可愛い君は肉体を捨てた
私はルージュ。
人々からは紅薔薇の君と呼ばれる、公爵家の娘。
赤い髪に赤い瞳はキツイ性格に見えるらしい。
本当の私は、そんなに強い人間では無いのに。
「ルージュ」
「妖精王様」
そんな弱い私の目の前に現れたのは、闇の妖精王様。
何故だか私は、最近になって闇の妖精王様に求婚されている。
自分の人生に絶望しているから、だろうか。
幼い頃に母を亡くし、父は私に無関心、継母には虐げられ、義妹には元婚約者を寝取られた。
元婚約者に悪評まで広められ、人生を諦めている私は闇の妖精王様から見れば心地好い魂になってしまったのかもしれない。
「心は決まったかい?」
「えっと…」
「僕に輿入れしてくれるなら、不自由はさせないよ」
私はこのままなら、修道院へ入れられることになる。
そこで穏やかに過ごせれば…と思っていたところに妖精王様からの求婚。
正直まだ少し混乱してしまっている…が、答えなんて最初から決まっていた。
だって、妖精は気まぐれだ。
断ったらどんな災難があるか、わからない。
「…わかりました、妖精王様に嫁ぎます」
「よかった…!さあ、僕のルージュ。行こう!」
妖精王様にお姫様抱っこをされて、妖精王様の領地である森に連れ帰られる。
お世話になった人たちに挨拶は出来なかったが、したところで無駄なのでこれでよかっただろう。
「さて、まずはこの水を飲んで」
「はい」
「この果実を食べて」
「はい」
「最後に、湖に身を浸して」
妖精王様に促されるまま、不思議な水を飲み、不思議な果実を食べ、美しい湖に身を浸す。
すると体が熱くなり、しばらく湖の中で悶えていたが…やがて、魂と身体が乖離した。
脱皮するように人間としての肉体を捨て、妖精王の妃として生まれ変わった。
「さて、人間としての肉体は君の家族の元へ返しておこう」
「それは悪趣味では…」
「まあまあ、それよりこれで君は妖精王の妃となった。共に永遠を生きられるよ」
「はい」
「誓いのキスをくれるかな?」
妖精王様にキスをする。
自分でしておいてちょっと照れてしまう私に、妖精王様は微笑んだ。
妃となった、可愛いルージュ。
彼女に目をつけたのは、彼女の魂が絶望に染まった時。
家族の仕打ち、婚約者の浮気、信頼していた周りの人たちの噂話。
彼女はいつ自死を選んでもおかしくなかった。
そんな彼女が愛おしくて仕方がなくなったのは、闇の妖精王としての性だろうか。
「ルージュ」
「んん…」
眠るこの子が愛おしい。
僕たち妖精には睡眠も必要ないが、まだ僕の妃に迎えたばかりのルージュは睡眠が欲しいらしい。
「可愛いね」
「えへへ…」
冷たい印象、あるいは苛烈な印象を持たれる彼女。
けれど実際には、とても可愛らしい子だ。
どちらかといえば幼く無垢で純粋な…子供の頃の魂から染まっていないまま育ったような子。
そんな子が魂を絶望に染めているのだ。
愛おしくなっても仕方がないだろう。
「愛しているよ」
「んぅ…」
愛している、本当に心から。
もし君の魂がやがて僕と過ごす中で癒されて、絶望の色が薄れても、消えても。
きっと、この愛は薄れない、消えない。
なんとなく、そんな予感がするんだ。
むしろその頃には、僕はもっと君に対して重い愛を捧ぐ気がする。
「…さて、お仕事をしようか」
僕は、ルージュが捨てた元の肉体に細工をした。
そして、ルージュの元家族の元へそれを届けた。
あとは彼ら次第だ。
娘がある日突然居なくなった。
そうかと思えば、死体が庭に転がっていた。
どうしたらいいかわからず困惑していたら、死体が動き出した。
そして、妻ともう一人の娘がその死体に襲われて…血を流して息絶えた。
私も襲われて、わけのわからないままに人生を終えることとなった。
「…なに?ルージュが暴れている?ブランシュがルージュに殺された!?ルージュがそのままこちらへ向かっている!?」
なんてことだ…まさかそこまでするなんて!
「…けけけけけけ」
「な、なんだ?なんの鳴き声だ?」
「けけけけけけけけけ」
後ろを振り向けば、虚ろな目をしたルージュが居た。
「え、あ」
「けけけけけけけけけけけけけけけ」
けたたましい笑い声と共に、強い力で首を絞められる。
意識が落ちるのはすぐだった。
「…はは、仕掛けは成功。ルージュの仇を取れたかな」
彼らの末路を見届けたところで、ルージュの元の身体への細工も解いた。
ルージュの元の身体は綺麗にしてから土葬してやる。
騒ぎはすごいらしいが、僕には関係ない。
ルージュにもね。
ふと隣にいるルージュを見る。
外の騒ぎにも気付かず、穏やかに眠る。
そんな可愛い無垢な君を、僕が守るからね。
「…ん、妖精王様?」
「ルージュ、無理に起きなくていいよ。まだ眠っておいで」
「はい…」
素直に瞳を閉じる、そんな君も可愛い。
閉じた瞼にキスをする。
それを受けて、幸せそうにふにゃふにゃ笑うものだから余計に愛おしくなってしまう。
「君が可愛すぎてどうにかなりそうだよ、ルージュ」
「んん…」
「愛しているからね」
君のためならなんだってできるくらい、君が好きだよ。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
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