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灰は眠らない  作者: 諒
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これ以降、裁判から8年後の世界になります

 さて、イニエスト王国といえば建国から320年そこそこの、まあまあ古い国だ。建国時には猫の額程度の土地しかなかったはずなのだが、200年ほど前、征服王と名高い6代目の王が周辺諸国を荒らしまわり――失礼、その圧倒的な魔術でねじ伏せて吸収していき、今の国土を得た。征服王と呼ばれたこの王は大変優秀な魔術師であり、現在の「国王+4大公爵家」制に代表される統治体制のみならず魔術理論の礎をも築いた人物でもある。端的に言えば、化け物だ。


 王国の中央、やや北よりに王都があり、王都を囲む地域を東西南北に分割したものを、それぞれ4大公爵家が治めている。4等分された地域の中にはさらに各貴族のおさめる細々した領地があって、ところどころには王家直轄領なども含まれている。4大公爵家には、自らの管轄地を監督する義務があり、万が一どこかの領主が反乱を起こした場合には、管轄地の公爵家が陣頭指揮を執って征伐にあたることになる――征服王の時代以降は、そういった内乱もなく非常に平和なので、部分的に形骸化している権限でもあった。今ではあくまで各地域の行政の長といった程度の位置づけであり、各領主にしてみれば、王の代わりに税金を取り立ててくるお偉いさんといった印象のほうが強いかもしれない。


 ところで――王国には2か所、イニエストの議会王政からほんの少しはみ出した土地がある。ひとつが北部山脈の少数民族が治めるヴィノク自治区、もうひとつが南部クロセリア市である。

 ここで話題にしたいのは、後者のクロセリア市だ。クロセリア市は王国南部最大の行政区である。区分上は王家の直轄領地のひとつであるのだが、実際には領主を戴かない特別自治区として機能している。定められた税を国に――正確にはドレイヴン公爵家を通して国庫へ――納める以外は、ほぼひとつの国と変わらぬほどの自治権と軍隊、限定的ではあるが立法権まで許されている。トップに立つのは一般選挙で選ばれた市長で、選挙権に身分を問わない非常に珍しいシステムを採用している――今の市長も”由緒正しい”平民である。行政長として王に謁見する機会も有り得るため、在任中に限り有効な伯爵相当の爵位と権限を与えられることになっているけれど、実態としては誰も貴族扱いしていない。市長本人だって貴族になった気はしていまい。


 さて、広大な行政区のやや北部には、高い壁でぐるりと囲われた都市がある。一般的にただ「クロセリア」や「クロセリア市」という場合には、この城郭都市を指す。この街が行政の中心地であり、あとは深い森か広大な農業地域、ぽつぽつと点在する中小規模の村――というのが、他地域におけるクロセリアの印象であって、どこか田舎くさい地方都市と思われがちだ。

 そうはいっても南の森で隣国と国境を接するクロセリアは、かつては間違いなく国防上の要所だった。クロセリア市が城郭都市になったのも、大陸が緊張に包まれていた時代の名残りであり、歴史をさかのぼれば、ときの王と対立した王弟がクロセリアに立てこもり、新王国の樹立を宣言したこともあった。とはいえ今では隣国との関係性もすっかり改善され、クロセリアは交易拠点としての色のほうが濃くなっている。実際に王都の人間がきてみれば驚くだろう。人や物にあふれたクロセリアは、下手な街よりも豊かで活気にあふれている。


 そのはずだった。

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