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魔王討伐の褒美に王座を要求した勇者の話  作者: 小鳥遊ゆう


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8 『光の年代記』(王国の歴史書)


王国にとって「勇者召喚」は、常に神の導きであり、救国の歴史だった。王国の歴史書『光の年代記』には、次のように記されている。


「勇者、異界より来たり、我らが国を救いし者」




およそ五百年前、歴史に初めて勇者が登場した。


当時の王国は、魔王による度重なる侵略と略奪に苦しんでいた。魔王の放つ邪悪な魔術は大地を腐らせ、作物は枯れ、飢饉に見舞われ、民は飢え、国庫金は尽きた。


国王や貴族たちは魔王を討伐し、魔族の脅威を排除することで国の危難を脱し、人々の暮らしに平和と繁栄をもたらすことができると考えた。


だが、魔王の軍は強大で、王国の軍が正面から戦っても勝ち目はなかった。王国の精鋭たる騎士団ですら、幾度となく魔軍との戦いに挑んだが、その度に敗退を喫した。


竜騎士隊が誇る雷霆の槍も、魔族の硬い皮膚には届かず、城壁をも打ち砕く攻城兵器は、魔王が放つ邪悪な魔術によって一瞬にして鉄屑と化した。


訓練された兵士たちは魔族の放つ異様な瘴気に触れただけで次々と倒れ、戦場は死と恐怖に支配された。


そこで王国が目をつけたのが、古の文献に記されていた「勇者召喚」の儀式だった。異世界から強大な力を持つ「勇者」を呼び出し魔王を討伐するという、神に託された救済だった。


「勇者は、邪悪なる魔王を討ち、かの地の穢れを払い、人々の平和と繁栄をもたらした」


歴史書はそのように、最初の勇者の召喚を記録している。




魔王は、欠乏を極める食糧に、邪悪な魔術で毒を盛った。そのため多くの人々が、苦しみの中、亡くなった。勇者はそのような卑劣な行為や魔国軍の進軍を食い止めるべく、魔国の森へと進軍した。


初代勇者は、まさに神の御業を操る者だった。彼の聖剣の一振りは魔王が放つ邪悪な呪詛の靄を切り裂き、汚染された大地を瞬く間に清めた。聖なる力を帯びた剣は、いかなる闇の魔術をも跳ね返し、魔国の軍は為す術もなく崩壊していった。


勇者は、人間には扱えないはずの強大な神聖魔術を操り、千の魔物を一度に浄化し、その邪悪な魂を神の下へと送った。勇者は魔族を「邪悪な化け物」と断じ、迷うことなく「正義」を執行していった。その神聖なる力によって、多くの王国の民の命が救われた。


歴史書は、その壮絶な戦いを克明に記録している。


「勇者一騎、一万の魔軍を屠り、魔族は屍を積み上げた。魔王の城は、勇者の放つ浄化の炎により、一夜にして清められた。勇者は聖剣を高々と掲げ、魔王の首を落とした」


王国は魔国から、奪われた領土を取り戻した。多くの人々が魔族の支配から解放され、故郷へ戻ることができた。勇者の活躍により、王国の民は、神への信仰をより深めた。


勇者が勝利したという知らせは、瞬く間に王国全土を駆け巡った。誰もが信じられない思いでその報せを聞き、やがて歓喜の叫び声が街中に響き渡った。


王都では鐘が鳴り響き、人々は互いに抱き合い、涙を流して喜びを分かち合った。広場では宴が催され、子どもたちは勇者の聖剣を模した木剣を振り回し、その偉業を称える歌を歌った。


王国の民は、魔王という積年の脅威から解放された安堵と、勇者という救世主への感謝の念で満たされ、彼の活躍を心から信じ、彼への信頼をより一層深めた。


だが、勇者はいつしか、姿を現さなくなった。


ある者は勇者が故郷へ帰ったのだと囁いた。またある者は、勇者が病で斃れたのだと語った。しかし、真相は誰も知らない。


勇者が去った後、魔国は一時的に力を盛り返したが、騎士団の奮闘により、王国の平和は守られた。




それからおよそ百年後、魔国は再びその勢力を強め始めた。それを知った王国は、再び勇者を召喚した。


二代目の勇者は、巧みな戦略で魔王を討伐する者だった。


魔王が王国の要人を誘い出し、奇襲をかける準備をしているという情報がもたらされた。勇者はその罠を逆手に取り、魔王軍の王族を交渉の場に誘き出すという、大胆な策を成功させた。


交渉に集まった魔族の王族を、勇者は見事、一網打尽に討ち取った。これにより魔王軍は指導者を失い、統制を失った。勇者の賢明な判断によって、魔国軍の組織的な侵攻を未然に防ぎ、王国の要人の命を守ることが出来た。


勇者は、王国軍と民の被害を最小限に抑えるため、あらゆる賢明な策を講じた。邪悪な儀式を浄化するため、魔族の拠点の村を焼き払った。また、魔族が水源に毒を流し、王国民を弱体化させようと動くと、勇者は自らその水源を聖なる力で清めた。


魔族が王国軍を欺くため、子供の姿に擬態する邪悪な魔物を使役することもあった。勇者はそれを見抜き、邪悪な魔物を逆に罠として利用し、魔国軍ごと浄化したため、王国軍は被害を免れることが出来た。


鋭い洞察力と機転、叡智と実行力を持つ勇者は、その力で魔国軍を、次々と壊滅させていった。




三代目の勇者は、正義の執行にただならぬ使命感を燃やす者だった。彼は邪悪の根絶を目的とし、人々が苦しめられる元凶を一つ残らず滅ぼそうと奮闘した。


魔族が隠れ潜む森を見つけると、逃げ道を塞ぎ、聖なる火を放ってその邪悪な住処ごと焼き尽くした。


魔王を倒すと、魔王城に居座り、魔族の残党狩りと称して、生き残った悪しき魂を浄化した。


魔族の死骸が山と積もる中、彼は涙を流して天を仰いだという。


その涙は、邪悪な世界から人々を救い出したことへの深い安堵と歓喜の涙であったと、伝えられている。




「勇者様は人の姿をした神の御使いだった。彼の聖剣が放つ光は、魔族の邪悪な心を見抜き、その魂を滅ぼしたのだ。その眼差しに映っていたのは、魔を滅し、命を救ったことへの、純粋な喜びだけだった。」


(『神の導きと勇者の偉業』大司教アベルの言語録より)





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