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<第6話 救急病院>

 50万人の地方都市の夜間の2次救急を2つの施設で担当し、それを市内の中核病院が順にペアーで当番を回していた。夜の救急医療を担っていたのは、大学病院の外科医達

である。第一外科からは、一晩に3名が派遣されていた。来院患者は80~100名であり、救急車はひっきりなしに患者さんを運んできた。この業務は、いつも徹夜でやる厳しいものであった。昼間は大学病院で働いているので、24時間勤務である。しかし、研修医にとっては、またとない一般診療を経験できる場所なので、喜んで参加していた。内科疾患では咳、鼻水、発熱などのカゼ症状、扁桃炎、肺炎、膀胱炎、腎盂炎、喘息、狭心症、不整脈、便秘、下痢、腹痛など、あらゆる疾患がやってくる。整形外科では、打ち身、捻挫、骨折、腰痛、神経痛、子供によくあるのは、親がうっかり手を引きすぎて起こる肘内障ちゅうないしょうである。外科では外傷、急性虫垂炎、胆のう炎、腸重積、自然気胸など手術が経験できる貴重な場所である。担当するメンバーは一番上が経験5年以上の助手、次がシニアレジデント、3番手がコンペイ達ジュニアレジデントである。2次救急で対応できない疾患は県立中央病院か大学病院の3次救急に転送していた。実際の現場では救急車に乗って搬送されてくる患者さんの半分近くは、全く緊急性のないものであり、昼間の受診のかわりに、やってくる救急車や救急病院泣かせの人達である。例えば、ニキビが痛い、口内炎が痛い、お尻のできものが痛い、1週間前の打ち身がまだ痛い、なんとなくしんどい、眠れないなど、救急車の貴重な医療資源を浪費していると言わざるを得ない患者さん達である。もちろん、重症患者も少なくなく、交通事故での心肺停止でくる患者さん、刃物で刺された犯罪関連の疾患、既に死亡して来る場合も珍しくない。コンペイのような研修医にとっては、救急医療の実際の、かなりの部分をここで教え、育てられ、外科に重要なチームワークを学ぶことができた。

コンペイが救急病院でずっと記憶に残っているのは、BB弾が耳の穴に入って抜けなくなった3歳の男の子のケースである。先輩の医師達が苦労して除けようとしても、なかなか取れず、子供はヒーヒーと泣くばかりで、その泣き声は病院中に響いていた。最初に先の尖ったピンセットで掴もうとしたが、上手くゆかず、周囲の皮膚に血が滲むばかりであった。次に、細い吸引道具で吸引したが駄目であった。コンペイが、そこに行った時は先輩たちも泣き叫ぶ子供の側で途方に暮れていた。コンペイは昔から、このような出来事に対応できる妙な特技があった。

例えば、小学校の時、野球ボールが、巾がボール1つ分より少し大きい程度、深さが1mを越す縦穴に落ちてしまい、皆がどうしようもなく途方に暮れていた時に、横からその状況を見ていた。すぐに、バケツに水を汲んで、穴に流し込み、ほんの10秒ほどで、ボールを浮かせて取り出した事があった。今回のBB弾も、このタッチですぐに方法を思いついた。

割箸の先を削って細くし、先端はBB弾に合わせて凹にし、そこに瞬間接着剤のボンドを塗って、そっとBB弾に接触させ、30秒待った。この時、奇跡的に子供は静かにしていたのである。そして、そっと割箸を引っ張ると、全く痛みもなく、スルーとBB弾は抜けたのであった。


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