名は体を表す~緊急事態
「起きて、起きて、ちょっと」
目が覚めると、目の前は活字の嵐、顔をずらすとパサッと小説の本が落ちた。
『今世紀に俺ができること』と、表紙のカバーに書いてある。ああ、そうだ、寝
る前にこの本を読んでいたんだ。
ちょっと、記憶を戻してみよう。
カランカラン、と鐘の音が鳴る。
「一等しょ~!」
そうだ、確か商店街の福引きで、一等をもらって……。
「おめでとうございます」
「ちょっと、あんた!」
「はい?」
一等は、スイスへの旅行と前のテーブルにそう書いてある。そこに不満はない、
ないのだが。
「一人旅ってどーゆうことよ~!」
一等を祝福してくれた福引きの男性スタッフに向かって、首ねっこを両手で掴み
、揺さぶること、八秒、他のスタッフも総動員して、おさえられたが、そのスタ
ッフは、
「わ、わ、わかりました。では、スイスへペア旅行~!」
と高らかに言い、再び鐘を鳴らすのだった。やはり、プロはこうでなくちゃ。
と、いうことで、近くに住んでいる気の合う隣人、白銀蘭子(30)とスイスへ飛行
機で旅だったはず……。
ということは今は飛行機の中か……。ようやく思い出した。乗っている時間が多
いので、自前の小説を読んで時を過ごしていたが、いつの間にか眠っていたらし
い。まだ、眠い。横を見て、蘭子が何か言っているが、大したことではないだろ
う、と再び眠りにつこうとした、その時。
「太ってるよ!」
と、隣から私の全細胞を刺激する一言が聞こえてきた。一気に目が覚めた!
「あ~ん~た~ねぇ!」
「まあまあ、いいじゃない。実際太ってるんだし」
「それはそうだけど、言っていいことと悪いことがあるでしょ」
「名は体を表す」
彼女は、プッ、ククッ、と笑いだした。
「焼き殺して欲しいのかしら?」
そう、私の名は、太手 瑠代決して、太ってるよ、ではない。そして
、白銀蘭子を焼き殺そうと思ったのも今回に始まったことではない。
いらついた私のストレスの矛先は、ちょうど通りかかった、スチュワーデスに向
いた。
「ちょっと、お茶!」
スチュワーデスはかしこまりました、とそそくさと去っていく。
「で、何の用なのよ?」
「いや、雲の上の夜景って綺麗だな~って」
やはり、大したことではなかった。そもそも、暗くて景色などあまり見えない。
「あんた、子供か」
「フフッ、いいじゃない。私は大事だと思うよ、そーゆーの」
子供っぽい隣人をほっといて、私は再び、小説に没頭した。
何時間たったろうか、いきなり、飛行機がガタン、と揺れ、トイレ近くから、ス
チュワーデスの、
「機長~、副機長~!」
と、いう声が聞こえた。
蘭子は、関わるのはよしなさいよ、と言ったが、私は男子トイレの外にいるスチ
ュワーデスに話かけた。
「ちょっと、どうしたの?」
スチュワーデスはおろおろしながらも、何でもないです、と言う。私はスチュワ
ーデスに小さな声で、
「機長や副機長がどうかしたの?」
と訊いた。
スチュワーデスは話している暇はないんです。と言ったが、私が、
「みんなにばらすわよ。機長や副機長があ~ってね」
と言うと、スチュワーデスはハァ、とため息をつくと、実は、と話し始めた。
「え~!機長も副機長もいない!?」
スチュワーデスはしー、しー、と人差し指をたてながら言うと、
「ですから、出来れば、事情を知ったあなた方にも捜すのを手伝って欲しいので
す」
「ちょっと、待って、今、操縦は?」
「自動操縦にしてあります」
今度は私がため息をはいた。
「わかったわ。私と蘭子は客席を捜すから」
私も? 蘭子は言っていたが、事情が事情なのだ。蘭子を諭すと早速客席を捜す
ことにした。
え~、友達に、今度おばちゃんを主人公にしてみてよ!
と言われ、……筆者、やってしまいました。
いしの力のスピンオフ的な作品になるのでしょうか?
え~、読者がいるのかわかりませんが、
よろしくお願いします。