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<第4話 癌病棟>

 6階西病棟の北側奥にある5室は、癌やその他の悪性腫瘍の末期患者専用の病室であり、余命数ヶ月の患者さんが最後を迎える所である。高齢者から子供まで老若男女が様々な病気で入院していた。以前に手術をして再発した人、進行しすぎて手術が出来なかった人、末期になって他科や他院から紹介された人など多種多様であった。緩和ケアーを行っており、痛みを減らし、できれば完全に除痛できるように、あらゆる手法を使って治療している。

モルヒネなどの麻薬、抗不安剤、鎮静剤による薬物療法、神経ブロック療法、外科手術による除痛を組み合わせて、患者さんに最適な方法を模索している。高齢者は癌の進行は遅く、ゆっくりと衰弱してゆき、眠っている状態で経過する。家族ともに比較的穏やかな死を迎えることが多い。

一方、若い人は癌の進行が早く、急な悪化も珍しくなく、痛みや精神的不安がより大きくなる。自分の不運を嘆く者、不安のため取り乱す者、自殺を企てる者など、終末期医療は、治療をする側にとっても、大変なストレスのある業務である。経験不足の研修医にとっては、患者さんにどのように接したら良いのかわからず戸惑うばかりであった。コンペイが受け持った中で最も印象に残っているのは、9歳の男の子、左腕の横紋筋肉腫の患者である。最初に抗癌剤の動注療法で腫瘍を小さくし、次に手術的に切除した。しかし、3ヶ月後に全身に転移し、急激に状態が悪化して再入院してきた。死に臨むに当って、その人の人生、人格、生き様が、あからさまに現れる。9歳の子供がどのような臨終を迎えるのか、コンペイには、考えるのも恐ろしかった。ところが、コンペイが驚愕するようなことが目の前で起ったのである。絶対に苦しくて、たまらないはずなのに、泣いているお母さんのことを気遣っているのである。そして、最後の時を本人は自覚していて、虫の息で話し始めた。

「お父さん、お母さん、ここまで育ててくれてありがとう。僕、もうだめみたい。ごめんね、ごめんね・・・」と言いながら旅だったのである。

コンペイは号泣が止まらず、帰宅時の車の中でも泣き続けていたのであった。


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