも、同じように倒してきた。外骨格から引き剥がすことで形成を防いでいるのだ。再構築するには時間が掛かるし、持ち歩いていればそれも未然に防げる。

 安定期にて結晶化する形成者は、どうあれコアを残す。そこに戦闘の意義などない。

 だが――。

「セン、リ……?」

 完全に結晶し、暴走により際立った破壊本能が求めるのは何よりも戦闘であり、その行く先は破滅でしかない。

 伊達はただ彼の名を呼ぶことしか出来ず、全身に力が入らないこと、瞳が既に《鷹》の結晶体を見つめることすらしていないこと、頭がバカになって機能していないことを、確認することすら出来ずにいた。

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