<第2話 ブラック業務>
毎朝のカンファレンスは8時開始、9時まで1時間行う。手術、検査、病状報告について、教授を中心に全員で討論する。研修医にとっては、たいへん緊張する時間である。準備のため、前日から当日の朝までに毎日数時間が必要である。カンファレンスは口頭試問であり、日頃の勉強状況がすぐにばれてしまう。当時は残業という概念はなく、平日の20日間で 100時間以上、土、日、祝日は休むことなく数時間は病院に顔を出し何らかの業務を行う。
患者さんの病状によって勤務は、どんどん長くなり、緊急手術があればエンドレスになる。一部の元気すぎる者を除いて、研修医同士の会話は「もう限界だ。やめたい。俺には外科医は無理だ。」というフレーズが日常茶飯に聞かれる。そして、本当に他科に転向してゆく者も珍しくない。
コンペイは、生来、良い意味での鈍さがあり、さほどこたえずに業務をこなしていた。かといって超真面目というものではなく、減り張りを利かせて、手を抜くところは抜いていた。普通の医者から見れば変則的なスタイルであり、上司、同僚からの評判は芳しくなかった。しかし本人は、そのことさえ全く気にならないようであり、マイペースで仕事をしていたのであった。