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冒険者専用の寮【ガーデンドール】




アインスは、カリナと共に新たな住処となる冒険者専用の寮へ向かっていた。



「そういえば、入寮するには審査があるってシャーザンが言ってたな。 準備とかしなくても良いのか?」


「はい。審査と言ってもただ見てもらうだけなので」



誰に何を見てもらうのか。疑問の意図を孕んだ視線をカリナに向ける。

すると彼女は『一から説明しますね』と切り出した。



「寮の名前は【ガーデンドール】 小鳥のさえずりで朝を迎えるようにという気持ちを込めて、マスターが命名しました」


「……へえ」



メルヘンちっくな名前を聞いた時から、名付けたのがシャーザンである事は何となく分かっていた。

瞬間的に頭をよぎったのは酒場のような冒険者ギルド【エレガント】

名前負けした前例がある。寮に対して期待をするのはやめよう、とアインスは密かに決めた。



「ガーデンドールに入寮出来るのは決まり事を守れる人達。そのためマスターは、人の本質を見抜く、慧眼の持ち主であるマーゴットさんに寮の管理を一任しました」


「マーゴットさん、ね」


「マスターのご友人です。古くからのお付き合いらしく」


「……それで、そのマーゴットさんは魔法でも使って心でも読むのか?」


「魔法ってそんな事まで出来るんですか!?」


「…………世界のどこかには、出来る人がいるかも知れないけど…………悪い、適当に言っちゃった」


「あっ、わ、私の方こそすみません!」



話を戻します、とカリナは前のめりになっていた体を引いた。



「えっと、マーゴットさんは魔法ではなく、人を見る目が長けた方なんです」


「………それだけ?」


「はい」



いまいち理解し難い事だった。

初対面の相手を見るだけで入寮の可否を決めるなど、あまりにも杜撰。運が八割を占めていそうな審査内容だ。



「じゃあ、私がダメだったとしたらその場合って」


「………私の口からは、ちょっと」


「………、」



つまりこうだ。

"あなたは規律を乱しそうだから寮には入れません。性格に難がありそうに見えるし" ……という事だろう。

もしそう言われたら『はは、だよね!』とは返せない。アインス自身、規則礼儀正しくを努めている訳ではないので可能性として大いにあるが、単純な話、絶句すると思う。



「でも、きっと大丈夫です!」



カリナは小走りでアインスの前まで行くと、ふわりと振り返り、覗き込むような上目遣いで微笑んだ。



「アインスさんは、私とマスターが推薦したんです。それも初対面で」



『これって結構凄いんですよ?』とカリナはアインスの手を取り、胸の前で握りしめた。



「本来なら、入寮したいと冒険者からの問いかけがあり、それまでの行いとそれからの振る舞いを鑑みて返答するんです。でもアインスさんには是非とも【ガーデンドール】で暮らしてほしいと思いました」


「そう言ってくれるのは嬉しいしありがたい。けど、今更ながら良かったのか? 言ってしまえばそれは規則破りだろう?」



責めるような口振りだが、アインスにそんな気はさらさら無い。

ただ、冒険者のアインスにクエストを提示するという禁止行動をしたシャーザンを咎めたのがカリナだ。



「少しでも罪悪感を抱かせてしまうなら私は引かせて……」



アインスは口を止めた。

カリナが首を振っていたからだ。



「特定の人を優遇したいと思った私自身の未熟が招いた事です。どうか、得をしたと喜んでもらうだけでいてはもらえませんか?」


「……………イネルイオスの所から逃げ切れたくらい得したよ」


「っ!」


「まあ、シャーザンも認めてくれていた訳だからいいか。行こ」


「はい!」



気を取り直して二人は歩き出した。

その二人の距離は極端に近い。というより物理的に繋がっている。

アインスは、右手に温もりを感じながら横目でカリナを見た。



「マーゴットさんは口調は厳しいんですけど、とても優しい方でーーーー」



などと、上機嫌に口を開いている。

カリナの歩く仕草に同調して動く右手。 どうにも彼女は気付いていないらしい。

仲睦まじく手を繋いでいる事に。



(…………うん。好かれるのは良い事だ)



受付嬢の中でもシャーザンの傍にいれるくらいだ。恐らくカリナは甘えれる立場にいなかったのだろう。そう考えると別に繋いだままでもいいかと、アインスは委ねるように歩行を合わせた。






程なくすると。



「あれですよ!アインスさん」



カリナが指を差した。指先を辿らなくても分かる。 目の前には大きな建物が一件。 全部ひっくるめて"立派"だという感想しか出てこない。

それはおかしい。

名前負けをしてなければおかしい。



「…………………、」


「アインスさん?………っ!?」



アインスが足を止めた事に気付かず、カリナは数歩進んだ。 二人の間に距離が出来た事で繋がれた手が宙に浮く。

急速にカリナの顔が赤く染まり、慌てて手を離した。



「わ、私ったら、ごめなさい! いつから、いえそれよりも、勝手に、長いこと………!!」



赤らめたり青ざめたりカリナは一人慌てふためくも、アインスはひたすらに建物を眺めていた。

玄関に続く道の真ん中には噴水があり、その両端には太陽光が反射するほどの輝きある芝生が整えられている。

建物自体は左右対称に大きく広がり、いくつも縦長の窓が備え付けられていた。それは長い廊下、部屋の数も比例している事だろう。

まるでとても小さな城のようだった。



「【ガーデンドール】……か。シャーザン、頑張ったなぁ」



素直に感心する。ここに住めるのかと心を躍らせていると、口を半開きにさせたカリナと目が合った。

彼女はこほんと咳払いをすると、行きましょうと言い玄関に向かう。

その途中だ。

噴水を通り過ぎようかという所で、カリナは声を上げた。



「あっ、マーゴットさーん!」



手を振る先は、芝生の手入れをしている女性だった。



「あの人がマーゴット、さん……」


「はい。こっちに来てくれるみたいですね」



近付いて来るその人は、この立派な寮の管理人をしているとはとても思えなかった。

別に、風貌に文句があるわけではない。

ふくよかな体格。ボリュームある髪を後ろで一つに束ねていて、ポケットの多いつなぎの作業着を身に付けていた。

失礼な話、騒ぎ声が響く小さなボロめの酒場のような店で、親しみある店主をやっている感じがする。



「こんにちは、マーゴットさん!」



マーゴットは軽く手を上げると、カリナとアインスを交互に見て、



「……あんた、この女に誑かされてんのかい?」


「たぶっ……!?」



健康的な顔色に戻ったというのに、もう一度カリナの顔が赤くなった。



「たぶらかされてなんていませんよ! それを言うならマスターの方です!」


「ほお…?あいつがねぇ」



じろりと粘り気のある視線がアインスに突き刺さる。



「………で、何の用だい?」


「まずはこちらをご覧ください。マスターより預かっていた物です」



カリナは懐から折り畳まれた一枚の紙を渡した。

何らかの文章だろうか。右や左にマーゴットの目が動く。



「マスターと私の推薦を元に、アインスカーラさんの入寮をお願いしに参りました。 彼女には人を惹きつける魅力があり、寮の皆様にとっても良い影響を受けるかと」


「…………良い影響?」



マーゴットは鼻で笑う。渡された紙を見せびらかすようにひらひらと動かしながら。



「人を殺す事を何とも思っていないヤツかも、と書いてあるが?」


「なっ…….!?」



絶句するカリナをよそに、マーゴットはアインスを見た。

どうなんだ?と視線だけで問いただしているようだ。



「…………それが必要な事だと私が決めたなら、抵抗はないよ」


「百万人の命か大切な人の命。かつて世界を支配したドラゴンがどちらかを必ず殺す。好きな方を選べと言われたら?」


「私が死ぬまでドラゴンと戦う」


「相手にならん。無駄死にだ」


「だろうな。でも死んだ後の事は私には関係ない。とりあえずやりたいようにするよ」


「釣りをしたら何が釣れた?」


「美味しい魚」


「塩を適当に入れろ。指でつまんで入れた回数が一だ」


「…………大きい魚食べてるし、二〇かな」


「入寮を許可しよう。アインスカーラ」


「世話になる。マーゴットさん」


「大家さんとお呼び」



アインスとマーゴットは固い握手を交わす。

ずっと一緒にいたのに全く付いていけてないカリナは、困惑一色の表情を浮かべていた。




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