『みじかい小説』059 / おぞうに、ひとりぶん ~1000文字にも満たないみじかいみじかい物語~
今年も無事新年を迎えることができた。
正月三が日、私はひとり、おこたに入り、テレビで箱根駅伝を見ている。
こたつにはみかんと相場が決まっているが、既に私の目の前には、うずたかく積まれたみかんの皮がこんもりとした山を作っていた。
去年の今頃は、夫の和也と、娘の美奈がいた。
家族三人で年越しをし、新年を迎え、お節を食べて、初詣にも行ったのだ。
私は年末からお節の準備で台所に立ちっぱなしだったっけ。
それが、今年はひとりである。
ひとりなのをよいことにして、年末はお節を作らず出前で済ませたし、今日は三日だというのにいまだ初詣にも行っていない。
「あーあ」
離婚を決めたことに後悔はないが、こうして季節のイベントをひとりで過ごす回数が増えていくにしたがって、段々と二人の不在と、自分は離婚したのだという現実が重みをましていくのだなと思うと、思わずため息が出た。
「気楽なのはいいんだけどねぇ」
誰もいない空間に、言葉を投げてみる。
誰もいないので、もちろん反応はない。
空中に腕を伸ばして、何も握れない空の拳を作るような感覚を覚える。
やっぱり実家に帰って、親に甘えればよかったかしら。
そんなことを考えてもみるが、いやいや、やはり今年くらいは、ひとりで羽を伸ばしたい。これでよかったのだと思いなおす。
ひとりで羽を伸ばして、家族を持っていた期間に背負っていた責任という名の重荷から解放される気分を思う存分、味わうのだ。
そんなことを自然に考えてしまうのだから、本当に、私は母親には向いていなかったのだろう。
離婚というまわり道をしてしまったけれど、それが分かっただけでも、私にとっては必要なまわり道だったのだ。
みかんを食べ過ぎたせいで、口の中がずいぶんと甘ったるい。
塩気が欲しくなってきた。
元日に小鍋に作った、吸い物にチンした餅を入れるだけの簡単な雑煮でも食べようかしら。
午後だというのにパジャマでうろつく私を止める者は誰もいない。
今しばらくは、この自由で自堕落な自分に甘んじようと思う。
その代わり、夜になったら、パソコンを開いて今年の目標でも立てよう。
そんなことをぼんやりと心に決めて、私は餅をレンジに入れ、雑煮の小鍋を火にかけた。




