噂の七不思議
こんにちは 風祭 風利です。
今年もやってきました「小説家になろう 夏のホラー小説 2024」に参加させていただきました。
今年のテーマは「噂」です。
それでは本編をどうぞ。
『うちの学校には七不思議がある』
という噂がある。
なぜそんな噂があるのか。 誰が言い始めた噂なのか。 そもそも七不思議自体は存在するのか。 疑問が疑問を呼ぶのが「噂」というものである。
「それで、あんたは信じる? その七不思議の噂。」
俺の所属する新聞部は、夏休み前の号外に向けて1つの題材を徹底的に掘り下げる伝統がある。 去年は確か「歴代校長の石像がなぜ校舎の八方に存在するのか。」だったな。 あれの最終結論は「どこからでも生徒を校長が見ているようにしたかったから」だとか。 生徒思いと言っていいやら悪いやら。
で、そんな俺達の今回の題材は「噂の七不思議」について、存在するのか否かの真相を確かめるための記事にするのだそう。
「どうだろうな。 所詮噂は噂だし、あるならある、無いなら無いじゃねぇの?」
「ロマンがないと言うか、リアリストよねあんた。」
「そういうお前はどうなんだよ堂元。 本当に七不思議はあるって信じてんのか?」
俺に質問を投げた目の前の女子、堂元は「んー」と人差し指を口元に当てて考えた後にこう答えた。
「宮嶋が信じるなら、私も信じるかな。」
「おい。 それ答えになってねぇじゃねぇかよ。」
ハッキリしない解答に俺はツッコミを入れた。 堂々巡りもいいところじゃねぇか。
「別にいいじゃない。 信じるも信じないも自分次第って、怖い物語を語る人も言ってたじゃん。」
「お前自身の意見じゃなきゃ本末転倒だろ。」
「でもどうやって七不思議を探すんだろうね。 七不思議に関する書類とか無くない?」
そこは堂元も同じことを考えていたようだ。 噂なんてものは所詮伝言ゲームのようなもの。 誰かが「ある」と言ったのを面白半分で噂として流したのかもしれないし、実際に遭遇したが信じて貰えなかったから噂止まりになったとも言える。 伝達なんてそんなものだろう。 そんなことを考えながらボンヤリしていると、部室のドアが開かれて、部長が部屋に入ってきた。
「新聞部の皆に朗報だ! 今週末の金曜日、なんと夜間での校内巡回を、条件付きではあるが認めてくれた! これで七不思議の噂の有無が分かるかもしれない。 新聞部としてこれはまたとないチャンス! 今週末に残れるものは私に報告をするように。 以上!」
元気な部長の声に部員はどうするかとあちらこちらで声が上がっていた。
「あんたはどうする?」
「そうさなぁ・・・」
週末まではそこそこあるし、親には先に「帰るのが遅くなる」と言っておけば問題はない。 しかし噂の類いとはいえ1日だけで収穫が得られるとも思えない。 行くだけ損になる可能性もある。 どうしたものか・・・
「今回は集まってくれてありがとう。 部員の半数程ではあるもののこの程度は想定範囲内。 むしろ想像していたよりも多いくらいだ。 感謝するぞ。」
俺は自分の好奇心に負けて夜の学校へと赴いた。 夜のと言っても7時前。 そこまで暗くはない筈なのだが。
「外が雨じゃなきゃ、もう少し気楽に探索できたかもね。」
窓の外を見ればどしゃ降りではないとは言え雨が降っていた。 何時もよりも暗く感じるのはそのためだろう。 とはいえ気になったのは他にもあった。
「お前も来たんだな。 気分的に来ないと思ってたが。」
「宮嶋1人に手柄を取られたくなかったし。」
「1人じゃないだろ。 他の部員もいるんだから。」
観点がずれている気がするが堂元も来ていて、俺を含めて7人程の部員がいるのだから、独り占めしようにも出来ないだろう。
「夜間に校舎にいられる時間は限られている。 そして我々だけでは良くないと言うことで、お目付け役の先生もいる。 本日はよろしくお願いいたします。」
「許可した手前なにかあったら困るからな。」
教員の言い分ももっともである。
「これだけ人数がいるのならある程度分担は出来るな。 丁度男女の数もピッタリだ。 行き先と場所を決めておこう。 我々3年生は南側の校舎を行こう。 2年である2人は西側だ。 2年の教室もあるし行きやすいだろう。」
そう言って部長は俺と堂元を指す。 まあそっちで決めてくれているなら文句は言わない。
「そしてそちらの1年2人で東側を行って貰いたい。 男子はしっかりと女子を守るように。」
「うす!」
ガタイの良い方の男子が元気な声をあげた。 大丈夫なのか? 幽霊とかの類いってああいった元気のあるやつには現れないっていう傾向があるらしいけど。
「残りの君は先生と付いて北側に行って貰いたい。」
「はい。」
前髪を目元まで隠している女子がそう返事をする。 こっちはこっちで不安だ。
「それでは時間もない。 早速探索と行こうではないか。」
そう言って部長ともう一人は歩いていってしまう。 残された俺達もすぐに向かうことにした。
俺の通う学校の校舎は十字型に建てられていて真ん中の昇降口を中心に東西南北に校舎が伸びており、そこに普通の教室や特別教室が存在している。
「とりあえずは上から下に行く感じで回ってみるか。 3階だと音楽室と図書室か。 割りと静かだよな、ここの棟って。」
「午後は上から音楽聞こえてくるから睡眠に良いんだよねぇ。」
「・・・本気で寝てないだろうな?」
そんなこんなで図書室に入る2人。
「というかそもそも七不思議の噂って言われてもどこになんの七不思議があるかなんて聞いたこと無いぞ?」
「その辺りも噂でしかないからねぇ。 だったら七不思議の定番とか、それっぽい感じのやつとかを思い出してみるとか?」
「ここは図書室だから・・・読んだら死ぬ本があるとか、本や本棚が勝手に動き出すとかか?」
俺が思い付く限りの怪異を述べているなか、堂元は図書館の棚から適当な本をいくつか取り出していた。
「読んだら死ぬ本って、タイトルってどうしてるんだろうね。」
「さあな。 英語ならある程度は分かっちまうから、分かりにくい言語とかだろ。」
そんなことを言っていると、いきなり「ゴトッ」という音が後ろから聞こえてきた。 だが後ろを見てもなにもいなかった。
「ここには俺達しかいないから、当然と言えば当然なんだろうけどよぉ・・・」
「・・・どうする? 原因、見に行く?」
「・・・2人で行く必要は無いだろ。 俺が見てくる。」
俺はそのまま音のした場所に行ってみる。 誰かいるのならそれはそれでいい。 いなければ問題ない。 音のした棚と棚の間を確認する。 左右奥を見渡してみても、特にこれといった変化は無かった。 すると足下が少しだけ揺らいだが、すぐに収まった。
「原因は地震か。 そんなことだろうと思ったぜ。」
「宮嶋。 次に行かない?」
「そうだな。 図書室はなにも無し、と。」
そう言って俺達は図書室を出た。 その時に視線を感じたが気のせいって事にした。
「音楽室か。 ってなるとピアノか肖像画辺りか?」
「定番だとそうだよね。」
俺も堂元もほとんど同じ意見だった。 そんな感じでピアノの前に行った俺達は、どこか変わっていないかと確認する。
「ピアノ自体に変化は無し。 変わっていたらそれはそれで怪異だけど。」
「肖像画もなんもないな。 目が動いたとかって言うのも、大体は風のせいだったとかで終わるしな。」
そう言って音楽室を去ろうとした時、ピアノがひとりでに音を奏で始めた。 堂元が何もないことを確認した後なので、明らかに異常なのは目に見えて分かった。
「・・・聞いたら即死のタイプじゃなかったけど・・・」
「どうする? 一緒に振り向く?」
「そうだな。 その方が確実だな。 裏切るなよ。 ・・・せーの!」
俺達は同時に振り返り、ピアノの近くまで戻る。 しかし誰かがいるわけでもなければ、既に音楽も消えていた。
「・・・とりあえずここは七不思議の1つとして数えてもいいよな。」
「そうだね。 タイトルとしては「鳴り響くグランドピアノ」って感じ?」
「だな。 2階に降りようぜ。」
そうして再び音楽室から出る俺達。 もう一度グランドピアノから音楽が奏でられることは無かった。
俺達は階段を下りて2階にやってくる。 と言っても2階は生徒が使う教室があるだけなので、七不思議になりそうなものはないだろうな。
「どうする? スルーでいくか? 後残ってる1階もそんな対した教室無いだろうし。」
「・・・そう・・・だね・・・」
さっきから俺よりも後ろを歩いている堂元の様子がおかしい。 歩幅が何時もよりも狭いし、ちょっと内股気味で・・・
「・・・堂元。 トイレならもう少し進んだところにあるぜ?」
「・・・! うぅー・・・」
どうやら図星だったらしく、俺の事をすっげぇ睨んでくる。 睨まれても分かっちまった事だし、なによりそんなことを恥じる必要は無いだろう。
堂元は諦めたのかトイレに足を運んでいく。 その時に堂元は俺の制服の裾を取ってくる。
「・・・近くにいて。」
「女子トイレの前で待っててやるから。」
「中まで入ってきて。」
「アホ言うな。」
誰も見てないとはいえ女子トイレに入るのは問題があるだろ。 堂元はなかなか離さなかったが、急に裾を掴むのを止めてトイレの中に入っていった。
「・・・まあ気持ちは分からないでもないがな。」
こう言った雰囲気の場所で一人きりになるのは正直俺も嫌だ。 怖い映像なんかを見た後に1人でトイレに行けなくなるあの現象だろう。 ましてや先程怪異を目にしたばかり。 なにが起きるか分からないからこそ余計に心細いのは確かだ。
「雨強くなってきたなぁ。」
ぼんやりと堂元を待ちながら窓から覗く外を見る。 来た時よりも明らかに強くなっている雨は、時に光を発していた。
「うお、雷まで落ちてるのかよ。 これ俺達帰れるのか?」
校舎自体はそこまで長くないから1階に行くまではすぐだろう。 時計を見れば7時半。 これなら何事もなければ家には9時より前には帰れるかもしれない。 その時は流石に雨は止んでいて欲しいものだが。
「宮嶋? そこにいる?」
後ろから声がしたので振り返ると、堂元が用を終えたのか俺のとなりに立っていた。
「おう、終わったか。 だったらとっとと行こうぜ。 ここは教室ばかりだからよっぽど何もないだろ。」
「あ、待ってよ。」
そう言って俺の後ろをついてくる堂元。 足並みは落としてないはずだが、歩くのが遅い気がする。
「どうした? 気分悪いのか?」
「そう言う訳じゃないけど・・・」
そう俺が近付いた瞬間、窓から雷が落ちる音が聞こえた。
「わっ!」
「うおっ! 音が近いな。 大分近くに落ちたんじゃないか?」
「そうかもしれないね。」
そう話している俺と堂元だったが、今の行動で俺の堂元への不信感が確定した。
「・・・何やってんだ? お前。」
「え? わっ!ごめん! そんなつもりは・・・」
「わりぃ、言葉が足りなかったわ。 堂元の姿で何してるんだって言うのが正しかったわ。」
その発言に堂元は驚いた後に、口角をニヤリと上げた。
「ふーん? その根拠は?」
「あいつがここまで俺に気を許してないこと。 そんで雷程度じゃビビらない事の2つだ。 あいつとはなんだかんだで一緒にいることが多かったからな。 あいつの性格は知ってるつもりだ。 概ねトイレの時点で入れ代わったんだろ? ドッペルゲンガーってやつか?」
「ははは。 やっぱり見慣れてる人間にはちょっとの変化じゃ分からないか。」
どうやら本当に代わっているようで、堂元の姿をしたそのなにかはケタケタと笑っていた。
「んで? 本物はどうした? こう言った類いって本物に干渉するらしいが、まさか・・・」
「殺したり消したりはしてないよ。 本当は朝まで気が付かれないかなって思ってたんだけど・・・バレちゃったら意味が無くなっちゃうからね。 まあ彼女にはちょっと怖い想いをして貰ってるだけさ。 でも行くなら早く行った方がいいかもね。」
そう言って堂元の偽物は薄ら笑いをしながら空中に消えていく。 どうやら堂元じゃない「なにか」だったのは確かなようだ。
「っと、そんなことをしてる場合じゃないか!」
命に別状がないなら心配はないが、流石に朝まで待たせる程人として終わってる訳じゃない。 本当は入る理由の無い女子トイレに入る。 そして奥の1つだけ閉まっている個室の戸を叩く。
「堂元! 起きろ堂元!」
すると「キィ」と個室の戸が開かれた。
「なに? いきなり・・・? というか入って来ないんじゃ無かったの?」
「・・・ったく、こっちが偽物見破ってたっつうのに呑気に寝やがって。」
「仕方ないじゃん急に眠たく・・・って偽物?」
「とにかくとっとと出ろ。 先輩達と合流するぞ。 ネタは十分に掴んだんだからな。」
そう言って俺が手を掴んで引っ張ろうとした時に、堂元は俺の手を振り払う。
「あん?」
「・・・あんた、ここ女子トイレなの、忘れてない?」
そう言って堂元は股ぐらをスカートで抑える。 薄明かりに慣れてきた俺の目線はその下の堂元の足になにかが引っ掛かっているのを見た後に・・・個室から出たのだった。
「・・・お待たせ。」
「・・・さっさと行くぞ。」
ちょっと気まずくなった俺達はさっさと1階に行こうと階段まで歩いていると、また雷が落ちる音がした。
「うわぁ。 雷が落ちるなんて、今日はついてないねぇ。」
「・・・やっぱりお前はそんなことじゃビビらないよな。」
「なんの話?」
「いや、偽物の方が可愛げがあったなってことよ。」
「なにそれ。 私が可愛くないって言うのか。」
「少なくとも雷にビビらないのはマイナスだろ。」
軽口を叩きながら俺達は1階に降りていく。 すると既に他のメンバーが戻っていたようで、俺達の帰りを待っていたようだった。
「うむ。 君達が最後のようだな。 戻りが遅かったので心配だったが、五体満足で戻ってきたのならそれでよい。」
こちらとしてはあんまり良くない気持ちになるがな。
その後に俺達はそれぞれ出来事を共有した。 俺達のところが3つなのに対して他が1つずつと言う結果だった。
「うむ。 実際に起きているだけでも儲けもの。 七不思議とまではいかないが、実体験も交えたいい記事になるだろう。」
部長が喜んでおって何よりだと思いながらメンバーを見ていると、ふと違和感を覚え、更に後ろをチラリと見ても、堂元1人だけ確認できた。 つまり・・・
「それではここで解散し・・・」
「ちょっと待ってください部長。 その子、誰ですか?」
部長の後ろに隠れるようにいる、明らかにいなかったはずの女子高生を指差して、みんなの視線をそこに集める。
『おやおや見つかってしまったか。 どうやらその男、霊媒体質が強いらしい。』
その女子高生は部長から離れると、俺達全員に見えやすい位置に立つ。
「・・・君は誰だ? ここの生徒なのか?」
『学校と言うのは噂が広まりやすい。 そしてその噂は強くなればなるほど実体になりやすくなる。 それが何世代も続けば尚更な。』
「君が噂を作り出した、と仮定して良いのかな?」
『それでも構わん。 広めるもここで見なかったことにするもお主達次第。 だが広めるならばそれ相応の覚悟はするのだな。 噂は広まれば留まるところを知らない。 そして拡大すればその噂がどうなるかを、見極められる内に止めておくこともな。』
そうしてその女子高生らしきなにかはまるで霞のように消えていったのだった。
新聞部の記事は夏休みに入る前に作られ、当然ながら「噂の七不思議」についての話題を大々的に公表した。 それに食らい付く生徒はいくらでもいたし、それに対しての教師の警戒も強まった。
だが俺も七不思議の体験者として記事を書かせて貰い、最後の七つ目をどうするかと話し合ったときに、俺の提案した内容で採用された。
『不思議の七つ目 全ての不思議を知ったものに、深淵へと誘おうとする少女が姿を現す。』
いかがでしたでしょうか。
今回のテーマからは紆余曲折させた結果、なんだか本編がしっかりとお題に添ってるか分からなくなっていったのですが、改変するのも手間だったので「もうこのままで良いや」の精神で書いていました。 他にも書かなければいけない小説も多かったので。
それでは今回の短編小説は以上となります。
別の長編作品も投稿しているので、興味がある方は是非そちらも見に来てください。
風祭 風利でした。