第15話 感想を言ってくれたらいいな by 犬井
お店をいくつも回って、確かここは……4個目だったかな?
「う~ん……」
鏡のほうを向いて、ハンガーにかかった服を体に当ててみる。
パステルの水色とクリーム色、どっちのブラウスが似合うかな?
水色はフリルが可愛いけど、クリーム色は落ち着いてて大人っぽいし……
いっそどっちも……は、ダメだよね。百瀬くん、服は2日か3日分って言ってたし。もうTシャツは2枚買って、安くなってたとはいえ欲望に負けてカーディガンも買っちゃったし。
それにしても百瀬くん、7万円もお財布に入れてくれたけど多すぎだよ……
時々思うけど、百瀬くんのお金の感覚って大丈夫かな? ぼったくられたりしない?
とにかく、そんなことないように、私がしっかりしなきゃ! お金もちゃんと節約して百瀬くんに返そう!
「う~ん、クリーム色のほうが……フリースのピンクと合う、かな?」
うん、こっちのほうがよさそう! 水色は戻して……次はスカートとパンツだね。
◆
「どっちがいいかなぁ?」
試着室を貸してもらって、いろいろ試してるけどやっぱり決まんないなぁ。
赤いチェックのミニスカートとグレーのひざ丈のスカート、黒いヒラヒラなロングスカート、それとくすんだ黒いデニムのショートパンツ。
同じ黒で被っちゃうし、ロングスカートとショートパンツはどっちかかな?
ロングスカートは私、背が高くないから似合わなそうだなぁ……
それにスカートだけだとつまんないし、ショートパンツは決まりかな?
もう一枚はどうしよう?
赤いスカートはすごい可愛いけど派手すぎな気がするし、グレーのスカートは遥野さんが着てたのにそっくりで、すごくおしゃれだけど……でも色と丈が制服と被っちゃうし。
迷うなぁ……1時間ってそろそろだよね、間に合うかな?
「お客様、サイズはいかがですか?」
「だ、大丈夫です! ピッタリです!」
それに店員さんも待たせちゃってるしなぁ。試着室、私が入ってちょうど埋まっちゃったみたいだし……
でも、ちゃんと選びたいし。どうしよう……
「良ければお手伝いしましょうか?」
「えっ、いいんですか!?」
元のスカートを急いで履いて、サッとカーテンから顔を出すと店員さんはニコッとして私を見た。
「もちろん! どちらでお悩みですか?」
「この中から二つを選ぼうとしてるんですけど……」
店員さんがスカートとショートパンツを受け取ると、一つずつ私の腰に当てていく。
「うぅーん、確かに迷いますね……」
空いた手で口を隠してる。もしかして、迷惑だったかな……
「スカートは赤の方が良さそうですね、柄が可愛いですし」
次に店員さんはショートパンツを腰に当てると、首をかしげた。
「これよりも……少し待ってくださいね!」
そう言うと、トコトコ走って行った。新しいやつでも取るのかな?
「お待たせしました!」
店員さんは息をハァハァさせて取ってきた明るいグレーのものをくれた。
なんだろう? 折り目がついて、ヒラヒラしててスカートみたいだけど、パンツみたいに足を出すところがある。
「キュロットパンツが似合うんじゃないかと思いまして! 良ければ着てみてください!」
「分かりました!」
カーテンを閉めて、履いて鏡を見る。
腰のところがふんわりした感じになって、制服とも合いそうな色だし。うん、すごいよさそう!
「これにします! ありがとうございます!」
「良かった! スカートは赤で大丈夫ですか?」
「はい! お願いします!」
◆
「……やっぱり、緊張するなぁ」
服が揃って、次は下着屋さんだけど……やっぱり入りづらい。あんまり来ないからかなぁ……
お店は品揃えが良さそうで、外からでも分かるくらい大人っぽくて可愛いのがいくつも見える。本当は早く中に入ってもっと選びたい、けど……
……えっちな子だと思われるのが恥ずかしくて、思わず店の前でウロウロしてしまう。それを周りに変な目で見られるのもまた恥ずかしい。
別にこれくらい女の子なら普通で、恥ずかしいことじゃないのは分かってるけど、やっぱりなぁ……
友達と一緒にくれば、これも和らぐのかな?
……でも私、そんなに仲のいい人はいないし、百瀬くんとなら……は一番ダメ! 恥ずかしすぎるよ!
「……いらっしゃいませ?」
「あっ……」
店員さんと目が合っちゃった。目線が合わないように、見る位置は気にしてたけど、やっぱり目が合うとすごい気まずいな。
どうしよう……はやくここを離れたいけど、買わなきゃだし、でも恥ずかしいし、でも買わなきゃだし――
「……もしかして、初めてのご来店ですか?」
メガネをかけて、かなり大きめのセーターを着ている店員さんが話しかけてくれた。背が私よりちょっと低くて、少しオドオドした感じだけど真剣そうで、やさしい声がすごく落ち着く。
「そのっ! よ、よかったら一緒に見ていきましょうか?」
「はっ、はいっ!」
◆
「えっ! 仁科さん、東京に来るの!?」
買うものを買ったらすぐに出ようと思ったけど、お客さんがいないから大丈夫って止められて、気づけば私たちはレジの前でずっと話してた。
「う、うん。大学に受かったから、4月から一人暮らしだよ」
仁科さんは引越し業者に頼むのが遅れたり、業者さんの手違いで入学式の2日後にやっと荷物が届くらしい。
「ところで、犬井ちゃんは本当に大丈夫なの? 帰った方がいいんじゃない?」
修学旅行のバスのこと、百瀬のことを話したらすごい驚いて、番号を調べて学校に電話しようとしてた。
「ううん。百瀬くんすごくいい人だから、大丈夫だよ」
でも、旅行がダメになっちゃうからお願いして止めてもらった。
「そっ、そういう問題、なの? お金とか……」
お金のことは……話せてない。
「……大丈夫だよ」
どんな表情をすればいいんだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ま、待って。そ、そうだ!」
仁科さんはレジの下から厚手のビニール袋を出した。
「あ、雨で濡れたらいけないから、入れてあげる!」
「そんな! 悪いよ!」
「いいの!」
そう言って仁科さんはどんどん服を詰めていく。
お金はいらないって言って、嫌な顔もせずにやってくれて嬉しかった。
「よ、良かったら、RUIN、こっ交換しない?」
すごい親切で、どんな靴下がいいかとか、下着屋さんなのに服の組み合わせ方もいろいろ教えてくれた。
「えっと、じゃあ百瀬くん? との旅行、楽しんでね!」
「うん! RUINでもお話しようね!」
とにかく、すごい優しい。だから、お返しができなくてすごく申し訳なかった。
「じゃあ、ま、またねっ!」
バイバイと手を振って、お店を出た。
「うん! 絶対会おうね!」
なんていうか、私となにも変わらない同年代の友達って感じですごい楽しかった。同い年の女の子とこんな盛り上がったの、いつぶりだろう。
普通の高校生活って、きっとこんな感じのことをたくさん話すんだろうな。
……なんだか、しんみりしちゃうなぁ。
でも、ずっとこうもしていられない。切り替えよう!
とにかく、服と下着が一通り揃ってよかった!
下着はレースがついた可愛いのが買えたし、靴下も一緒に探してくれたおかげ薄いピンクの大人っぽいものが見つかった。
お金も服を合わせて3万円は行かなかったから、このままなら半分くらいは返せそう。すごい順調だ!
でも、思いのほか話が盛り上がっちゃって、待ち合わせから5分オーバーしちゃった。
こんなこと考えるのは良くないけど、百瀬くんも遅れてるなんて……ないよね。百瀬くん、しっかり者だし。謝ろう。
待ち合わせは2階だから、降りながら待ち合わせ場所を探せば大丈夫……かな?
……そういえば、エスカレーターってどこだったっけ?
覚えてるのを頼りにしようにも、あっちのマネキンは見覚えあるけど、あっちの帽子も見覚えがあるし……
「あのワンピース、どう?」
「可愛いかったね!」
「だよね! バイトして今度買お!」
「うん!」
うろうろエスカレーターを探していたとき、お店から女の子の二人組が出てきた。
制服を着てるから、たぶん私と同じ高校生かな? 2人ともニコニコですごい楽しそう。
「……いいなぁ」
もちろん今もすごい楽しいけど、私もあの二人みたいに一緒に服、一緒に見たかったな。
百瀬くん、可愛いって言ってくれるかな……できるだけ可愛いのを選んだつもりだけど、不安だなぁ。
2人の言ってるお店が気になってちょっと見たけど、ウィンドウの服からオシャレって感じがする。
……私には手の届かない世界だろうけど、ちょっとだけ見てみたいな。
絶対に百瀬くんを待たせちゃうけど、連絡すれば大丈夫……かな?
◆
深呼吸をしてからお店に入ってみると、ズンッと空気が違うのがすぐに分かった。
マネキンが着てる服がひとつひとつ、これまで見てきたお店とは素材から違うって感じがする。
お店の中はヒンヤリして、明かりが少なくてズシッとした雰囲気がある。黒い床はホコリが一つもないくらい綺麗で、匂いも違う。
なんていうか、『アパレル』よりも『ブティック』って感じ。
なんだか別の世界に来たみたいな気分がする。
絶対高いお店だよね……早く出なきゃ。でも、もうちょっとだけ――
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
「あ、あの……えっと」
毛糸のゆったりしたポンチョを着た店員さんは、私の顔から何かを察したみたいに笑った。
「よければ試着していきませんか? ちょうど春の新作が入荷したんですよ」
「……買えるか分からないですけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、もちろん」
店員さんはニコッと笑って答えてくれた。
店員さん、雰囲気は大人っぽいのにふんわりしてて、私もこんな風になれるかな?
「じゃあ、一緒に選びましょうか?」
「は、はい!」
◆
「お客様、着てみてどうですか?」
「……これ、肩が出てて女の子って感じですね」
服ってすごいな、鏡に映る姿がお姫様みたいで思わず見とれちゃう。写ってるのは自分なのにね?
カーテンを開けて店員さんに見せると、うんうんと頷いてくれた。
「やっぱり。お客様、色白で髪は綺麗なブロンドですし、細い首と肩のラインがすごく綺麗で一目見たときにピンと来たんですよ」
「あっ、ありがとうございますっ」
こんな一気に色々褒められると、なんか言葉がうまく出なくなっちゃうな。
「お客様がお持ちのカーディガンも羽織ってみて、どうですか?」
そう言って店員さんがくれたのは、淡いピンクのカーディガンだった。
「どうですか?」
「なんか、一気に大人っぽくなりますね」
「うんうん」
店員さんは満足そうな優しい表情で頷いてる。
「でもこれ……高いですよね? 生地から違うって感じで」
「まっ、まぁ、捉え方次第ですね。お客様、クーポンはお持ちですか?」
「持ってないです」
そうだ、断らないと!
「あ、あのっ」
「今日、20%オフのチラシを店の外で配ってまして、良ければ差し上げますよ」
「わっ……ありがとうございます」
「いえいえ。次はこのブラウスとスカートも試着してみてはいかがですか? こっちも肩が出て、似合うと思いますよ」
「じゃ、じゃあ……すこしだけ……」
安くなるなら、一つくらい買っても……大丈夫なの、かな?
◆
「お買い上げ、ありがとうございます」
「……はい」
すごく可愛くて……店員さんがオススメしたワンピースと白いブラウス、それにトレンチスカート? も諦められなくて、結局全部買っちゃった……百瀬くんが言ってた分の服はもう買ってるのに。
店員さんがクーポンをくれたから安くなったけど、お金……思いっきり半分を切っちゃった。無駄遣いしないって、節約するって決めてたのに……
百瀬くんは「言わなくていい」って言ってたけど、これはダメだよね。
自分のことがすごい嫌になる。こんなに買ったの、百瀬くんになんて言おう……
「お客様?」
「……」
一緒に選んでくれた店員さんは心配そうな顔をしてる。
……でも、罪悪感はすごいけど、それに負けないくらいすごく不思議な気分がする。
「お客様が心配なの、すごく分かります」
「あはは……分かります?」
なんでこんなときに笑えちゃうんだろう。
すごい悪いとは思うのに、後悔はないなんて。そんなのいけないし、変だよね……
百瀬くん、可愛いって……言ってくれるかな?
……使いすぎって、怒られるかな。
「絶対大丈夫ですよ。彼氏さん、可愛いって言ってくれますよ」
……私、言ってないよね?
「良ければ、着ていきますか?」
「は、はいっ!」
無理でもせめて……なにか感想を言ってくれたらいいな。




