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ギルドマスターとの会話にて 2

「たとえ一〇〇人いても私は三人の仲間にしか命を預けれない。その三人と合流しないという選択をしたのが全ての答えだ」




「………………、あああああああああっ!くっそ、俺とした事が踏み込み過ぎちまったぁあああああ!!!!」



ガリガリガリと頭皮が捲れ上がりそうなくらい、シャーザンは頭を掻きむしった。



「いやすまねぇ! ギルドマスターとしてやっちゃいけねえ事をした!」



大股を開いて豪快に頭を下げる。

ゴンッッッ、と机にぶつけた。それでも下げ続ける。



「ギルドマスターだから黙っていられなかったんだろ」



その言葉にシャーザンの体が動いた。 微かなものだったが確かに反応していて、けれども申し訳なさから顔を上げられないのだろう。

アインスは声を出さずに笑った。どこかバツが悪そうに。



「気持ちには応えられないから、この話は無かった事にしようか」


「………ハッ、気遣ってもらってすまねぇな。助かるわ」


「いや、私の方が助かる」


「いや何でだよ」


「シャーザンの言ってることは正しいから、胸の中がエグられてる気分だった」


「それならもっと傷付いた顔してくれよ! 真顔で全く目ぇ逸らさないから、勝手なこと言ってんじゃねえって怒られんのかと思ったわ!」



言いながら、へらへらと表情を崩すシャーザン。 ピリついた雰囲気が砕けたものになり、カリナはホッと息をつく。



「あぁ、そうそう。イネルイオスの件は城の者に伝える事にする」


「……信じてもらえるか? シャーザンが虚言だと言われてしまうんだったら伝える必要はないだろ」


「そこは心配ない。お前の冒険の記録を提出して、イネルイオスと交戦したであろう廃国を見てこいって言うから」


「それでお偉い方が聞くと…?」


「さてな。んで、仮にそれが真実だと確定したら依頼書に記す。その後は他のギルドに共有……ってな感じの流れになるかな」


「そうか。ちょっと時間がかかりそうだけど、知れ渡るならそれで良いかな」


「…………、」



おかしなやつ、と。

シャーザンは小さな声を発した。



「ん、何か言った?」


「いんや別に。それよりアインス。これからどうするよ」


「……?」



アインスは首を横に倒す。



「この街に居続けるのかって聞いてんだ」


「あー………、そう、だな。特に決めてないからなぁ」



あー、だの、んーだの言いながらあちこち視線を飛ばす。

その間にシャーザンはカリナに目配せをすると、



「ならこのギルドにいろよ。 冷静、沈着、優雅に振る舞う事が理念のギルド【エレガント】によおっ!」



両手を大きく広げて叫んだ。

が、しかし。



「そんな意味が込められていたのか!? それならすぐに改名した方が良い! 名前負けどころじゃない!………恥ずかしくない?」


「うるっせえよ、分かってんだよちくしょうが!!」  



なぜあんな酒場みたいになったんだと、唸り声を上げながら頭を抱えてしまう。

でも……とアインスは切り出した。



「そうしようかな」


「お?」


「世話になる」


「よっ、しゃっっっっ!!!」



ソファから飛び上がり何度も拳を突き上げる。そんなギルドマスターに白い目を向けていたカリナは、アインスに微笑みを見せて口を開こうとした。

だが、



「つまらない所に居させて悪かったな、カリナ」


「ッ…!?」



口を開いたのはアインスが先だった。



「そ、そんなこと仰らないでください!私が勝手に居ただけなんですから!」



またもや優しい言葉を投げられて、嬉しさと恥ずかしさが混ざり合い、顔に熱がこもる。

しかし気遣われてばかりでは受付嬢として格好つかない。 カリナは強めに咳払いをして平静を取り戻す。



「それで、その……、アインスさんは今どちらにお泊りですか?」


「街に入ってすぐの所だけど」


「つまり一般向けの宿屋ですね」


では、とカリナはシャーザンを見た。

意図を察したシャーザンは 『良いとこ紹介してやるよ!』と街の細部が書いてある大きな紙を机に広げる。

そして、特定の場所に指を置いた。



「ここから一〇分くらいの場所にギルドと連携してる冒険者専用の宿屋がある。 家賃はまぁまぁだが、冒険者が楽に住めるよう配慮されているんだ」


「へえ。例えば?」


「装備のメンテナンス。クエストにより帰宅、外出時間が不定期でも問題なく、必要ならば食事も提供されます。さらに源泉を引いているので毎日気持ちの良い入浴が出来ますよ!」


「住むのは"常識ある"冒険者だけだから話もしやすいだろうしな」


「良い事尽くしだ……。すぐに入れるのか?」


「ちょっとした審査はあるが………まっ、アインスなら平気だろ。一応カリナちゃんに案内兼仲介に入ってもらうが」


「はい!任せてくださいねっ、アインスさん!」



カリナは、アインスの両手ごと握りしめる。感情を抑えきれず大きく上下に振り乱し、ガックンガックンとアインスの体が揺れていた。

見計らってシャーザンが止めに入る。

『少しカリナちゃんに説明してから案内させる。それまでは表で待っててくれ』とアインスに言うと、分かったの一言で部屋から出て行った。



「ずーいぶんとお気に入っちゃったねえ、カリナちゃん?」



アインスがいなくなると、シャーザンはいじる気満載でニヤつきながら、カリナの肩を小突いた。



「だって、アインスさん優しいんですもの。それにマスターだってそうでしょう?」


「否定はせん!………あいつは親しみやすい。まるで、長年連れ添ったヤツのような安心感がある」


「ベタ惚れじゃないですか………」



うェ、と喉を奥から歪な声がこぼれる。



「だからと言って必要以上に迫って怖がらせないでくださいね?」


「はッはァッ! 怖がるとか、そんなタマじゃないだろうよ!」



どこのツボに入ったのか知らないが、シャーザンは大きな声で笑い飛ばす。



「けどま、カリナちゃんの言う通り優しいやつだ。 きっと"大家の審査"も難なく通るだろう」


「ぁ、………そのこと、なんですが」



スッ、とカリナは静かに頭を下げた。



「すみません。"あの"宿屋をご案内するの、早かったですよね……」


「最終的には大家の判断で入寮は決まるが……。ギルドに加入してから三ヶ月、クエストを五件以上受けた冒険者の人柄を見る。それから案内する事だからねぇ? 話を振られた時は驚いたなぁ」


「すみません……」


「……………、」



シャーザンから見えるのはカリナの頭頂部だ。 もっとよく言えばそこにはツムジがあり、人差し指で狙いを定めると勢いよく突き刺した。



「あ、いっっっ……!?」


「ははっ。俺達二人共が選んだくらいだ。一回会っただけだとしても、見る目は間違ってないって自信持とうぜ!」



頭をさすり、恨めがましい目で見つめるカリナ。 直後にはブッと吹き出して『はい!』と満面の笑みで応えた。

それからだ。


部屋の扉を叩くとの同時に、焦燥に駆られた声が聞こえて来た。



「マスター! いますか!?」


「はいはい、いますよ、どうしたよっと…?」



部屋の前にいたのは受付嬢の一人。



「大変です! 先ほどカリナさんがお連れした方がっ」


「アインスさんですね。彼女が何か?」


「ぎ、ギルドに入って来られた方をいきなり殴って……!!」


「………………………は?」


絞り出たのは間抜けな声。

シャーザンとカリナは、少しのあいだ時が止まったかのように固まった。



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