幼馴染は名探偵?
ハンバーガーショップの油っぽい匂いと、人工的な甘さが混じり合った空気が、健志の勉強への意欲を根こそぎ奪っていく。教科書を開いても、文字は躍り、頭の中には全く入ってこない。彼の視線は、無意識に店内を彷徨っていた。
ある悩みが、健志の心を締め付けていた。それは、幼馴染である蛍の近頃の不可解な行動だ。以前は他愛もない話で盛り上がっていたのに、最近はどこか上の空で、時折意味深な笑みを浮かべている。まるで、何か秘密を抱えているかのように。
そんなことを考えていると、窓際の席に蛍の姿を見つけた。驚かせてやろうと、健志は音を立てずに蛍の背後に近づき、勢いよく「わっ!」と声をかけた。しかし、蛍は微動だにしなかった。
「ふっふっふっ…計画通り…これで完全犯罪だ…」
蛍は低い声で呟いている。まるで漫画の悪役のようなセリフに、健志は耳を疑った。まさか、蛍が犯罪に手を染めているのだろうか?
健志は蛍を観察することに決めた。翌日、学校の休み時間。蛍は友人の茜とひそひそ話をしていた。健志は二人の近くに席を取り、会話に耳を澄ませた。
「計画通りに証拠隠滅できたよ」
「これで誰にもバレる心配はないね」
「知恵を貸してくれてありがとう、茜ちゃん」
「しかし、彼も気の毒だねぇ…」
「「ふっふっふっ」」
二人は声を合わせて不気味に笑った。健志の心には、黒い雲が広がっていく。これは確定だ。蛍は殺人を犯したに違いない。
健志の頭の中は高速回転し始めた。聞かなかったことにして関与しないのは、自分自身のためにも蛍のためにも良くない。かといって、罪を犯した理由も分からずに自首を勧めるのは、本当に蛍のためになるのだろうか?それとも、犯罪に加担して彼女を守るべきか?いや、そんなことは絶対にいけない。
しかし、蛍が本当に殺人を犯したのだとしたら…。健志はいてもたってもいられず、蛍に直接問いただすことにした。
「蛍、最近様子がおかしい。何か隠していることがあるだろ?」
蛍は驚いた表情を見せた後、すぐにいつもの無邪気な笑顔に戻った。「何のこと?健志ったら、考えすぎだよ」
「でも、ハンバーガーショップで『完全犯罪だ』って呟いていたのを聞いたんだ。それに、茜との会話も…」
健志の言葉を遮るように、蛍は笑い出した。「ああ、あれね。実は私たち、文化祭の出し物のサプライズ計画を立てていたんだよ。茜が脚本を書いてくれて、私が演出を担当するの」
「サプライズ計画?」
「そう!演劇部と協力して、先生たちにも内緒で、大掛かりなサプライズを仕掛けるんだ。だから、少し怪しい会話になってしまったのかも。ごめんね、心配させて」
蛍は悪びれる様子もなく、にこやかに説明した。茜も頷き、「そうなの。健志くんには内緒にしていて、ごめんなさい」と付け加えた。
健志は、自分が完全に勘違いしていたことに気づき、安堵のため息をついた。殺人事件だと思っていたのは、ただの文化祭の出し物だったとは…。
「…で、どんなサプライズを計画しているんだ?」
健志は興味津々に尋ねた。蛍と茜は顔を見合わせ、いたずらっぽく笑った。
「それは…当日のお楽しみ!」
その日から、健志は文化祭当日まで、二人のサプライズ計画に翻弄され続けることになる。蛍と茜は、健志を巻き込みながら、様々なフェイクを仕掛け、彼を混乱の渦に陥れていく。健志は、疑心暗鬼になりながらも、二人の計画の全貌を解き明かそうと奔走する。
そして迎えた文化祭当日。体育館に集まった生徒や先生たちの前で、蛍と茜を中心とした演劇部員たちが、壮大なサプライズ劇を繰り広げる。それは、健志が巻き込まれた一連の出来事を題材にした、コミカルで感動的な物語だった。
劇の終盤、蛍は健志の方を向き、笑顔で語りかける。「健志、驚いた?実は全部、あなたを驚かせるためのドッキリだったんだよ」
健志は、驚きと感動で言葉を失う。そして、会場全体に温かい拍手が響き渡る中、蛍と茜は健志に駆け寄り、心からの謝罪と感謝の言葉を伝えた。
こうして、健志の誤解と、蛍と茜の壮大なドッキリ劇は幕を閉じた。しかし、この一件を通して、健志と蛍、そして茜の友情はさらに深まり、彼らの高校生活はより一層輝きを増していくのであった。
タンペン…ムズイ…(Part3)