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魔王討伐の褒美に王座を要求した勇者の話  作者: 小鳥遊ゆう


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6/12

6 勇者、召喚される

フライ返し=聖剣ポジ?


勇者が少女の目の前から消えた同時刻ーー。王国の王城、謁見の間は、厳かな空気に満ちていた。


壁には色鮮やかなステンドグラスがはめ込まれ神々の姿が描かれている。王国の聖職者たちが厳かに祈りを捧げる中、魔法陣が淡い光を放ち始めた。


玉座には、傲慢な笑みを浮かべた国王が座っている。その隣には宰相と老侯爵が、いかにも権威主義的な顔つきで控えていた。彼らの視線は、魔法陣の中心に注がれている。


「古き文書に記されし、異界の理を解き放て。時空の狭間を越え、魂の響きを聞き届けよ。我らが求めしは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。かの地の理に縛られぬ、神の血を引く者を、この地に導きたまえ。さあ、今こそ、かの地より来たりて、この世界を救う者となれ……」


老侯爵の厳かな詠唱が響き渡ると、魔法陣の光は眩いほどに輝き、激しい風が謁見の間を吹き荒れた。光が収まると、魔法陣の中心には質素な服を着た青年が立っていた。


青年は、()()()()()()()()()()()()を思わず見つめ、眼前に広がる豪華絢爛な玉座の間、そして、いかにも権威主義的な顔つきの国王や宰相、老侯爵を戸惑いながら見渡した。


「一体、何が起こったのですか?  あなたたちは誰で、ここはどこですか?」


青年が戸惑いながらも尋ねると、国王は冷たい笑みを浮かべた。


「ふむ、混乱しているか。まぁ、異界の理に縛られぬそなたの魂を、無理やりこの地に引きずり込んだのだ。些細なことよ」


国王は玉座から身を乗り出すこともなく、あごをしゃくって宰相を促した。その言葉の端々から《勇者》であっても、平民と見下している傲慢さがにじみ出ていた。


宰相が鼻で笑った。


「そなたのような平民を王宮に呼び出した意味を教えてやろう。 陛下は、魔王討伐という大いなる使命をそなたに与えてくださろうとしているのだ。普通ならば、平民は一生かかっても陛下の御顔を拝することもできぬのだ、有り難く思わぬか?」


青年は、畳みかけるように尋ねた。


「では、教えてください。魔王とはどのような存在なのですか? そして魔王討伐を必要とするに至った経緯は?  私に対する支援と、恩賞についてもお聞かせください」


青年が質問を終えると、宰相は、傲慢な態度で続けた。


「……まあよい。無知なる異界の平民のために、この宰相たる私が特別に教えてやろう」


宰相は、青年を見下すような視線を投げかける。


「魔王とは、この世界を破滅に導かんとする邪悪な存在。その力は強大で、我が国の精鋭騎士団をもってしても、討伐は叶わなかった。故に、我々はそなたのような異世界の力に頼らざるを得なかったのだ。これが、魔王討伐を必要とするに至った経緯だ」


老侯爵が、宰相の言葉に続く。


「そして支援と恩賞についてだが、そなたには武器や防具、そして食糧を授けよう。魔王討伐を成し遂げた暁には、国王陛下が褒美を取らせることになっている。平民のそなたには、想像もつかぬほどの栄誉と富が約束されるのだ。さあ、感謝せよ」


青年は、王国の高官たちの言葉に頷いた。


「では、まず汝の名を告げよ。」


老侯爵が、呪符のようなものを手に青年に迫る。それは、真の名を記すことで、その者を操ることを可能にする王国の秘術だった。老侯爵は、この儀式で、勇者を完全に支配下に置けることに、密かな興奮を覚えていた。


「俺の名は、タナカ・イチロー」


青年が告げた名を聞き、老侯爵は呪文を唱え、聞いた名を呪符に刻み込む。すると呪符は淡い光を放った。老侯爵は安堵の表情を浮かべ、宰相も満足そうに頷く。


呪符を使えば、《勇者》を操り人形にできるのだ。勇者が逆らった場合の切り札になる。


「とても良い名ですな。さすがはタナカイチロー殿、異界の名は我らが知るものとは全く違う。しかし、これでお互い良い関係を築けそうですな」


老侯爵はにこやかに語り、さりげなく青年の告げた名を口に出す。


「では、次に盟約を交わしましょう。魔王討伐を成し遂げた暁には陛下が褒美を取らせることを、保証する為のものです」


今度は宰相が、怪しげな紋様の描かれた床に青年を誘う。


紋様は、契約魔法の陣。陣の上で交わした言葉は、魔法の強制力を持って縛られる。


「では、勇者よ。()()()()()()()()()()、魔王討伐に臨む。魔王討伐の暁には、褒美を取らせる。それでよろしいですな?」


「内容を理解した」


青年は、頷きながら答えた。


「宰相殿、契約は成ったようですな」


老侯爵が、笑顔で確認を取る。これで、勇者は完全に王国の支配下だ。「国王陛下に忠誠を誓う」という言質を取ったことで、彼らはそう確信した。


「話は分かった。では、俺は直ぐに魔王討伐に向かおう」


青年は話は終わったとばかりに、言葉を重ねることもなく、その場を後にしようとする。


「お、お待ちください! 勇者殿!」


宰相が慌てて叫んだ。


「いやいや。私はすぐにでも魔王討伐に向かいます。一刻も早くこの世界を救わねばならない。あなた方がおっしゃるように、この世界は破滅の危機に瀕しているのでしょう?  時間を無駄にしている暇はありません」


青年は、まくしたてるように言い放ち、謁見の間を出ようと一歩踏み出した。


「お、お待ちください! 勇者殿! 陛下は、そなたのような偉大なる勇者に、ささやかな旅の供をつけようと考えております。旅路の安全確保と、道中の案内役として、我が国の誇る騎士を一人、そなたの旅のお供につけよう」


「いえ、結構です。旅路が遅くなります。それに私のような平民が、身分の高い方を煩わせるわけにはまいりませんから」


「な、なんじゃと?  貴族たる騎士が、そなたのような平民の供になると言ってやっておるのだぞ! この上ない名誉であろう!」


老侯爵は柔和な笑みを保ちながらも、その声には苛立ちが滲んでいた。勇者が自分たちの意図を見抜いているのではないかと、一瞬、一抹の不安を覚えた。


勇者に供をつけようとしたのは、道中の監視と万が一の裏切りを防ぐためだ。しかし青年はそれを拒否した。


「ご提案は大変ありがたいのですが、不要です。本当に一刻も早く、魔王を討伐しなければならない。それとも、私の魔王討伐を妨害しようというのですか?  契約を破棄するつもりですか?」


青年の言葉に、国王、宰相、老侯爵は、再び顔を見合わせた。


「ち、違う!  そうではない!  契約は破棄などせぬ!」


契約魔法の強制力で、青年を縛りつけるはずだったのに、なぜこのような態度を取るのか。彼らの顔には、焦りと困惑が浮かんでいた。


(そうか! わかったぞ!)


老侯爵が、ひっそりと宰相に耳打ちした。


「あの男は、魔法契約の『魔王討伐』という言葉に、真摯に向き合っているのだ。魔王を倒すためなら、休むことも、無駄な時間も許されないと、そう考えている!」


したり顔で囁く老侯爵の言葉に、宰相も目を丸くして頷き、納得した。


「なるほど、そういうことか! 異世界の人間は、契約というものを我々以上に重んじるのかもしれん。いや、それどころか……」


「待て! 勇者よ!」


国王が声を張り上げた。その声には、若干の苛立ちが混じっていた。


「わ、わかった。そなたの言う通り、旅の準備は不要だ。すぐに魔王討伐に向かうがよい。しかし、お主は魔王の情報を知らぬはずだ。そこで我が国に古くから伝わる魔王城までの地図と、魔王の情報が記された書物を貸し与えよう。それらを参考に旅を進めるといい。それとこれを持っていけ。旅の資金と、せめてもの防具だ。少ないが、道中助けになるだろう」


国王は、宰相から差し出された地図と書物、白銀の胸当て、そして小袋を青年に手渡した。


「感謝する。では、すぐに魔王討伐に向かおう」


青年はにこやかに頷き、今度こそ謁見の間を後にするため扉を開けた。その顔には、彼らには見抜けない冷ややかな笑みが浮かんでいた。


「では、私は行きます」


「はは、さすがは勇者様だ。契約を真摯に受け止めておられる。まさか、一刻も早く魔王を倒したいからと言って、旅の準備もせずに城を出て行こうとするとは……」


老侯爵は、安堵の表情を浮かべた。


「ふむ、これで後は、勇者が魔王を討伐するのを待つだけだ。さあ、宴の準備を始めようではないか」




国王は、満足げに頷く。彼らが呼び出した《勇者》は、契約の言葉に忠実で、魔王討伐という使命に燃えている。


彼らは、すべてが思い通りに進む未来を、信じて疑わない。



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