表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

ギルドマスターとの会話にて 1



ギルド【サイレンス】のとある一室。

ソファに対面で座るのはアインスカーラと、ギルドマスターであるシャーザン。その側に立つ受付の女性カリナ。



「………ちょっと待てよ? いま頭の整理してるからな」



アインスからイネルイオスの話を聞いたシャーザンは、蓄えた顎ひげを触りながら、眉間に皺を寄せて目を瞑っている。



「ゆっくりで良い。………黙ってからもう五分経ってるけど」


「みなまで言うな!」



ギルドマスターとして考える事が色々あるのだろう。 なんせこの数年、情報が途絶えていた魔物の件なのだから。

しかし、あからさまに悩んでます……と言いたげな恰好で五分も黙りこくられては、アインスとしても居心地が悪く、それはカリナも同じだったみたいで、ぎこちない笑みを浮かべる彼女に、アインスは微笑み返した。



「よーしよしよし、待たせて悪かったな!」



それからさらに五分。

シャーザンは手を叩いた。



「とりあえず……………えー、名前なんだっけ?」


「アインスカーラさんですっ、マスター! お連れした際にお伝えしたではありませんか…!」


「あは、は………、考え事してたら、ねえ?」


「ねえ?じゃないですよ。失礼がないようお願いします!」


「カリナ」



ピクっと肩が跳ね上がった受付の女性カリナは、対面に座るアインスを見た。



「アインスカーラじゃあ長いだろうし、アインスって呼んでくれ」


「っ、はい!」


「……………、」



今日はやけにカリナの当たりが厳しいと感じていたシャーザンは、自身とアインスの対応の違いに不満を溢しつつ、改めてアインスに向き直る。



「あー、で、………アインス。とりあえず聞きたいんだが」


「何だ」


「お前の話は、本当か?」



ボサついた前髪から覗く眼光。

睨んでいる訳ではない。アインスの一挙一動から真偽を見出そうとしている。



「本当だ」


「それを立証するための証拠は?」


「………あ、無い」


「………無い、か」


「ん」


「そっかぁ………」



再び生まれる沈黙。

シャーザンはポリポリと頭を掻いて、



「わざわざこうして言いに来てくれたくらいだ。意味もない嘘を付くようには思えないんだが………、おいそれと鵜呑みにする訳にはいかん」


「だろうな。まぁ、ギルドに共有しようと思っただけだから、頭の片隅にでも入れといてくれ」



用は済んだと席を立つ。



「あーっ、おい、待て待て!」



慌ててシャーザンは手を伸ばした。



「ん?」


「あれだあれ。ギルドカード見せてみ」



アインスは首を傾げながらギルドカードを取り出すと、半ば奪い取るようにシャーザンの手に渡った。



「証拠なんて仰々しいもん無くて良いんだよ。それっぽい要素があれば充分ってな」



部屋の角に置いてある装置。

四角の木枠にはめ込まれた水晶にギルドカードをかざすと、水晶には文字が浮かび上がった。

冒険者の記録。

アインスカーラが辿った道が記されていた。



「……へぇ。ギルドを転々としているところを見ると、アインスは旅人か」


「ああ」


「それもまだ初級ランクの身で旅に出るとは………、命知らずなのかお馬鹿さんか。はたまた、そうせざるを得ない理由があったか」


「昔の事だし理由は忘れちゃったな。 大した意味は無かったと思う」


「なるほど。命知らずなお馬鹿さんの方だな。……………ッ!!」



途端にシャーザンは目を細めた。

水晶を指でなぞっていると、そこにあった。

ーーイネルイオス討伐クエスト、失敗。

クエスト期間は二年。日にちを照らし合わせると、アインスがした説明と誤差はない。



「………なあ、アインス」


「?」


「お前、再挑戦しようと思わないのか?」


「ッ、マスター!!」



カリナは声を荒げた。 ギルドの者からクエストを提示する事は禁止とされている。

冒険者の死は自己責任なため、その一端でも加担するような真似をしてはいけないのだ。

だがシャーザンは聞く耳を持たず、アインスを見ている。



「ヤツの討伐に向かったうちの冒険者は帰って来ていない。城の部隊も連絡が途絶えたらしい。他の所も同じと聞いた。 しかしお前は生きて帰り、それもピンピンしている」


「…………、」


「昔はともかく現状は、イネルイオスが国や街を攻撃したという報告は無い。だが時間の問題だと思う。ヤツがその気になれば数えきれない人達が命を奪われるだろう」



シャーザンはアインスの目から一度たりとも外す事はしない。 逆にアインスも見つめ返している。

その傍でカリナは胸元を手で押さえ、声を発せずにいた。 一介の受付嬢に口を挟める内容ではない事もそうだが、こんなに圧力を放つシャーザンを見たことがなかったからだ。

その勢いが、いかに深刻なものだと裏付けている。



「……………俺が腕のある冒険者を集めてやる。相手がイネルイオスなら城からも助力があるかもしれん。 もう一度、ヤツを討ちにいけ。アインス」



とうとうギルドマスターは断言した。

しかし。



「悪いな、シャーザン」



アインスは即答する。



「どうしてもイネルイオスを倒したかったら、私はあの場所で死ぬまで戦ってる」


「………、味方を五〇人ほど集めてもか?」


「たとえ一〇〇人いても私は三人の仲間にしか命を預けられない。その三人と合流しないという選択をしたのが全ての答えだ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ