01話 突然の死
「宇宙いってみたいな」
この言葉を、この物語のはじめの言葉とさせてもらおう。
最初の言葉を、俺は小さい頃によく言っていた。
まあいわゆる、子供のときに誰しもが思うであろう、宇宙への憧れだ。
しかし、高校で強豪校の吹奏楽部に入ってしまったことで忙しくなり、そんな夢は忘れてしまった。
気付けば30歳、彼女もいないし、趣味もない。
会社と家を往復する、なんとも面白みのない生活を送っていた。
だが、そんな俺にも最近、少しだけはまれるような趣味ができたのだ。
それは、異世界転生系のラノベを読むことだ。
正直、読む前は特にろくな内容も詰まっていない、しょうもない子供向けの小説だと思っていた。
しかし、読み始めてると意外と面白くて熱中してしまい、今では、ラノベを読むことが自分の趣味だと思えるようになってきた。
まあ、それでも恥ずかしくて、会社の人間や友人には言っていなかったのだが.................
「そういえば今日は本屋でセールやってるし、新しいやつでも買いにいくか」
休日、俺は自分以外誰もいない寂しげな部屋で、そうひとりごとを言っていた。
もちろん、誰もいないのでなにか言葉が帰ってくるわけもない。
「小さい頃は、誰かしら反応してくれていたよな」
一人でこんなことを言っているだけでも虚しい、そう思っていた矢先、俺はふと、あることを思い出した。
それは、子供の頃に夢見ていた、宇宙に行ってみたいという考えだった。
しかし、三十歳の時点でこんなことを思い出したところで、なにか現実が変わるなどということはない。
俺は、心のなかでさらに虚しくなりつつ、家の近くにある本屋へと行く準備を淡々とした。
今日行こうとしている本屋は、家から十分ぐらい歩いたところにある。
個人店だが、意外と品揃えが豊富で、毎回飽きさせてくれない良い店だ。
だが、そんなにうまく店に行けるはずがなかった。
今日はなに買おうかな、と思っていた矢先に俺のスマホが鳴ったのだ。
電話をかけてきた相手は、会社の部長。
俺は嫌な予感がして、大きなため息をつきながら、しぶしぶ電話に出た。
そして案の定、電話にでて言われたことは、最悪な言葉だった。
「佐藤、休みのところ悪いが新人がミスった、会社に来てくれ。」
俺は、さらに大きなため息をつく。
「他の人は出れないんですか?」
俺は、少し嫌そうに部長に聞き返した。
だが、言われたことは、ますます最悪なものだった。
「今のところ呼び出してるが誰も出てこない、すまんが今来れるのはお前だけだ、来てくれ。」
新卒からこの会社で働いてきたので、わかることがある。
それは、来てくれ=絶対に来いということだ。
俺の今働いている会社は、昭和っぽい古い会社だ。
そのため、「来てくれ」と言われて来なかった同僚が、めちゃくちゃに怒られているのを何回も見たことがある。
「そんな会社辞めちまえ!」そう言いたくなるかもしれんが、転職するのもめんどくさいし、何より、今年になって新人が三人も追加されたので、こいつらが一人前になるまでは、俺の性格上、辞めるわけにはいかないのだ。
そんなこんなで、もう行くしかないと思った俺は、しぶしぶ電話先の部長に答えた。
「分かりました、行きます」
その後部長から、「すまん」だけ言われて電話は終わった。
これまでの経験からして、多分休みはここで終了だ。
まじで最悪だ。
俺は、そんなことを思いながら、憂鬱な気持ちと暗い足取りで家の近くの駅に向かった。
だが、この日はとことんついていなかった。
それは、駅に向かって暗い足取りで歩いている最中だった。
急に、とてつもない悲鳴が俺の耳を貫いたのだ。
俺が驚いて急いで声の方に目をやると、横断歩道を歩いている子供に向かって猛スピードで突っ込んでくるトラックが目に入った。
「これはヤバい」そう思った矢先、俺の体は動いていた。
俺の体は、トラックにはねらそうな子供を救うために、勝手に動いてしまったのだ。
普段、運動しない俺の体でも、火事場の馬鹿力なのか知らんがものすごい速さが出た。
そのおかげか、トラックが突っ込む前に子供の近くに着くことが出来た。
そしてそのまま俺は、子供をつかんでトラックにはねられない場所に子供を押し出した。
なんとか間に合い、心の中で「やった!」と、叫んだのもつかの間、俺は物体がトラックにぶつかる鈍い音を聞いたとともに、激しい衝撃と痛みを感じた。
そう、俺はトラックにはねられたのだ。
そのまま俺は、石を投げたように吹き飛ばされて、壁に激突した。
壁に激突した瞬間、激しい痛みを感じたとともに、俺は本能的にあることを感じた。
それは、これは死んだなということだったのだ。
自分の体だからわかる、頭を強く打ったのだ。
案の上、すぐに意識が朦朧としてきた。
このときの俺は心の中で、「やっちまった」ということしか考えていなかったのを、今でも覚えている。
そして、俺の意識はすぐに途切れそうになった。
だがそんな中、俺は薄れゆく意識のなかで、とある言葉を聞いた。
「助けて.......」
だが、その言葉は何なのかを考える暇もなく、俺の意識は、深い闇の沼底へと沈んでいった。




