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灰は眠らない  作者: 諒
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 こんな荒唐無稽な茶番がいつまで続くのかと思ったが、そう長いことではなかった。証人と物的証拠――見覚えのない毒入りの香水瓶や書いた覚えのない手紙や日記――が一通り紹介されたのち、1時間の中断を経て、その日のうちに判決が出た。信じがたいことにたった2週間の取り調べと1回の裁判で、私は有罪判決を受けた。あと2回ほどは出廷の必要があるだろうと内心うんざりしていたが、さすがに今日すべてを終わらせるとは思いもよらなかった。100年前にあったという異教徒裁判よりも拙速で、やはり結末まですべて用意されていたのだ。この異例尽くめの裁判を新聞記者がどのように書き立てるのか、若干興味はあったけれど、私がいくら頼んでも新聞は差し入れられないので、知るすべもなさそうだ。


「被告エリシア・ランドスピアに、死刑を申し渡す」


 高位貴族令嬢2人への殺害未遂だけでも処刑されてもおかしくないところに、さらに敵対国への情報漏洩。血族全員が首を城壁に晒され、家門断絶を申し渡されるほどの重罪だ。だがオーギュスト判事は咳払いののち、付け加えた。


「しかしながら被告の兄と義姉から減刑の嘆願があったこと、また彼らの証言が被告の罪を詳らかにしたこと、被告の父と祖父の功績――それらを鑑み、罪を1等減じて北の塔への生涯幽閉とする。ランドスピア家からは金銭による贖いの申し出があったため、それを受け入れ、被告以外の連座はないものとする。陛下からも、代々のオランドール公爵の献身を讃え、公爵に2週間の謹慎を与えることを本件の処罰とする旨、お言葉を賜った」


 なんて恩情かしら、と思わず失笑してしまう。これはつまるところ、国を巻き込んだランドスピア家のお家騒動だ。実子と養女を天秤にかけた当主が実子を捨てただけのこと。大げさすぎる罪の内容も、考えてみればそういうことかと腑に落ちる。間違いなく王家もこの茶番に噛んでいる。

 たった2週間の謹慎など父の今後には虫に刺されたほどの痛痒も残すまい。オランドールが積み上げてきたものは、この程度で小動ぎもしないのだ。私のひとり負け。ただ、それだけのことだ。


 ただし――きっと、傍聴席の半ばを占める平民たちは、私を忘れないだろう。どんな女優よりも美しく、どんな貴族よりも誇り高くあったエリシア・ランドスピアのことを。冤罪を訴えていた年若い娘のことを。王の威光が揺らぎかけているこの時代において、1人の娘を惨たらしく罪に落としたことは、今後どのような波紋を生じさせるだろうか。もしかしたらどこかで種が芽吹くかもしれないし、もしかしたら単なる娯楽として消費されて終わるのかもしれない。


 それでも何も残さないよりはいい。


 私は人生で最も愛らしく見えるように笑みを浮かべ、裁判官たちと、そうして傍聴席の彼らへ優雅にお辞儀をした。

よくある断罪悪役令嬢追放の流れ

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